第十七話 主人公、異世界について学ぶのこと。その三 魔法の実技、社会制度について
村長による、魔法の講義というか、訓練が始まった。
最初に行ったのは村の誰でもが最初に行う「魔法を感じること」。呼吸を整え、姿勢を正し、力を抜く。
はじめはまっすぐ立った状態から。
肩幅程度に足を開いて、全身はハンガーで吊したコートのように。頭頂がハンガーのフックのイメージ。
なるほど。
呼吸は息を吐くときに腹をふくらませ、吸うときにへこませる。胸は意識しないで腹で呼吸する。
口は使わずに鼻で、五つ数えながら息を吸い、五つ数えながらはいていく。できるだけ音がしないようにゆっくりと。力は入れない。姿勢は崩さない。
って難しいな意外とオイ。特に力を抜くのがわかりにくいが、きちんと力が抜けると体がずしっと重くなる。体が軽く感じられなければ、まだ力が入っていると村長はいった。
数日はこれだけだった。
次に体を動かす。といっても結構迂遠な方法だった。
基本の姿勢から腕を上げるのだが、無意識に上げない。
腕にみえないひもを結んで、そのひもをイメージで持ち上げていく。
おお、おお。
出来るようになると変な感じだ。
何しろ力が抜けているのは腕の重さでよくわかる。その腕が次第に持ち上がっていく。
誰かに引っ張られるように。
これが出来るようになったら、体で円を作る。
脚を広げる幅を広げ、肩幅より広くする。膝は軽く曲げ、やや開く。正面から見たときに脚全体が半円を描くように。
上体はそのままだが、持ち上げた腕で円を作る。水平方向に、肘はゆるめて腕全体で円を作る。
両掌は緩く開いて、ボールを持つかのように丸くする。ここの掌のあいだに火の玉のイメージを作る。
うまくできてくると実際に暖かさを感じるようになる。氷の球をイメージすれば、手が冷たくなる。
更に腕や体を「何か」がぐるぐる巡り出す感じがし始める。その「何か」が掌のあいだに集中するようにイメージして・・・。
やった!
一瞬だけれども確かに炎が光った!
おお、おお。
それにしてもなんだろなー、この妙な「オリエンタル感」。魔法っていうか「気功」とか「カンフー」みたいな感じ。変なの。
もちろん社会科の勉強も続いている。
この世界には身分制度がある。ある程度は予想していたが、予想よりはやや緩やかなイメージだ。
たとえば王侯貴族階級があるが、これは絶対的な物ではないという。たとえばアールの王はアールの教えを守る者から選抜される。アール教での宗教者は別に独身である必要はないが、アールの教王?は世襲ではないわけだ。
一方で、ヴルド公は基本的に世襲になる。とはいえ、部下たちに認められない公子は例え長男であっても公太子にはなれず単なる「公族」として一生を終える。
部下たちも北方異民族からの侵略が絶えない情勢では無能な公を戴く気にはなれずに公后や内室たちの出る幕はほぼない。
もちろん過去には何度もお家騒動はあった。有能な公子が複数でてヴルドの覇権を争う事態になり、将軍たちも二手三手に分かれて相争ったが、北方民族の侵略によっていたい目に遭い、和解することになった。
将軍たちも基本は世襲制であるが、あまりに息子が無能であれば、涙をのんで廃嫡し、次男三男、果ては娘婿や養子に家督を譲るということもあった。
その娘婿や養子には兵士や官吏から抜擢されることもあり、こういった公務員への登用はある意味では出世コースとも言えるのだとか。
とはいえ、兵士から将軍になるのは大変だろうなぁ・・・。
一応俺もこれから兵士になるわけだけど・・・。
「村長。俺たちこれから兵士になるんだけど、そこからたとえば貴族の婿とか養子とかになるにはどうしたらいいの?」
「あ、俺も聞きてえ」
「なるほどな。徴募された兵士の場合はそのままでは4年で兵役を終え、帰郷するのが普通だ」
「ええー・・・」
「とはいえ、四年間生き延びれたら、という条件付きになるね。新兵は最初の戦闘で十人中九人が死ぬか怪我で退役することになる。死んだものは実家に恩給が支払われて終わるが、退役軍人は恩給が払われ続けて一生を終える」
「へえ、それじゃ怪我した方が得?」
「そうはならないね。恩給の額も退役した際の階級によるし、仕事は基本的にできないから、市民たちからの敬意も階級次第。すると新兵で怪我を負って退役するのはあまり得とは言えないよね。
「まあ、脳みそが筋肉みたいな奴でなければ、優先的に官吏へ登用されることもあるというから、そうなればまだ目はあることになる」
「エーだって、たった四年じゃ将軍になれないじゃんさ」
おお、三男、食い下がるな。
「それはそうだ。四年で兵役期限が切れた者は、軍から志願するかどうかを聞かれる。志願した場合には下士官として職業軍人になる。職業軍人になると一度軍学校に入学して学問や一段上の訓練を受けることができるようになり、優秀な者は更に上の士官になれるかもしれない。
「職業軍人になった場合には、本人が望むまで軍役につけるっていうぞ」
「おおー。俺ぜってー職業軍人になるぜ」
「僕は官吏になりたい」
おお、四男、おまえはそっち方面か。
「どっちにしても四年間怪我なく生き延びるのが大事だよね」
「そうだね。四人とも無事に勤め上げて欲しいね」
次男は無口だけど良いこと言うよね。
玲央は異世界知識を深めた。
玲央は魔法Lv1を手に入れた。




