第百五話 ライバル、未知の村を探すのこと。その三 村を発見する
翌朝は割と早くから皆起き出した。ケントとナナの犬人二人は自由に水浴びできないことが若干不満な様子。山の尾根では水浴びできるほどの水量は確保できない。
意外だったのはグッガも不満げだったこと。ゴブリン達にもそれぐらい水浴が浸透しているのか。個人的には嬉しいのだけれども、ゴブリンの文化を破壊していないかと思うと少しばかりの不安がある。夏だというのに山の上はやはりかなり冷える。
それでも生い茂った草木がある分だけ過ごしやすい。まばらな木々の枝の間から朝日が差し、世界が目覚めていく。
目指しているのはあちらか。夕べは早くに陰になり、あまり様子を見ることができなかったので、振り返って行く先を木々の間から窺う。
はっきりと村があるというようには見えない。
うむ。見えない。が、あるはずだと思ってみるならば、木々が伐採されて地表の見えている斜面の近くがそうか。皆で集まって、とりあえずの目標として示した。
軽く朝食をとって、水で口を湿らせ、荷物を担ぎ上げる。
斜面は緩やかとは言え、やはりきつい。
フウフウと息を荒げながら、登っていく。
登るにつれて、次第に木々がまばらになってくる。
目標を窺うとかなり近い高度になっているのが解る。これまでは尾根伝いに登って来たが、ここからは山腹を進もうか、それとも一度尾根伝いに目標の上にでてから山腹を下ろうか。
道のない山腹を進めば迷う危険がある。
ここはやはり、獣道を見付けるまでは尾根筋を登るか。
皆とそう話をして、再び登り始めた。時折見かける果樹は、明らかに熟しておらず美味そうには見えないが、貴重な水分だ。青い木の実が酸っぱい。
毒がなければいいが。
見上げると空が青い。遠くの水平線には入道雲が見える。あの雲の下には夕立が降っているのだろうか、それとも雷雨、スコールだろうか。
高く猛禽が輪を描いて空を昇っている。
目標地の近くに細い水流が解るようになった。間違いない。水流は渓流だろうか、それとも瀧か。
尾根から目標地へといくルートを想定してみるが、起伏が解らないのでどうにも定まらない。獣道はまだ見えない。
やむなく登り続ける。
考えてみれば、獣道が無く村への行程が厳しいという事は逆に言えば件の村からコボルト村へは容易に攻め込めないという事だ。考え様に因ってはいいことだとも言える。
みればこの尾根筋も人が通っているようには見えない。
そう思いかけたが、油断は禁物と気を引き締め直す。普段使っていないからと言って、有事の際にも使われないとは限らない。一ノ谷の例もある。いかんいかん。
さらに登るともう、低木ばかりになる。山腹の植生が変わった。一気に見晴らしがよくなり、目標地が眼下に望めるようになっている。尾根はまだまだ登っているが、沢の水源が見える。ここからなら山腹を伝って、目標地に達することができるだろうか。
皆と示し合わせて山腹に進む。沢の近くまでいければ、水が確保できるはずだ。随分汗をかき、喉を湿らせたので、水筒が随分軽くなっている。昼を過ぎた日差しも容赦ない。少し山腹を進んで小休止をする。
座ってしまうともう立てないから、立ったままで軽く腹に収めて喉を潤す。
夏の日差しを浴びながら、またすぐに進み始める。
まずは沢だ。
夕方になる前に太陽は山の斜面に隠れて翳ってしまった。一気に冷え込み始める。
上下を窺って今夜の宿を探す。やや下ったところに岩が突出していた。充分とは言えないが、斜面に眠るよりはましだろう。岩が充分強固であることを確認して、荷を下ろす。半分瀧のような沢から、水を汲んでくる。
岩にもどって腰を下ろすと、眼下の景色が見えた。
まだ夕方には早い。瀧のように轟々という音はないが、それでもさらさらよりはよほど確りした水の音が聞こえる。その水の音を背景にこの世界の雄大な景色が広がっている。
眼下の斜面は次第に傾斜を緩くしながら、山腹の森へと吸い込まれている。目標地と定めた空白地はやはり畑のような耕作地だ。さらに少し下に村が見える。ビンゴだ。村には木々が茂り、規模などは特定できないが、数軒の屋根が見える。
僅かに見える地面は、麓に続く道か。昨年登りかけたあの道に相違有るまい。となるとこの脇を下る沢はあの、川の支流か。左にみえる山地の尾根をずっと辿ってきたのだな。遠くには山波が連なり、さらに遠くに水平線が見える。入道雲は姿を変えもはや見当たらない。
右手の遠くにはヴルドがあるのだろう。ここからは山肌の陰になって見えないが。
さて、とりあえず毛布に包まり眠るとしよう。この岩場で転げ落ちたら命はない。それほど寝相の悪いものはいないが、安全策をとって長目の縄で互いを結んでおこう。
毛布もみんなで被ればテント擬きだ。




