第十四話 主人公、異世界での生活を始めるのこと。
「山間の村」は固有名詞である。
もちろん現地の言葉でナンチャラカンチャラと言うわけだが、結局の所カナ筆記では正しく表現できない上に、全く意味が伝わらないため日本語訳することにする。
その「山間の村」での生活は、一言で言ってみれば散々なものだった。
せっかく助かったのであるから、この「山間の村」での生活基盤を築きたかったのだが、それはことごとく失敗に終わった。
まず、異世界ファンタジーでよくある「冒険者」のたぐい。
「山間の村」はそれほど余裕のある地域ではなく、冒険者のような「常駐兵」などは置く余裕がない。巨大蟷螂のような年に数件あるバイオハザードに対しては猟師が対応する。
彼ら猟師は武装した上でチームを編成し、山中でさまざまな動物を狩る。基本は食肉だが、皮革素材、骨や角、爪なども確保対象となる。
当然数年にわたるチーム行動による連携は不可欠な上、体力、技能、知識などが必要不可欠であるが、俺はこの猟師としてどれもがまったく欠けていた。
何しろ言葉がわからない以上、連携などできない。現代日本で育ったために体力は決定的に不足している、弓や剣などの扱いもできない、この異世界の生物知識は巨大蟷螂のみといった有様。
これでは通常の村民よりも危険性が高い猟師になど俺がなれるわけがなかった。
次の候補は村で最も従事人口の多い農民。
これは全ての農家から拒否されるという事態によってあえなく挫折した。どの家も子供は十分にいて、後継者には困らない。おまけにどんな奴かもわからん者を家に入れるわけにもいかない。娘などを変に傷物にされるのも困る。服なども余裕がない。などなど、出るわ出るわ。
漁師、牛飼い、羊飼いは猟師とほぼ同様。
村に一軒ずつしかなかった大工、鍛冶屋、細工師、建具屋、左官屋、焼き物屋もほぼ同様。村の子供達は小さいうちから家業を手伝い、体力の問題はあるもののほぼ10代前半には一人前になる。子供の多い少ないはあるが、そういうものは「奉公」という形で対応する。つまり、子供の多い家から少ない家に跡取りを前提に小さいうちから修行にだすわけだ。
「料理で異世界グルメをいちころ」なんて無理だった。
最初に試したのは作った覚えのあるチャーハンだが、この村には米がなかった。正確にいえば「試そうとした」か。
ラーメン、うどん、スパゲッティのような「ゆで麺系」も没。やってみると分かるが、毎日生活用水を川に汲みに行くというのは大変な労働だ。そんな水を何リットルという単位で無駄に捨てるゆで麺などは贅沢に過ぎる。
せいぜい小麦粉を使ったパン、まんじゅうのような蒸しパン、湯餃のようなものが主食だった。
揚げ物などは問題外。何しろそもそも脂っこい物は食器の洗浄が大変という理由から忌避される傾向にあり、祭りのような行事でもなければ食べられない。そこへ持ってきて大量の廃油が出る揚げ物などは、試すことすら叶わなかった。
一番受けがよかったのがマヨネーズだが、これとて「一日仕事で調味料が皿一杯」という世界だ。
村長によれば「祭りの時にお披露目しよう」だった。
そこで出た結論は「夏の間村長家で世話になりながら、言葉や社会知識を学び、秋の兵募で兵役に就く」だった。
村長は40ぐらいの、え、42?だってさ。ええと、男で、初孫に恵まれた物のまだまだ働き盛り。
若い頃に街に出て学問と商売を学び、長男の早世とともに故郷に錦を飾った村一番の出世頭で、村で唯一の商家を営んでいる。
街に出たコネを活かして外部との取引をし、村に貨幣をもたらしている。
また、村であぶれた次男、三男は村長の下で商売や学問を学び、街に出る礎にするわけだ。
いわばその「村長塾」で夏の間、俺は兵士修行をすることになったわけである。同級生が俺よりも5つは幼いだろう少年達だというのが居心地悪いが、実際の所体格と実年齢をのぞけば彼らと俺はほぼ同等だった・・・。
現代教育役に立たねー・・・。
玲央は実学Lv1をえた。
玲央は世界知識Lv1をえた。
体力がわずかに向上した。




