第十五話 主人公、異世界について学ぶのこと。その一 地理について
基本的な言葉がある程度理解出来るようになった夏の終わりに、他の兵役組と一緒にこの社会について村長から学び始めた。
まずこの世界には大きな大陸が三つ知られている。村長は「三つある」といっていたが、俺はまだ未発見の大陸がある可能性はあると思っている。
一つ目は俺たちがいる西大陸。北の極地から大きく弧を描いた細長い大陸で、湾曲の内側、東側に内大洋を抱える。東岸の方が島は多く、沿岸にいくつかの列島がある。
北の極地付近では凍結した氷の大地があるが、地球のような北極海らしい。わずかに地峡によって東大陸に接続され、東大陸との交流はほぼ海路だけに限定されている。
西大陸の中央は山脈がそびえ、東岸と西岸とでは大きく気候も異なる上に交流は山脈のすき間を縫うように行われている。もちろん西大陸の南端でも可能だ。南端に近くなると山脈は低くなり、比較的開けた地形となり都市国家が乱立しているという事になる。
西岸からは「外大洋」が広がっているが、島嶼は少なく、何人かの冒険家が旅立った物の、帰還者は皆無で果てがどうなっているのかはまだ知られていない。
俺が転移したこの「山間の村」は西大陸中緯度地方にあり、気候としては比較的安定してる東海岸で平野部分と山脈とのほぼ中間にある。
俺が下ってきた瀧のある川、「山間の川」は山脈の氷河が水源で、遡っていくとどんどん急峻な山脈に上っていくことになる。
人の文化圏としてはほぼ「山間の村」がどん詰まりという事になる。
もちろん、山脈の中には縦走可能な部分があるので、そういう所にはもっと発展した村や町が栄えることになる。
また、山間の川は他の河川と合流して大きくなり、内大洋に注ぎ込む。当然そこでは大きな街が栄えており、辺り一帯を支配している。
この王家というか都が俺たちが徴兵される「ヴルド」になる。急にでてきた固有名詞に面食らったが、村長も知らない語源によって「ヴルド家=ヴルドの支配者」となっていた。
ただ、王家といっても貨幣を発行しているということではないために、地球でいう所の「公」になる。
港湾都市、農業都市としても栄え、比較的豊かな都市がヴルドであるが、一方で豊かであるが故に、北方からの侵略に備える必要がある。北方には様々な異民族がいて、常に南下する機会、略奪の機会を窺っている。
南に下ると都市国家は細分化され、都市単独で行政を行っている。ヴルドからは乾燥地帯を経て亜熱帯気候の地域になる。この地域は毎年嵐や雨期に襲われるためにヴルドよりは貧しい国家が多く、自然は豊かな物の、戦争や略奪の絶えない、荒れた地域になる。
東海岸の乾燥地帯にあるのが、宗教国家「アール」になる。この世界では珍しく唯一神を国教とする国家で宗教指導者が元首として国家を支配している。ヴルドの貨幣もアールで発行された物で、唯一神の横顔が裏面に刻まれている。
地球の唯一神は偶像崇拝を禁じているために、俺的にはなんだかふしぎな貨幣にみえた。
北の守りを固めるヴルドの発言力はアールでも無視できない物で、なかなか優遇されているとのこと。そのためにヴルドの祖神信仰やその他の自然神信仰も黙認されている。
西大陸西岸は東岸よりもより凶暴な生物が多く、地球でいう所のモンスター、たとえば空を飛ぶ龍、火を吐く龍、スライムみたいな不定形生物や大型昆虫類、その他訳の解らん物が跋扈しているらしい。
村長的には「ちょっとびびらせたる」ぐらいの話だったのだろうが、俺にしてみればそんな所にまで進出しようっていう人間の方にびびった。
火を吐く龍とか向かってきたら、どうにもなん無いと思うんだけどなー・・・。
北の地峡で接続されている東大陸についてはよくわかっていないことも多いらしい。西海岸が内大洋に面しているのは確実らしいが、東海岸が解らない。あまり東海岸にまで人間が進出していないらしい。
東大陸全体は西大陸より乾燥していて、中高緯度地方と南端など一部地域でのみ緑があるそうだ。
東大陸南端付近で南北が入れ替わり、南半球になる(村長はそういう表現はしなかった。おそらくこの世界が惑星であるという知識がない所為だろう。一方でこの「南北が入れ替わる」という表現から俺はこの世界が惑星だということを確信した)。
東大陸南端からは「東海峡」を経てこの世界で最も偉大だといわれている「南大陸」となる。面積は西大陸の数倍で南端は氷に閉ざされて知られていない。山脈から広大な平原、平野、大地が広がり西端はほぼ西大陸の真南にある。
南大陸は最も豊かな大地であり、数百の国家が乱立して覇権を競っている。いってみれば戦国時代である。
ヴルドからも腕に覚えのある物が南に渡り、王としてたったなんて英雄譚があるという話だ。村長的にあまり興味がない所為で、英雄譚があった気がする程度という凄く曖昧な話。
一方でおれと一緒に話を聞いていた鍛冶屋の三男、こいつも兵役に就く関係でこの英雄譚に眼をキラキラさせていた。単純なやつめ。
同じく話を聞いていた農家のエンドヮさんとこの四男は、火を吐く龍の話で顔が青ざめていた。
兵役組はもう一人、漁師のザッカーさんとこの次男がいる。通常次男はあまり兵役にでないのだが、ザッカーさん所は三男もいて、こいつが厄介叔父になるってことで次男が「都会に行きたい」ってわがままをかなえることができた。
実際には兵役に就く以上はあんまり都会に出たっていいことないんだろうけど、その辺はやっぱり年頃の男の子ってことだろう。
ついでにいえば俺がこれだけ優遇されているのも、この兵役割当が今年については人数割れしていた所為だ。毎年山間の村からヴルドに4人の兵役割当があるのだが、今年はちょうどいい年齢の男子が3人しかおらず、どうした物かと困っていたってことだ。
長男は当然出せないし、次男を出すというと長男に何かあったらと考えれば不安要素になる。もちろん女子では兵役に就くことさえできないわけだから、ちょっとちっちゃいけれども何人か下の子を出すとか出さないとかって話も出かけていたそうだ。
そんな所に俺のようなちょっと歳はいってるけど、兵役に出そうが魔物に喰われようが全然惜しくない男子が来たのが渡りに船ってことだ。俺に言わせるとせっかく来た異世界なのになんてひどいって思わなくもないが、どんな親でも自分の子より他人の子ってことだろう。
それにしても、毎年四人を兵役に出した上で、自分の家の後継者まで生んで育てなきゃいけないんだから、異世界の村人っていうのも大変だよなぁ・・・。
村の生産量を考えれば、嫡流以外を養う余裕はないだろうから、安易な分家もできないしなあ・・・。
増えすぎても減りすぎてもいけないのか。田舎暮らしも大変だこりゃ・・・。兵役組が外の話で眼をキラキラさせるのも理由があるってことだな。次男や三男、ましてや四男なんて、この村にいる限り未来はないようなもんだものなぁ・・・。
俺もそういう意味では未来をつかんだと言えなくもない訳か。分家すら十分にできないのに、俺が一軒家を持つなんて無理だもんなぁ・・・。
玲央は異世界知識を得た。




