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001

 世界は、変わり果ててしまった。

 自然が見える世界、ぼろぼろのビル群が見える世界、緑色と灰色がまじりあった世界。

 そして、負の空気が漂ってくる世界。


 そもそも、私はゲームをしていた。パソコンの前に座って、トイレを我慢しながらやっていたはずだ。トイレを我慢しながらノウアスフィアの開墾のスタートを待っていたはずだ。 

 もしも幽体離脱なんかになっているのであれば、私は漏らしてしまっているかもしれない。嗚呼、何故私はトイレ恐怖症になってしまったのだろう、何故私は小さいときにトイレに落ちて流されそうになったのだろう、何故いまだに私はトイレ恐怖症なのだろう、あれからもう15年たつのに。

 それに、引っ越して間もない親戚の家のフローリングを汚くしてしまっているかもしれない。トイレに行っておくんだった。


 そんな臭い話には蓋をして。


 現在、私は道央道の札幌インターのあたりにいる。

 何故かは知らない。そもそも、私は美唄市のあたりのクエストに向かっていたはずだ。いきなりホームのススキノに放り出されたら、今まで(といっても、つい1時間ほど前からなのだが)の旅費が無駄になる。

 そして、なんだ、この騒々しい声は。

「かあさあああん」

 マザコンかよ

 幼稚園の年少の子供か、幼稚園のバスに先生によって載せられて、「マァマァァ」と泣き叫ぶ子供か。そして幼稚園児と同じように出発して次の停留所に着くころには泣き止んどるってやつ、よくある。ってゆうか、そんなやつもう一度義務教育受けて自立してこいっつうの。

 私も会いたい人いるけど。


「なんだよぉ、レシピのやつ全部ふやけた煎餅じゃねぇか」

 食べすぎだろ

 絶対にリアルでデブだな。

 って、嘘だ、絶対嘘だよね?

 と思って、

 おにぎりを作ってみた。具は味噌大葉で。(セイコマの味噌大葉にはまってしまい、この前リアルで味噌大葉おにぎりを作ったから、こっちでも作ろうという単純な考え)

 言われた通り、おにぎり型のふやけた煎餅だった。


「うわあああ、トランスポートゲート封鎖されてるぅ」

 別に、ほかの手段があるのに何故気づかない。

 グリフォンとか、馬とか、妖精の輪とか。


「おでこのあたりに集中するとメニュー画面出るぞ」

 これはいい情報だ。

 実際にやってみると、案外簡単にできた。ハミングをする時の感覚でいけば簡単だ。

 ハミングをする時は眉間のあたりに響きを集めるようにするから、音を出せば簡単。慣れるまでは音を出さなきゃいけないかも。


「ログアウトができない、どうしよう、かあさぁぁぁん」

 まったまたマザコン野郎か。それにしても、ここから出させないようなことをこのゲームは仕掛けてくる。あれか?ソーd


(割愛)


 とにかく、バグを入れて遊んでいた私たちにとって、ログアウトは危険だなと感じた。

 ログアウトはまたにしよう。



 ●



 放り出された所は、見たことのない景色。自然豊かだけど、どこか人工的な、不自然なところ。

 つい5時間前にこのゲーム、エルダーテイルを始めたウチ、平谷玲菜にとっては、何が何だかわからない状況だった。

 まず、自分自身が見たことのあるような姿…白と紫で花柄の袴、水色のショートヘアで後ろの一房だけ長い三つ編みの髪、茶色の編み上げブーツ……驚くことに、エルダーテイルのアバター零八の姿になっていたのだ。

 苔の付いた廃ビルの塊、巨人が出てくるアニメのような城壁、人々はどう見ても美男美女ばかり、そんな二次元要素たっぷりのこの街には、おびえたような表情をする人であふれていた。転ぶ人も多く見える。

 こんなことになるなら、エルダーテイルのような世界に来るのなら、ユイがススキノに行くのに同行するべきだったと後悔する。

 さて、もう一人を探さなければ。一緒にいたはずの同じく5時間前にこのゲームを始めたりゅうを。

 りゅうは、この世界に来るときにはぐれてしまったらしい。

「もう、会ったら突き飛ばしてやる……GM(いるのか?)かりゅうのどっちかを」



 ●



「このゲームは未来の地球」

 その後その言葉を信じて、道央道を馬を使って走り、札幌南で公道に出て、この世界の実家にいってみた。しかし、そもそも私が生まれ育った街が無かった。ショートカットされていた。1/2サイズにするために。

