第百三話 ライバル、未知の村を探すのこと。その一 渓流を見付ける
普段であればコボルト村から外部へはいったん川を渡ってから南、東、北へと進む。コボルト村はある意味で丘陵と川に囲まれた天然の要塞なのだ。最近ではさらに北側に隣接するようにグル村ができ、曲輪のようになっている。
ただし、今回は川を渡らずに南側の山地を進んで、未知の村を探す。川の西岸には城から川沿いに道があるのだが、その道は途中で途絶え、コボルトまでには届かない。またこれまでの探索でその辺に人類の居住地、少なくとも村落規模のものがあるはずなのだが、これの位置も規模もわからない。今後私達が生存戦争を展開していくにしても、この村落について未知のままでは非常に不味い。
村落の人口が思っていた以上に多かったら?そこに人類の拠点が築かれていたら?そこの責任者が私達に不寛容であったら?気にし出すと切りがないのはその通りだが、戦のさなかに後背地を突かれるほど恐ろしい事はない。
喉に刺さった魚の小骨は取り除いておかなくてはいけないだろう。
この遠征ではまず村の存在確認とその位置の特定、規模の確認、攻めるにしても攻められるにしてもコボルト村との間のルート確認が重要になる。通行が不能なら不能である事も確認しておかなくてはいけない。
この偵察では大規模である必要はない。極力戦闘は避け、情報を持ち帰る事が重要だ。そのために選ばれたメンバーはごく少数。
私の他にはもはや副官といってもいいケント。若手から中堅になりつつあるナナの二人が犬人。ヴルドという、人類の城の言葉をかなり覚えたグル村のドルラとその補佐、東の村からギャルとその補佐。北の村からロルとその補佐。ガラッハ村から一人。合計で十人。
装備も戦闘力よりは動きやすさ、快適性を重視した。特に今回はバックラー様の小型の円盾を全員の左腕に巻き付け、手の動きを阻害しない防具としてみた。把手のある大楯は防御力は高いものの、どうしても片手をふさぐし嵩張る。バックラーはその意味ではとても有効なので、スミスに無理をいって作ってもらっている。
他に新しい装備はないが、ナナには手に馴染みつつある弓矢を持たせている。
門を出て塀沿いに南へいけば、すぐに塀が西へ折れ、コボルト村の南端になる。目の前には草木の生い茂った山が立ちはだかり、左手すぐは川原があって南へいける。塀に沿って西へ進むと次第に塀が生け垣になり、ただの垣根になる。こちらの方にも突破可能なルートがないかを調べておかなくてはいけない。
山を見上げると山腹は斜面というよりは崖に近く、到底上り下りには使えそうにはない。が、あまり見かけだけで判断して油断するのもよくない。確認が終える迄は「一見」という接頭辞は外せないだろう。
村の西端に到達すると、普段あまりみる事のない地形が見て取れた。遠くには頂きに白い雪を載せた山脈。
山々は次第にその高さを減じつつ折り重なり、コボルトのすぐ西に達する。隼のような猛禽だろうか、黒い影が円を描きつつ空に昇っている。北側はやや開けているが、それでも少しいけばやはり山地があり、木々が黒々と茂っている。
この少しの平地はこれから、私達の重要な耕作地になっていくに違いない。まだ紙のない私達は村の皆に伝えるべく、脳裏に焼き付けていく。
ここはさらに西へと進もう。南側の山腹にルートがないかを探りつつ西進していく。
昼近くになり、コボルトからかなり遠ざかった。平地の南北は狭まり、次第に北側の山地も意識するようになった。
気がつくと足下の土から黒土が減り、白っぽい砂が増えてきている。草木の背丈も低くなって、あまり根を張ったものが見えない。
これは。
しばらく進むと予想した通りのものを見つけた。支流だ。山間を下ってきた渓流がコボルト村の西で三角州の下に潜り、伏流水になっている。
渓流があるならば、流れ沿いに下ってくる事が可能かも知れない。メンバーにそう伝えて、左手を意識しながら渓流の遡上を始めた。
もちろん、こういう流れは瀧に突き当たってそれ以上進めなくなる事も多い。それはそれで侵攻ルートが途絶えるという事なので、安全確認という点に於いて大きな前進だ。
とは言えもう昼を過ぎ、これから渓流を上るのは無理がある。足下の地面は水をたっぷり含んでとてもではないが一泊は難しい。さて、このまま上っていってはさらに泊まる事が難しくなるだろう。この場所に泊まる事も難しい。
周囲を見渡して岩のように突出した地形を見付ける。
ごつごつして寝心地はよくないだろうが、ここならば湿気を気にせず火を熾せて体の冷えを気にすることなく眠れるだろう。
周囲から生木を集めて火を熾し、煙に巻かれながら食事を温める頃には日が随分傾いていた。
夏とは言え、こうも涼しいと毛布を持ってきたのは正解だった。




