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第三十話 主人公、初遠征に従軍するのこと。その三 帰還、そして出会い

俺たちは本陣で一泊したあと、一度野営を行ってからヴルドに帰ってきた。なんだろう、勝ち戦なのは間違いないんだけど、微妙に温度差を感じる。


中央と右翼を担当した部隊は何となくやさぐれてる。欲求不満をため込んでる感じ?


まあ、勇んで出かけていって、戦闘がなかったわけだから、ってことなんだろう。特に山越えで脚を怪我した奴なんかはやさぐれている。


俺たちのいた左翼の部隊は、なんか他の部隊に対して「いい気になってる」?これは怪我で退却した奴も含めて、だな。特に弓兵隊の初年兵は態度がでかい。歩兵隊でも二年兵、三年兵はちょっと鼻高々。


じゃ、俺たち初年兵は?

俺もサンダも含めて「どんより」だ。


これまで仕留めて喰ってきた、魚や鳥、獣とやっぱりゴブリンは違う。いや、だからゴブリンを喰いたいって訳ではないんだけど、やっぱり「人を殺したんだなー」って感じがするんだよね。


や、ゴブリンが人じゃないなんてそんなん解ってる。解ってるんだ、頭では。でもやっぱりあの槍を突き立てたときの手応えとか、剣を突き入れたときの感触。そしてあの「目」。冷えていく体温。




あーーーーーー。



桐には初年兵が俺しかいないから、どうしても鬱々としちゃう。いかんいかん。ブッシさんは先輩だけど、年下って言うのがどうしてもあって、なんかこういう愚痴を言うのもなんか悔しい。あの幼い顔にしたり顔で言われた日には、余計溜まるわ!


鬱々しててもしょうがないので、非番の日に一人で新市街へ飲みにでた。


クソー・・・。


ヴルドの酒は、麦を使っているが、ビールのような発泡酒ではない。なんだかどろっとしてる、濁り酒だ。東京じゃ飲んだことないって言うか、酒自体東京では飲んだことがないってことになってるぞ。うん。飲んだこと無い、飲んだこと無い。


食事というよりかおつまみ。これは「焼いた小鳥」か。結構グロいな。海で取れた塩をまぶして、火であぶってある。

それとなんかの野菜。根菜と葉物を塩漬けなのか、しょっぱくしてある。

これをスプーンで食べる。


ヴルドに来て驚いたのが、食事にフォークや箸と言った、突き刺す系の食器を使わないこと。焼き物は串焼きだし、パン類は手づかみ。そして野菜類は・・・。スプーン。

はー・・・。スープなんかはスプーンで掬ったあとにパンで綺麗に皿をぬぐって、綺麗にするのがマナー。後片付けが大変だからね。

肉類が載っていた皿なんかも、食べ終わったあとはパンで綺麗にする。

こうすると皿も綺麗になるし、パンも肉汁で柔らかく美味しくなって、一石二鳥も三鳥にもなる。


その代わりこの皿を俺の前に誰が使ったのか解らんが、そこはそれ。まあ、元々皿に口をつける奴はいないので、ノープロブレム。



パン料理の変形なのか、ピザ風のものがあった。ピザとはちょっと違って、大きいパンにのせて焼くのではなく、小さな薄いパンに焼いてある具が乗っている。二口三口で食べやすい。


肉料理では時々串刺しのでっかい肉のかたまりを持って女将さんがテーブルを回る。好きなところをナイフで切らせてもらって手前の皿に取り分ける。

その間に女の子がパンを運んでくる。


食べ終わったあとの皿を綺麗にするのは、ヴルドのマナーだ。


おっと、酒が終わった。


「おーい、酒のおかわりー」


「はーい」

ってびっくりした!すぐ脇から返事するなよ。気がついたら店の女の子が一人、隣に座っていやがる。ああ、びっくりした。


「驚かすなよ」


「えへへ、ごめんね。兵隊さんがなんか落ち込んでるみたいだったからさ」


だって。そんなに落ち込んでいたかな?

おちこんでたか、やっぱり。そうだよなぁ・・・。


「この間ので出番なかったの?」


「ウーン、どっちかって言うと逆。一人倒したよ」


「エー、凄いじゃない。それでなんで落ち込んでるの?女の子に振られた?」


なんでそういう話になる。

「そもそも付き合ってる子なんていないし」


「エー本当?兵隊さんなんてモテモテなのにー」


そうなのか。それは知らなかった。

「それはたぶん、あれだ。いわゆる、ただし、イケメンに限るって奴だな」


クソ、大爆笑された。

「何それー。兵隊さんはみんな格好いいよー。女の子なんてみんな、兵隊さんと知り合いになりたくてお店来てるんだから」

へー・・・。

「それは君もそうなの?」


って聞いたら

「うふふ、内緒」だって。


ちきしょー、可愛いじゃねえかこのやろー!惚れちゃうだろー!こんな落ち込んでるときにそんな事いわれたらさー。


ヤバイ、これはヤバイ。やむを得ん、かたまり肉を届いたおかわりで一気に流し込んで、店を出る。


ちなみにヴルドでの飲食は基本先払いで、伝票とかレシートとかないので、無銭飲食じゃない。ってか、この世界にまずレジとかない。


あっても電気がないんじゃ使えないか。俺のスマホと一緒だ。捨てるのもなんかもったいなくて、基本的に初期装備は全部とってあるが、スマホは二日目にバッテリー切れで、役に立たないものナンバーワン。


こういう電力とか、通信網とかが普及してるのって、凄いことなんだなぁと改めてしみじみする。


店を出ると路地が暗いなんてものじゃない。街灯もないヴルドでは、街中でも夜空に銀河が見える。


「ありがとうございましたー。またいらして下さいねー。レオさん」


ナヌ!?

いつの間に俺の名前を!


ショックと酒で、頭をぐるぐるさせながら河を渡り、北門を通って街をふらふらたどって、宿舎に着く。ヴルド兵たるもの、酒は飲んでも飲まれるな。


っていやいや、ヘンス副隊長が寝台から転げ落ちつつ寝てるし!明らかに泥酔してるし!酒瓶握ったままだし!どこで飲んできたんだこんなに・・・。


「うー、帰ったぞー」

「帰ったぞー」


いやいや桐二の三年兵コンビか。ちょうどよかった。


「トールさん、ガウさん、手伝ってください。副隊長をベッドに戻します」


「いひゃひゃひゃ」

いひゃひゃや無いがな。


三人で副隊長をベッドに乗せたら、酔いが一気に回ってきた。ブッシさんが平和そうな顔で眠ってる。ムー・・・。なんか腹立つー!



ベッドに潜り込んだら、酔いのせいか一気に眠り込んでしまった。数日間の行軍は、思っていた以上に疲れが溜まっていたみたいだった。

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