003
志望校合格しました!
ユイに言われたように、PKをやると決めて、武装してギルドのメンバーみんなでブリガンティアのいるところに行ったが、シロエという人と直継という人とアカツキという人と班長さんとセララがデミクァス達を倒してしまうところに遭遇。
いいとこどりされた。
悔しい。
しかも、解散って…
散々苦しめられてこんなところで解放されるのって、倒されたブリガンティアに支配されていた自分たちが情けない。ブリガンティアを倒せなかった自分たちが情けない。しかも、倒したのがアキバの人って…
なんであんな人がこんなところに来たんだ?
なんでブリガンティアをここで倒すんだ?
許さない、シロエ
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アキバに戻ると、<クレセントムーン>が大繁盛していた。
そんなことにも気を留めず、アキバのことを少し知りたくなったから、ぶらぶらと散歩をする。
風が心地よい。こんな事、大災害の後なかったかも……
ノンプレイヤーキャラが増えて、会話をしている。ノンプレイヤーキャラって、会話をするんだなぁ……
そういえば、ノンプレイヤーキャラを今までただの置き物的存在のように見ていたかも……
と思いながら歩いていると、油で何かをする音が聞こえた。
懐かしいな。
零八と一緒にごはん作ったことがあったことを思い出した。
作ってみよう。
安全な所に行って、火を起こして、マーケットで買ったいろんなものを1つづつ焼いていく。
が、しかし……
くろこげのよく分からない物体が完成。
仕方なく焼く前の生野菜をかじって食べる私はまるで小動物のよう。
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ハーメルンに来て、何日が経っただろう。強制的に労働させられて、寝る場所はじめっとしたコンクリートの上。これなら芝生の上で寝たほうがまだいい。
りゅうは回復職として狩りに参加している。私は最初は狩りに参加していたが、今は裁縫ばかりしている。手先の器用さに気づかれたからだ。
こんな事になるなら、ハサミで遊ばなければ良かったなと今更後悔してしまう。
今はサブ職を強制的に裁縫師に変えさせられて、縫い物ばかりやっている。
現実世界で趣味だったことだが、今はあまり好きではない。逆にこの状況で好きになれる人の方が少ないだろうと思う。
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「デミクァスさんっ!」
暴れられて傷だらけになったデミクァスは、以前のような傲慢なオーラが少なくなっている。
これから、どうなるのだろう。これからススキノは、ススキノに住む人はどうなるのだろう。
そう思ってから一週間、シルバーソードというギルドが来た。
そして、ススキノからはたくさんの人がいなくなった。
アシリカムイは、絶対にススキノを離れない。自分たちの地元を捨てるなんて、たとえ別世界だったとしてもできない。というか、この世界と元の世界が似すぎているから、絶対にできない。
それに、どこに行くにしてもアキバを通る。シロエに会いたくない。反抗期の子どものようだが、それはとにかく嫌なのだ。
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ミノリから急に告げられた。
「円卓会議が助けに来るから、合図したらみんなで逃げよう」
このしっかり者は、円卓のスパイだったのか。
不器用で、縫い物をするとしょっちゅう手を刺していた。でも、頭はさえている。自分とは全く違う。学問に関しては天才の中学生なのだろう。
そして、合図が出た。
私はりゅうとすぐに合流して、逃げ出した。
そこは、いつもと何も変わらない、ギルド会館。
…これで、助かったの?
よくわからないまま、私たちは三日月同盟にお世話になることになり、正式にギルドに加入した。
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やっと、レベルが75になった。
ここまでくるのには2週間、もう、夏になっていた。
帰還呪文でアキバに帰り、喫茶店に入って、お茶を一杯もらう。クレセントムーンには耐えたが、限界がきてしまい、安い喫茶店で食事をするというのが最近の日課となっている。
そして、帰り道。市場でりゅうと零八に会った。が、2人は気付かなかった(だったら、私がただ2人を見たということにするほうが正しいのかと一瞬思ったが、会ったということにしておこう)。2人のデータを見ると、ギルド名が<三日月同盟>となっていた。
楽しそう……
私はいつまで1人なんだろう。いつも、いつも、喋るタイミングを掴めずに、人はいなくなっていく。
中3の時には、クラスに友達が一人もいなかった始末だ。
まったく、私ってやつはほんとにだめだ。
警戒心が強いのか、人見知りなのか…
3次元系女子が怖いというのは確かだ。
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雨音が響き、それのせいで薄暗いバスの中に、元気な声が響いた。
「てぇーんてんむぅーしむしかぁーたつむりぃ」
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ジメッとした廃ビルに念話の鈴の音が響いているように聞こえる。
