第二十三話 主人公、軍事教練をすること。その一 基礎鍛錬
ヴルドの兵員登録はあっという間だ。何しろ村長の書状を見せて名前を書いてもらうだけでいい。とはいえ、山間の村組は大変だ。何しろこれまでまともな名前と言えるようなものがない。
急に「名前を言え」と言われてパッと出てくるわけがない。
まあ、俺だけはあっという間に登録されたが、当然漢字登録はできずに単に「ヤマザキ・レオ」になる。
とはいえ、周りで大勢ウンウン唸っているうちに日が暮れ、ほとんど登録できないまま、仮宿舎へと行くことになった。
宿舎ではまず、食堂での食事になる。とはいえ、パンが一つとスープだけ。持参した食料については今後は不要になるので、食堂に入った際に厨房に引き渡される。
これらの一部は明日からの食事になるのだろう。
食堂ではそれぞれの出身ごとにグループで食事をした。もちろん俺たちもだ。何日もまともと言えるような食事をとってない俺たちにしてみればけっこうなごちそうだったが、まあ、正直この食事が何年も続くようなら相当ゲンナリものだが・・・。
食事を終えたらもう睡眠だ。東京ならまだ7時とか8時とかだろう。この半年で俺もすっかり夜が早くなった。尤も、寝覚め自体が4時とか5時な訳だから、睡眠時間自体は十分だ。
寝室自体は大部屋だ。二段積みの寝台が整列している。グループごとに寝台を二つずつ使用するわけだから、俺たちは部屋の端から順番に荷物を置いていく。
ちなみに、寝台はまさに寝台で、東京でみられるようなベッドじゃない。何しろ木で作った枠に、麦わらのような草が詰め込まれて麻布をかぶせてあるだけのような代物だ。四隅には頑丈な柱が立てられ、上の段を支える。
こんなものでも俺たちには至福のベッド。
ベッドに上がって荷物を枕に、ブランケットを被ったらもう意識はなかった。
翌朝は割と早い時間にやたらうるさい鉦のようなものを鳴らした目覚ましが回ってきたが、ほとんどのものにそんなもの要らなかった。隣の部屋で鳴らしていた音で、とっくに目が覚めている。脂だらけの目をこすりこすり、部屋の中央に整列する。
「全員整列!」
いや、目覚まし係さん、俺たちとっくに整列してるし。
「全員俺についてこい」
「「「はい!」」うむ。朝から三郎みたいに元気のいい奴は結構いるんだな。
連れてこられたのは昨日の登録所だった。そういえばほとんど登録できてないんだったなぁ・・・。大丈夫かと思って、三人を振り返ったが、意外と三郎が「ドヤ顔」をしている。ほほう。
まだうだうだやっているグループもあったが、山間の村組はさっさと登録に行った。済んだものから、建物の外で待つように言われたので、俺たちはさっさと外に出る。
三郎はよほど山賊に思うところがあったのだろう、「サンダ」で登録したという。ほとんどパクリじゃねえか。
四郎は「ユーラ」。次郎は「ゼファー」。ん・・・。どっかで聞いたことある。ここは突っ込まないでおこう。冷静に考えると、次郎はちょっと中二病っぽい。
陽もすっかり昇って、全員が表に整列した。教官らしい兵士が数人、俺たちの所にくる。
「整列!!
「本日から貴様らの教導を担当する!ジーク、ドーファン、グルガである」一人ずつ前に進み出る。
「呼びかけるときにはかならず「殿」をつけて呼ぶように!」
おおー、軍隊っぽい・・・。
「早速教導に入る!貴様らの後ろに胴、槍、兜があるので、身につけろ!」
威勢のいい返事とともに俺たちは一式ずつおいてある武具の所に行き、身につけていく。鎧かと思ったが胴だけだ。剣道の胴とも違い、腰鎧のようなものさえない。しかも超重い。重くて何が辛いって、むちゃくちゃ肩に食い込むのが辛い。身動きするたびに肩に食い込む。
兜もひどい。サイズが大きすぎるか小さすぎるかしかない。頭のでかい奴はとんでもないことになってるし、俺は兜がでかすぎた。これまたクソ重い。脳天がぎりぎりと痛む。
槍はまあ痛くはないがこれまた重い。
これらを装備してふたたび整列した。誰に言われたわけでもないが、出身グループごとに並んでいる。俺は山間の村グループの最後尾だ。
「よし、全員右を向け!
「行進!」
これはひどい・・・。何がって、全員の歩調だ。もうてんでバラバラ、行進と呼べるようなものじゃない。
「とまれ!!!!」
「おまえらー!行進と言われたら、歩調をあわせんか!」
ボコッ!
ひええ・・・。棒で殴られてるよ〜〜・・・。
俺たちはそのまま、昼前まで行進訓練を受け続けた。
文字量が少ないですが、今回はこれまで・・・。




