第二十二話 主人公、ヴルド市に着くこと。
山賊達と別れ、山脈から山地へ下って、二日もした頃、俺たちは城塞都市ヴルドを目にできた。山上からみたその異世界都市は中々ふしぎな形をしている。
ヴルドは河沿いに発達した都市だが、その河自体がヴルドの防衛システムに組み込まれていて、ヴルドは河の左右で大きく姿を変える。河の北側、左岸では比較的緩やかな都市形成で、畑の広がりは不規則、建物もそれほど密集して居らず、言うなれば「超大きい山間の村」といった風情だ。木造建築も多く、2階建てか高くても3階程度にみえる。建物と建物の間に土壁や生け垣、防風林があったりするのも特徴だ。また、都市周辺の防壁も土塁が多く、空堀が目立つ。
一方、ヴルド本体は違う。
右河岸に沿ってまず大規模な堤防が築かれ、石で護岸されている。更に、その上に石造りの城壁があり、所々には物見だろうか、櫓のような構造がある。それがかなり上流、それこそ、山地が切れるあたりからその防壁、堤防が築かれている。
橋は架かって居らず、そこここに渡しのための桟橋がある。
河の上流は堤防だけの河岸が数キロ続き、かなり下流になってから河岸に城壁が建つ。そして更に下流へ行くと城塞都市ヴルドの威容がある。城壁は細長くヴルドの南北を挟み、渡河した敵への備えとなる。陸上の備えの一つは河から取り込んだ用水路だ。
主な用途は農業用水だろうが、明らかに防衛を意識している。複雑にヴルドを巡り、敵の跳梁を許さないと主張する。また、用水路のヴルド側にはかならず防壁があり、用水路に架かっている橋にはかならず扉がある。
そういう、用水路と防壁に囲まれた区画は大きさこそほぼ同等ながら、形は不規則に連なり、ヴルド本体の大規模城壁へと連なっている。
そう言う都市区画からヴルド本城は更に一段、周囲を石積みで盛り上げれている。さながら日本の平山城。盛り上げている高さそのものは1メートルほどだが、盛り上がりの周囲にはやはり用水路が巡り、堀として機能している。また、当然上に城壁を築いていて、都市部から塀の上端までは3メートルほどになる。堀の深さを考えるに、かなり堅固な作りだ。この盛り上がり部分は日本の城でいえば本丸に当たるのだろう。ヴルド全体から見れば1/5ほどだが、ヴルド自体の大きさがかなりあるため、本丸区画も相当な大きさがある。
その本丸の南端、北側からみた場合の「ヴルドのどん詰まり」にひときわ大きな建造物群があった。これがヴルド公の居城になるのだろう。日本の城のような天守閣ではなく、どれが最大とも言えない建物群だ。
それにしてもこの防御は凄い。逆にいえば、それだけ北方からの侵攻が厳しかったのだろう。
とはいえ、居城の中心にはおそらくヴルド公のであろう、きらびやかな旗が翩翻と翻っていた。今日のヴルドは安泰であるという印だな。
山から下りると、河沿いにヴルドへ下っていくことになる。山間の村は川の右岸にあったが、合流などの関係で道は左岸だった。今、合流を繰り返して大きな河となった山間の川は俺たちの右手にみえる。下り勾配は緩やかになり、とても歩きやすい。道ばたには秋の草花が咲いている。日本と同じ草花かどうかさえ分からないが。
ヴルドに入るためにはどこかで渡河をしなければいけない。村長がいうにはヴルドの中心まで下ってから渡った方が楽らしい。確かにあの区画割では早めに下った場合、いちいち用水路に設けた橋の門を沢山抜けなければいけないわけだしな。これだけ防衛に心を砕いているヴルドだ、入城にはそれはそれは厳しい検査があるだろう。そんな検査をいちいち門をくぐるたびに受けていたのでは堪ったものじゃない。
一方北側は緩い。何しろ大きな城門が一つだけ。
ふと気がつくと、周りには結構俺たちと同じような集団がいて、俺たち同様ヴルドを目指して歩いていた。どれも14〜5歳の男子、4人ずつのグループだ。いや、大きめの集団は8人だ。
なるほど、これが応召組ってことか。兵役組。あー、どいつもこいつも次郎だの三郎だのいってるわ。
俺の感覚からいえば、もうちょっと浮かれててもいいような気もするが、どのグループもそんな浮ついた空気はない。俺たち同様に「ちょっとした試練」を経験してきたんだろうか。
道がヴルド市街に入ると、左右にいろいろな商店、宿屋などが建ち並ぶようになる。かなり賑やかだ。呼び込みのお姉ちゃん、おっちゃん、おばちゃん。それぞれが声を張り上げる。
ふと、空を見上げると空が茜に色づいている。影も前方にかなり伸びている。午後も遅くなってきたようだ。周りの兵役組でも「そろそろどこか宿を探すか」なんて話が聞こえてくる。
「さて、じゃあ俺たちも宿を探すか」なんて、三郎が明るくいうが、四郎が冷たい突っ込みを入れた。
「泊まるのはいいけど、僕たちお金を持ってないよ」
うへえ・・・。
「何言ってんだよ、これだけ苦労したんだぞ!最後ぐらい豪華な宿にとまんなきゃどうするんだよ!」
何を言い出すんだこいつは・・・・。「うん、俺のいた国にはこういう諺がある。無い袖は振れないっていうんだ」
「良いことを言うね」とは四郎。「こっちでは貧乏人が見栄をはったら首をつるっていうよ」
うへえ・・・。どうして四郎はこういう言い方をする。正論過ぎて言い返せない。
「先を急いで、河を渡るべきだな」とは次郎。
「だね」ってことで多数決。賛成多数で先を急ぐことになりました。
ちらっと「渡し賃が足りるのか?」と思ったが、そう渡し守にいうと応召組については責任者、俺たちの場合は村長だが、その責任者の書いた書状を見せればただでいいそうだ。なるほど。もちろんその書状は定形で、ヴルド公の公式文書となる。
渡し場には2本の桟橋があり、それぞれ2艘、合計4艘の渡し船があった。一艘あたり、船頭を別に8人乗れる。最適化されてるなぁ・・・。
河は一見緩やかだが、中央の流れはけっこう早い。これは変な舟では流されるぞと思ったけれど、よく見ると河には左右岸にロープが渡してあって、舟の滑車に通してある。船頭は竿で河床をついて進んでいくが、これなら万一船頭に何かあっても乗客だけでも渡れる。
舟には俺たちともう一組、兵役組が乗った。どちらも緊張していて、会話どころじゃない。こういう時三郎が話の口火を切るのだが、ふてくされててそれどころじゃない。
南岸の桟橋に上がり、堤防を登ると、そこにヴルドの北大門があった。左右には体格のいい兵隊さんが並んで、入城希望者のチェックをしている。一人の兵士に村長の書状を見せると「あっちへ行くんだ」と指示された。
そちらをみると比較的貧乏そうな兵役組が20人ほど固まってたっている。
俺たちも指示通りそちらに行ったのだが、バラバラに立っているのが何となく気持ち悪かった。三人に言って整列する。
俺たちが並ぶと兵隊さんがこっちに来た。
「整列!」
いよいよ俺たちの軍隊生活が始まるのか。
玲央は緊張している。
三郎はふて腐れている。
四郎は緊張している。
次郎は何を考えているのか分からない。