「もしもし……」
「ユイ!久しぶり。元気にしてる?」
それは、懐かしい友達の声だった。
「さ……さやぁ…………」
思わず、泣いてしまった。嬉しかったからだ。サヤと話すのは、3年ぶり、中学校卒業の時以来だ。そして、友達と話すのも数日ぶりだからだ。
でも、エルダーテイルにいるとは聞いてない。あそこの親は厳しいことで有名だから、同居している間はやらせないと思っていた。
「聞いたよ、アキバにいっているんでしょ」
「うん……レイとりゅうを助けるために来たんだけど、同じ街にいるはずなのに、会ってないんだ」
嘘をついてしまった。むこうにしたらそれに等しいから、まぁいっか。
「トウっちの誕生日までに中学校の同窓会やるから」
衝撃的な一言だった。
「え?ど、同窓会?」
「こーゆー時こそ、元中メンバーで繋がり合っていこうというのが狙い」
「同窓会ができるほどいたんだ」
「うん……30人くらい」
驚いた。210人中30人がログインって、どう考えてもおかしい。まるでゲーム廃人中学校だ。
頑張って、伝えなきゃ。
あの2人に、みんなで(といっても、ゲームしている人だけだけど)集まれることを。
「頑張って、レイとりゅう連れて行くからって伝えてね」
「わかった、トウっちに伝えとく」
「ありがと」
「じゃね」
念話がきれた。
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青空、放射冷却のせいで冷たい空気、北海道の典型的な冬の天候のなか、男女は話していた。
「ねーねー、メガネ外したらどーなんのー」
女装男子が言った。
「メガネ外したほうが見やすいです」
と小さい女子が答えた。
「じゃあ、してる意味ないじゃん」
と女装男子は笑った。
「めを外したら…」
大きい男子は言った。
「えっ、目?」
大きい女子が驚きの声を出した。
「目を外したら失明するよ」
小さい女子は笑った。
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散歩でぶらぶら歩いていたら、いつの間にか、チョウシの町に来ていた。
人は、アキバより少ない。これが普通なのだろうか。ススキノは雰囲気が悪いからあまり人が出てこなくて、詳しい人口は分からない。でも、ここは平和で人が少ないから、多分ススキノよりも少ない。
そんなことを考えていると、2人の女の人が歩いてきた。
「こんにちは」
あいさつしてきたのは、神祇官<カンナギ>のミノリ。一緒にいるのは、施療神官<クレリック>のマリエール。マリエールというエルフの女性は円卓会議で有名な方だ。
「こ…こんにちは」
何やってるんだ、自分!
こんな所で人見知りするんじゃないっ!
と自分を落ち付けようとするも、相手の役職にビビってしまうのだった。
「何しとるんですか?」
「散歩してたら、ここにいて…」
小声でミノリとマリエールは話した。
「これって、クエストでしょうか?」
「でも、こんなとこにクエストあるってきいとらんし…」
どうやら、私を大地人だと思ったようだ。
「ちょっと、私は冒険者!」
2人の対応にイラついて、爆発してしまった。
それに対してマリエールとミノリはくすくすと笑った。この二人は3次元が微妙に入った人たちだと確信した。
この人達は、私が苦手な感じの人だ。
「ゆい…いろ……さんですか?」
ミノリが、たどたどしく読んだ。
しかし、字が多い。
「ユイ…ま、覚えなくても損はないけど」
少しクールに決めてみた。つもり。ずっと前から言ってみたかったセリフだ。
するとまたミノリとマリエールは、小声で喋りだした。
「なんか、無愛想ですね」
「そうやなぁ…ここは、立ち去るのがベストやな」
「うちらはこれから買い出しあるんで」
「ごきげんよう!」
と言って笑顔で2人は立ち去った。
立ち去る2人は、三日月同盟と記録の地平線だった。
気づいていなかった。円卓なのは知っていたが、ギルドまでは知らなかった。
零八とダグがいるギルドの人だ。
「ちょっと…マリエールさん!待ってください!」
大声で叫ぶ。零八とダグ(りゅう)に会いたい!マリエールさんに言えば、会えるかもしれない!
そういう望みを込めて叫ぶ。
「なんや、どうしたんです?」
「零八とダグって、同じギルドですよね」
ダグで通じた事に少し驚くが、この際どうでもいい。
「そうやけど…それがどうしたん?」
必死になって、思いを伝える。
「2人に会うために、ススキノから来たんです。」
「え、ススキノ!?いつですか?」
「大災害の直後」
あ然とされた。
「それほど、大事な友達なんやね…でも、今は会えないんよ。ごめんな」
今は会えない…
「いつになったら、会えますか?」
「来週、キャンプの後なら」
「ありがとうございましたっ!」
走って、逃げていく。この嬉しい気持ちを隠せないからだ。
チョウシを出て、あの有名な暴走する梨の妖精のような動きで喜びを表す。
2人に会うまでに、レベルをもっと上げなくちゃ!
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「想定通りなら、数十日以内にサファギンがチョウシなどを襲う。まあ、研究には、ススキノには関係ないけど」
そう言って、ローブを着た金髪の青年は笑うのだった。






