第十一話 主人公、異世界の人にであうのこと。
夢は結局見れなかったのか、それとも覚えていられなかっただけなのかよくわからなかった。三日目の朝と言っていいのか。そのあたりも怪しい。なんだか沢山の朝を迎えた気もする。
夕べの夜襲で自慢の羽布団がちょっと痛んでしまった。とはいえ、こんなもの直しようもない。針と糸さえあればという物でもないしな。
今日あたりに民家が見つからないとちょっと厳しい。主に食料面で。蟷螂の脚は食い出があるが、そろそろ匂いが変わってきた。思いきって全部食べてしまい、空いた殻には川から水を汲む。川沿いに下っているのだから、それほど神経質にならなくてもいいと思ってしまうが、滝壺の下で足を滑らせたときの恐怖が蘇る。
あのときはあまりに自暴自棄になって、川に飛び込んでしまった。同じ失敗は繰り返したくない。知らずに犯した失敗ならまだしも、わかってて繰り返すというのはあまりに知恵がなさ過ぎる。
顔を洗い、荷物をまとめる。
周囲を見渡すと風景はずいぶん変わっていた。夕べは暗くてよくわからなかったからな。川の周囲は谷川だった所がやや開け、林が続いている。下ってきた山は左右に大きく開いて、谷の左右を形成する。川は林の中を左右にうねりながら続いているようだ。
ええと確か、高低差がある川はまっすぐで、逆だとうねるんだったな。平野があるなら、人間が住むことも可能かもしれない。
日差しからすれば、南東の方角に川が流れているようだ。まあ、ここが南半球でなければ、の話だが。
季節は春から、初夏だろうか。林の中でいろいろな木が芽吹いている。なんて木だかよくわからんが。林を突っ切って近道をしたくなるが、やっぱり向こうが見通せない林には警戒心が起きる。
ただ、林になったせいで、足下がおぼつかないのは困る。水気を含んだ土で、グッチャグッチャと盛大な足音がする。これはこれで危険かもしれない。襲われたときにフットワークも利かないしな。
川がみえる範囲で林に入るか。
腰の前肢をすぐに取れるよう、確認しておく。左に甲羅を握っている関係で、右手に物は持ちたくない。
林に入れば下生えを踏む音がガサガサと盛大にする。うむ。足音という意味においては、林に入った意味はあまりない。
数時間して右側の山上に太陽がかかる昼頃、人の声が聞こえた気がした。
何を言ってるのかよくわからないが、犬とかではないだろう。声質の違うふたつ以上の声が、交互にではないが発せられている。
こういう時に見通しの悪い林は困る。
とりあえずそちらに向かおう、このままでは干上がる。
下生えを乗り越え、いよいよ声が近くなってきた。息が上がりかかるが足は止まらない。
もうすぐだ、もうすぐ。
あれ、声が静かだ・・・。何かあったのか。
川岸に出て、林の暗がりから明るい川面にたどり着いたそのとき、対岸に人影が見えた。
やった!と思ったそのとき、胸に衝撃がある。
あれ?痛え・・・。
何これ、なんで胸から矢が生えてんの・・・・?
二本、三本・・・。
声を出そうとするが、息が吸えない!吐けない。喉の奥からものすごい量の血が出てくる。苦しい。吐き出すが、後から後から吹きだしてくる。
何か叫び声が聞こえるが、何を言っているのかわからん・・・。
苦しい、息が出来ない。
猛烈な苦しさにのたうち回りながら、俺はまた意識を失ってしまった。
あののどかな風景は一体何だったんだと何かを呪いながら・・・。
玲央は最長生存記録を更新した。
全てのアイテムがリセットされた。




