第十九話 主人公、山賊に襲わるること。
二日目。
ゆるゆると川沿いの道を下っていく。昼には休憩がてら、夕食用の魚を捕る。二匹取れたために、夕食は半身ずつ。次郎がすぐに捌いて、ワタは取ってしまった。ついでに蟷螂の足を目に通して、ぶら下げていく。
二日目の行程も滞りなく進んだ。
三日目、昼間では滞りなかったが、昼に魚を捕ることは叶わなかった。少し道の左右が険しい。川までは少し下らなければいけないし、逆側は山肌が切り立っている。
まあ、食料にはまだ余裕があるし、無理をして魚を捕ろうとして怪我をする危険を冒すことはない。そう俺たちは判断して先に進む。
ひょいと切り立った崖の曲がりを曲がると、戦闘を歩いていた俺の胸元にソードの切っ先が突きつけられていた!
「危ねえ!」
危うく立ち止まってブッスリというのは避けられた。
「わぁ!」後ろから四郎の叫びが聞こえた。奴は殿だったはずだ。
俺の目の前に立つのは不貞不貞しい面構えのむさ苦しい男。その後ろにもまだいるらしい。
腰の蟷螂剣をとろうとすると、
「おっと!」といってソードがちくりと手を刺す。
「痛っ!」
「悪ぃ悪ぃ。でも武器を取らせるわけにゃいかねえからな。おとなしくするんだ」
「なんだお前ぇ!」三郎は元気がいいな、元気だけは相変わらず。
「武器を取るなってんだよ!」
「いていていて」
武器に手を伸ばしたの、俺じゃねえって。
「くっそー、この役立たず!」
いってくれるじゃないか。
「あー、おとなしくしてれば痛い目には遭わないぜ?」
あーそうッスかー。
「俺たちはあー。まあ、山賊だ。金目のものを置いていけば、命だけは勘弁してやる」
オー。それは何より。
「俺たち金目のものなんか持ってないぜ!」
それ威張っていうこと?
「何しろこれから兵役に就くんだからな。ま、いってみれば俺たち自身が税金みたいなもんだ」
三郎、おまえ何胸張ってんだ。
「あー。そうなの?」
まあ、確かに金目のものは持ってないしねえ・・・。
「じゃあ、どうしよっかなー・・・」
いやいやいや、どうしようもないしさ。
「このまま川に飛び込んでもらって、黙ってもらっちゃおうかなー」
いやいやいや、そんなことしなくても黙ってるしさ。
「うるせぇよ!やんのかコラ!」
三郎おまえは黙ってろよ。
「へー、元気いいねー」
「いやいやいや、元気よくないッスよ。今朝もちょっと鬱気味で」
「ぷ」
「コラ!玲央!」
「おもしれえ!ワハハ」
「おまえ、玲央っていうのか。面白い名前だな。村のもんじゃねえな?」
「え、ええ・・・」
よくおわかりで。
「どうする?お頭?」
「あー。まあいいや。行っていいぜ」
「わぁった!オイおまえら、ついてるな、行っていいってさ」
おお、ラッキー。
「ふざけるなー!」あ、三郎!
「おおっと!」
俺の脇から抜剣して飛び出した三郎だが、斬りかかったソードはあっさり躱された。地面の小石に当たって硬い音を立てる。
ふたたびソードを振りかぶって斬りかかるが、掠る気配もない。
三度斬りかかるが、これも躱される。
「はぁ、はぁ」
三郎の息が上がってきている。山賊との実力差は歴然だ。なんだかんだいってもソードは重い。体力があるといっても、ソードを打つ体力と斬りかかる体力では違うのだろう。
四撃目を躱されたあとの剣に脚を乗せられ、体重を乗せられたらもう持ち上げる体力は既になかった。
やべえ、山賊の目が怖いぞ。
「そこまでか、オイ!」
玲央は命の危険を感じている。
三郎は体力が半減した。
次郎は周囲を警戒している。
四郎はびくついている。




