第十二話 主人公、異世界で二度目の二泊をするのこと。
苦しかった。
何度目かの「目覚め」だったが、これほど苦しいと思ったことは初めてかもしれない。何度も息を吸い込んで、逆に過呼吸になりかけた。
こうしてはいられない。せっかく見つけた人の痕跡だ。見失うわけにはいかないだろう。
まずは蟷螂を片付けよう。
奴はこちらが動けば反射的に攻撃してくる。チョロいものだ。
一度は手こずったフットワークだが、それほど複雑なものではない。
あっさりと倒すと、まだ息のあるうちにどんどんばらしていく。
役に立たなかった触角は放置して、脚、胸甲、羽根を外していく。
まとめて抱え、左にあるはずの川を目指す。
まだ早いので、腹ごしらえは良いだろう。胸甲の洗浄が先だ。奴を倒すことよりもよほど重労働と言える。
洗い終わっても、まだそれほど遅くはなっていなかった。
とっとと脚を腰に下げ、まだ濡れている胸甲と羽布団を左脇に抱えて川沿いに下り始める。
日が陰ってくる頃には瀧の水音が聞こえてきた。
瀧周辺は足場が悪い。
一晩は瀧の周りで過ごさざるを得ないだろう。脚を一本食べてから水を汲み、少し森に入って寝床を確保する。
木に背中を預け、羽布団を使って眠りにつく。胸甲は左手に保持しておく。
ヒンヤリとしていて、あまり寝やすくなかった。
あまり眠った感はなく、早々に目覚めた。あたりはまだ薄暗く、霧だか瀧の飛沫だかで視界はよくない。体の芯が冷えて、動きはよくない。まあ、こうして目覚められたのだから、夜襲で死んだりはしなかったんだろう。
なんだか節々が痛い。
まずは足下に気をつけながら滝に出て、滝壺を迂回しよう。
霧が心配だったが、なんとか滝壺に落ちることもなく崖の迂回が出来た。霧が晴れてくる頃には下り坂になってくる。
慎重に坂を下る。
昼頃には麓の林についた。
これならば今日中にあの人達を見つけられるだろう。つい浮かれそうになるが、気をつけなくてはいけない。奴らも問答無用で矢を射かけてきたのだ。
うん。こっちも無言で接近したので、蟷螂のような化け物だと思われたのかもしれないか。黒ずくめだし、林の陰から出てきたらびびってもしょうがないかも・・・。
うねる川沿いに下りながら、そう思い始める。そうか、それならば接近するときには警戒されないような声を出した方が良いか。
叫び声では余計に警戒される。おーいとかなんかそんなのが良いかも知れない。
そろそろだろうと思ったが、あれ・・・?
前回は感じられた気配がない。接近していない以上、警戒はされないと思うのだが。
うむ、日も暮れてきたな。
振り返ってみると、後ろの空が見事な夕焼けだ。
距離的にはもう遭遇地点だろうと思うのだけれど、この調子では今日中には遭遇出来ないだろう。
川沿いではちょっと眠れないので、林の方に入って二晩目の野営をする。
明日には彼らと遭遇出来るだろうか。
話が出来たら、彼らはどんな風に答えてくれるのだろうか。
一晩目と違って少し温んだ土の上で、俺は二晩目の眠りについた。




