第十八話 主人公、旅立つこと。
地球時間で半月ほどだろうか、15日ほどの学習と訓練を経て、俺たち徴兵組はついにヴルドへと旅立つときが来た。わざわざ地球時間でと書くのには訳があり、こちらの世界で月は地球よりも小さいものが、年に4回とちょっとだけ巡るからだ。つまり、四季と月がほぼ対応するわけで、一月が80日前後になる。この世界の暦は使いにくい。
ともあれ、俺たち四人は村の心づくしで装備を調え、旅立った。村としても万一俺たちが全滅でもした日には「脱税」という事になり、追徴されることを考えれば、装備に手抜きをするわけにはいかない。
基本的には村で普段着ている服、それに狩りの際に着る毛皮の上っ張り、革の帽子に木で補強を入れたヘルムもどきが基本装備だが、俺は元々着ていた服が割とこの旅装に近いためにそっちにして、ヘルムもどきだけを追加した。
武器に関しては鍛冶屋の三男が自家製のソードを手挟み、俺が蟷螂の剣と盾、これらは村にいる間に手を加え、持ち手をつけている。ザッカーさん所の次男は漁で使う四又の銛、エンドヮさん所の四男は使い慣れている大鎌を戦闘に使えるように改造したもの。確かサイズっていったか、鎌の刃の部分が回転でき、柄とまっすぐになるように固定できる。弓のような投射武器は俺たち全員が使い慣れていなかったためになし。更に俺と三男はリーチに不安があるので、3メートルほどの木の棒を持たされた。この棒は材料のせいかよくしなり、使いこなすにはちょっと修練が要りそうだった。
ヴルドへは川沿いの道があるので、飲料水の不安はほぼ無い。ほぼ無いが全員、水筒状の容器に水は詰め込んだ。俺だけは蟷螂の足にフタができるように加工した、ちょっと異様な水筒だが。
それに乾燥肉と、川魚の干物、ソーセージを少々。カチカチに小麦粉を固めて焼いた、パンというかクッキーのようなもの。尤もザッカーさん所の次男もエンドヮさん所の四男もいるので、川魚や山野草の調達も可能なんじゃないかと期待している。
食料面で俺と鍛冶屋の三男はあまり当てにならない。
それから生活用品として各自に毛布、というか厚手のシート。羊毛のような素材らしく、雨具にもなるし、夜具にもなる。燃料は3日分ほどの薪だから、途中で追加調達する必要があるかもしれない。とはいえ、これだけの装備だからあまり燃料ばかりを持っていくわけにもいくまい。
燃料なんかは炭を作っておけば、結構コンパクトになると思うのだが、三人とも炭なんか知らなかった。どうやって作るのか自棄に追究されたが、俺自身よく知らん。炭焼き窯とか聞いたような気もするが、どうなんだろうね。
「ちっ、おまえやっぱり使えねえー」
「ク、クソ」
こいつホントに口悪い。
更に四人で一つの大きめの鍋。燃料を持っていっても鍋がなければ、あまり意味がないからな。
荷物は基本、背負子のようなものにまとめて、背に負う。腰につけられるような水筒類、補助武器類、ナイフ類は腰に帯びる。
これらのような装備を整え、俺たち兵役組は第三月も残り10日ほどになった頃、村人たちから見送られながらヴルドへと旅立ったのだった。
一日目は昼前頃に山間の村を出、川沿いの道をゆるゆると下る。村の上流にはやや開けた平地があったが、下流にそういうものはなく、川は山の間を縫うように下っていく。遠回りのようになるが、直線距離で思ったほどには進めない。川岸を伝っていくにも橋などなく、川に入らなくてはいけないことを考えてやっぱり尋常に道を下る。
話題に事欠いたので、俺はあらためて自己紹介してみた。なんにしても「鍛冶屋の三男」とか、「農家のエンドヮさん所の四男」とか「猟師のザッカーさん所の次男」とか、呼びにくいからな。
って思ったら、全員から「?」な顔をされた。
「いや、だって俺は名乗ったけど、おまえたちの名前知らないからさ」
「だって俺たち名乗ってるし」
え!?
「なぁ」
「うん、僕たち名乗ってるよ」
「・・・」
「まさか3男とかって名前なのか?」
「ったりめーだろ、きちんと大人になるまで何番目の男か女かわかれば十分じゃねえか」
「うちをつぐのは一人だけだし、ね」
「あとは村を出て商売か軍人かで名を上げるぐらいだな」
マジか。
「ってことはあれか、三男は三郎ってことなのか?」
「だからそうだって言ってんだろ、玲央はバカだなー」
むう、そうすると鍛冶屋の三男じゃなくって、三郎・ブラックスミスなのか。ある意味スゲえ。
「あれ、それじゃエンドヮさんとか、ザッカーさんってのは?」
「うちみたいな農家や、漁師は村に何軒もあるからね。鍛冶屋みたいにはいかないんだよ。だからうちは村の奥の方にあるからエンドヮ、ザッカーさん所は渓流に入って銛や釣りをするんだよ。どっちも長男が家を継いだら、長男がエンドヮ、ザッカーになるの」
そうなのか・・・。異世界、奥が深いぜ。
「逆に、ヤマザキとか、玲央とかってのの意味を教えてよ」
え゛!?
「玲央はええとあれだ、生まれ月。いや、ちょっと違うなぁ・・・。獅子座の説明がしにくいな」
生まれた月を動物で表すって言うのも違うし、星座はあるけど地球と獅子座が違うしなぁ・・・。
「ふーん。じゃ、ヤマザキって?」
「知らん」
「「「え?」」」
次郎までが声を出して驚くか!
「山には関係してると思うんだけどさ、崎が・・・。
「崎って、岬って意味なんだけど」
「岬ってなんだよー」
「えーと、海に飛び出している陸地でな」
「半島のこと?」
「え!半島と岬の違い?知らん知らん。考えたこともねえ」
「自分の家名だろ?家の名前をよく知らないで、よく名乗れるよな」
く、悔しい・・・。こんな異世界でガキンチョにここまで小馬鹿にされるとは。
こうして一日目の行程を終え、山間のキャンプ地のような所で俺たちは一晩の宿を取った。ソーセージなどは他に比べて足が速いので、初日の食卓に上った。
玲央は異世界で旅立った。
旅の装備をえた。
自分のルーツについて考えた。




