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第二十話 主人公、山賊と共にゆくこと。

「そこまでか、オイ!」

山賊がすごむ。三郎はそのまま山賊の体重に負けて膝をついてしまった。

もの凄い形相で山賊をにらみつけている。


「なら・・・」山賊はそういうとソードを振りかぶる。

やべえ!斬られる!


ヒュッという風を切る音がするが、俺はまったく動けなかった。三郎は、膝をついた姿勢のまま、固まっていた。


アレ?


山賊のソードは三郎のヘルムにちょっと食い込んで止まっている。


「なーんちゃって。

「ね、びびった、びびった?」

自棄に明るいぞ、山賊。


ぽかーんとする俺たちをみながら、山賊達が大爆笑する。


「いやー、わりぃわりぃ。

「あんまりおまえらが威勢いいもんだから、ちょっとからかいたくなってさー」


なってさーじゃない!ほんとに斬られるかと思ったぞ。


パタ。


あ、三郎が白目むいて倒れた。


「ここだとちょっと邪魔だ。こいつ運んでちょっとこっち来い」

とは山賊のお頭。


俺と次郎で三郎を運ぶ。四郎は三郎の荷物を持つ。


次の尾根をちょっと上った場所に物見台か、木材で組んだ台があった。そこに三郎を寝かせ、山賊と向き合うように座る。

一番上座に座った山賊がさっきのお頭だ。次席が三郎を脅した奴。最後に殿の四郎を脅した奴、山賊は3人か。


ちょっと息が上がった俺たちを余所に、平然としている。

「あー、驚かして済まなかった」とはお頭。


「はぁ」

気の抜けたような返事だが、実際こんなもんだろうよ。


「まあ、俺たちが山賊っていうのは本当だ。ただし、むやみに襲ったりしているわけではない。元々は国の兵隊だしな。兵隊だが、怪我をしたりとか、組織に合わないとかで兵隊が続けられなくなったのが俺たちだ。山間の村に帰っても家はないしな」


「俺たち同郷なんですか!」四郎も驚くよな、ウン。


「土地勘のない所じゃ山賊はできん。とはいえ、村には居場所がないわけだから、当然近場が縄張りになる。でも村を襲ったりはしないぜ。徴兵されたことには納得している」


「なるほど」


「主なシノギは通行料だ。村に出入りする商人達を野獣たちから守っている。その代わり通行料をいただくって寸法だ。基本は現金だが、必要なものなら現物でも受けてる。保存食やらなんやらだ。

「それから、国から国境警備も請け負う。北方の蛮族が山越えをして侵入することもあるからな。その場合はその旨報告を入れて、成果に見合った報酬を国から受け取る」


「国境警備隊を置けばいいんでは?」


「うむ」

お頭はちょっとおもしろがってるのか?

「国境警備隊を置くとなると、俺たちみたいに出来高で支払いするって訳にいかなくなる。建物も建てにゃならんし、食料やら武器道具の支給もバカにならないだろう。そうかと言って仮にも国の兵士が商人から金を受け取って警護するって訳にもいくまい。余所の国の商人だっているわけだから」


なるほど、山賊は体のいい予備役兵置き場って訳か。


「あとはおまえ達のような徴兵組の、基礎検査をする」


お頭、笑顔が怖いんですけど・・・。


「時々どうにもならないほど慌ててしまう奴もいるからな。まあそういう奴も訓練されれば落ち着いて使い物になるかもしれないが、山賊におびえて兵隊なんてできないような奴はふるい落とすことができる。

「その点おまえ達はまあ、何とかなるだろう。体力不足は訓練すれば何とかなるしな」


「本当ですか」とは四郎。


「ウーン」話し合っている間に三郎の気がついたようだ。「はっ!」起き上がろうとするが、猛烈に痛がる。ああー、筋肉痛か。


「おう、起きたか。

「今日はもう筋肉痛で山道は下れまい。飯はおごってやるから今晩は泊まっていけ」


「お、いいんですかい、お頭?」


「おまえ、ノリいいな」末席の人に笑われてしまった。


「ふっ」次郎はもう・・・。



山間の日暮れは早い。気がついたら風がちょっと肌寒い。遠くでカラスが啼くようだったら懐かしい風情なんだが、さすがは異世界、なんだか訳の解らん鳥の啼き声が長く尾を引いていた。


「じゃ、移動するぞ。荷物を持ってついてこい」


え、次席の人、ここに泊まるんじゃないの?

「バカだなおまえ、こんなところに泊まったら、夜露で風邪引くぞ」


なるほど。


意識を取り戻した三郎にざっと説明して、荷物を持たせ、俺たちは尾根を登った。アジトはまあ、お世辞にも立派とはいいがたい物だったが、屋根はあり、壁の基礎は石で組んであるまあ、そこそこのものだった。村の建物同様に板壁に漆喰を塗ってある。床はざっと平に均して板が敷いてあった。中央には囲炉裏のような暖房兼煮炊き場がある。


「お帰りなさいやし!」


「おう!帰ったぜ」声を揃えて出迎える二人の男に、お頭が応える。

「徴兵は今年も四人だ」


「ヘイ!」


「宜しくお願いしまーす」ついつい肩身が狭い。



村から仕入れたらしい根菜やら干し肉やらとの煮物のようだ。この二人が作っていたのだろう。


「いただきまーす」

しばらく荷物などを片付けて場所を作ってから食事をした。さすがに普段5〜6人で暮らしている家で、10人弱が寝食をするのはやや狭い。


温かい煮物を食べたあと、俺たちはちょっと寝苦しいほど暖かい寝床で一晩を過ごした。


三郎あたりは夜遅くまで騒いでいるかと思ったが、この二晩の野宿が疲れたのだろう、俺も含めてあっという間に眠ってしまった。



山賊だということを考えたら、少しうかつに過ぎないかともちらっと頭をかすめたが、暖かいブランケットがまぶたを強力に接着してしまった・・・。


なんとも暢気なことだ。

玲央は何も考えられない。

三郎は何も考えていない。

次郎は何を考えているか解らない。

四郎は何を考えようか考えているうちに眠ってしまった。

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