 ハーフガイアプロジェクトが憎い。

 そんなことをして、私は大切な初日の半分くらいを無駄にした。西日が私の目に差し込んでいた。

 そして、無駄にして気付いた。「もっとやるべきことがあるんじゃないか」と。

 とりあえず、安否確認をしようと考えた。

 馬から降りて、ラッパ公園のすべり台のてっぺんに登る。

 ハミングをする時のように、おでこのあたりに集中して、フレンドリストを出す。

<ヨネ    baconlettuce同盟 off line

 紅     baconlettuce同盟 off line

 アリ    baconlettuce同盟 off line

 エミサー  無所属       on line

 ヒナ    アシリカムイ    on line

 零八    三日月同盟     on line

 ドラグヒル 三日月同盟     on line>

 先輩たちいないのか。

 でも、小学校時代の信頼できる仲間たちは来ている。

 その仲間に念話でどこにいるかを確かめた。

 結果

<零八    →アキバ

 エミサー  →ススキノ

 ドラグヒル →アキバ

 ヒナ    →ススキノ>

 アキバ…か……

 そういえばさっき、情報が欲しいって思ったよなぁ…

 この状況からして、東京に行けば、情報がある気がする、たくさん入ってくる気がする。

 東京のアキバに行こう。

 一人だと寂しいから、仲間を呼ぼうと思って、同じススキノにいる二人に確認をとる。

 まずは、幼馴染で付与術師(エンチャンター)のエミサーことケン。

「もしもし……ケン、頼み事があるんだけど」

 応答が返ってくるまでに時間がかかった。

「何?」

 寝不足で今にも寝たいとでもいうような不機嫌そのものという声が聞こえる。

「アキバに行こうと思っているんだ、一緒に来てくれない?」

「あ、、、アキバっ?!ムリ、そこまでいくお金持ってない、行く手段どうすんの?」

 いきなり起きたような声だ。それに、反応からしてトランスポートゲートが使えないことを知っているようだ。

「グリフォン」

 しばらく間があった。きっと、バグ入りグリフォンをここで使うかという沈黙だろう。

「とにかく行かないよ、僕は」

 いつもより低めの声が、エッゾ帝国からでないという決断を表しているように私は感じた。

「そっか……ごめんね」

 ケンは駄目だった。

 次は、ここにはいない先輩たちと同じく、このゲームに誘ってくれた、小学校時代に同級生であり、レベル90の暗殺者(アサシン)のヒナだ。

「もしもし……トウくん?」

「ユイ、久しぶり……」

 考えてみたら、トウくんと話すのは1年ぶりだった。

「どうしたの?迷子になった?」

 私は迷子になりやすいから、きっとこっちの世界でも迷子になったのだと考えたようだ。しかし、私の迷子は協調性がないため&集団行動が苦手なために起こる(どちらも同じか)迷子で、迷ったのではなくはぐれるだけである。そして、今回の呼び出しはそれではない。

「大丈夫、1/2サイズだから……といっても、学校のあたりないけど」

「わ……それショックだ」

 苦笑いしているような、いつも通りの声が聞こえる。

「で、本題なんだけど、私、アキバに行こうと思っていて、一緒に来てくれない?」

 一瞬、間が空いた。

「ごめん、ギルドの仕事あるから……ギルマスがログインしてなかったから、ギルマスの代わりに僕がギルマスやることになったんだ」

 いつもとは違う、リーダーとしてまじめにやる時の声がする。

「そっか、頑張ってね」

 笑顔になって言ってみるがきっとあっちには伝わらないだろう、逆に、悲しそうな声と思われるだろう。

「そっちこそ、迷子にならないようにね」

「うん、頑張るよ……ありがとう、じゃあね」

 結局、私は一人。いつでも一人。学校でも、ゲームの中でも。しかしそのような結果は、居場所を作らない私が悪い訳であり、どこかにぶつけるようなことではない。

 そして、自分が成長していないということにも気づく。みんな自立しているのに、私だけ人に頼っている。自分の好奇心に従って動いているだけだ…

 勇気を出して、一人で行く事にした。

 市場で装備の買い物をする。何があるか分からないから、木刀を買う。武士(サムライ)、暗殺者用だろうけど。



 ●



「冒険者の異変を私が調査するということですね、解りました、行ってまいります」

 まったく、なぜこの私に何でもさせたがるのでしょうか。貴族出身ではないからでしょうか。平民出身だからでしょうか、農民出身だからでしょうか。

 どちらにしても、あと一年で契約は切れるので、私はもう少ししたら自由の身になれるのです。

 自由になったら何をしましょうか。

 そんなことを考えながら絶望に満ちた人々が多くいるススキノの街を歩いていると、私は冒険者の一人に話しかけられました。

 その人は見たところ成年のようです、金髪で、身長が私と同じくらいで、不思議とでもいうような顔をしていました。

「サヤに似てるけど、本人じゃないよね…」

 どうやらこの成年は友人を探しているようです。

「私は、エッゾ帝国帝国議会使用人ツボミと申します」

「声までそっくりだ、すっごい!この世界にいないはずと思ってたらこんなところにそっくりさんが!……おっと、ごめん、僕はエミサー……君は大地人?」

 テンションがすごく上がっているようなので、言ってみました。調査のために。

「ええ……あの、何とかしてそのサヤって人になれませんか」

「うーん、できるかどうかはわからないけどやってみるから、人目に付かないところに行こう」



 ●



「これで…全部かな?」

 僕の問いかけに反応していろんな人が言ってくれる。

「Bグループの範囲にはもうないね」

 と言うのは、Bグループのリーダーである、バーディこと紀貴。

「Sも同じく」

 これはアリナことアリー(逆か、いや、ニックネームがアリーでユザネと本名がアリナか…こんなことを思っていたと知られたら絶対に怒られるな)。

「Mはまだかな?」

 こっちはドMの芋子ことアイ。

「M全滅してるよ」

 アシリカムイ1の秀才、フジこと友次

「じゃ、これで全員…?Mの範囲は誰かやった?」

 僕は、全滅しているとは知らずにMにも指示を出してしまっていた。

「じゃあ、私行ってくるよ」

 妙にお姉さんぶった感じのサイカは、一人で行ってしまった。

 しかし、あの服でこれからやっていけるのだろうか。あのロリータ風のフリフリ真っピンクの服で。あの人、格闘家(モンク)だよね…


 集まったのは、前ギルマスであるドッグフードさんが残していったものだった。

 これからの運営に必要だと思って集めてみたが、ガラクタしかなかった。

「なにこれ、蛇の抜け殻みたい」

 みんな笑いながら、ドッグフードさんの物をあさり始めた。

「そんなものあったんだぁ…って、こっちはガラガラ?!」

 手には黄色のガラガラがあった。

「赤ちゃんじゃあるまいし…こっちには折り鶴がある」

 千羽鶴がそこにはあった。色とりどりで、きれいな千羽鶴が。

「あの人はどんなバグを入れていたんだ、そんなこと普通のプレーヤーにはできないよ…このなかにはパーティーサングラスがあったよ」

 ケーキのようなサングラス。

「芸人か?こっちにはハリセンまであるぞ」

 真っ白な厚紙でできたハリセン。きっとススキノの外に出たらHPを減らすことのできる道具になるな。

「うっわぁ、熊の巨大ぬいぐるみ、1.5Mは確実にあるよ」

 あのディ○ニーのネズミが持っているテディベアのようなぬいぐるみ。きっと数年前のコラボレーション企画の時に入手したのだろう。

「小6の時の友次よりでかいってことだね」

 なぜか友次の身体測定の記録があった。

「うるさい、言っとくけど、このアバターは170あるからな」

 友次は怒ってしまった。

「これ、割れたお皿だ」

「ドッグフードさんの下着類…」

「馬鹿、早くしまえよ!」

「腐ったキュウリ発見、たぶん、この前の余りだ」

「はちみつだ、なんでこんなものをしまっておくかなぁ、Gの付く虫が来ちゃうよ」

「そもそもこの世界にそれいるのかなぁ」

「同感」

「これ、インク漏れした水性ペンだ」

「ほんとだ、ペンの裏側に穴開けてる」

「これは日本刀風の耳かきだ」

「鹿児島駅で売ってるやつだよね、それ」

「金魚ねぷただ、ここでこんなもの作れるんだね」

 そんな発見から派生する会話が数分続いて、誰かが重要なものを見つけた。

「これ、CD?」

「DVDプレーヤー発見!」

「CDの中身みてみようよ」

「賛成」

 みんなCDがこの世界にあることに感動して、街灯にへばりつく蛾のようにCDプレイヤーの周りに集まった。

「ちょっと、現ギルマスの僕にも見させてよ」

 プレイヤーの再生ボタンを押す。

 画面には、女の人がいた。ドッグフードさんは男だから、別人だと思う。

<皆さんへ

 これを見つけてくれるのはいつでしょう。プログラミングをして、二つを組み合わせて右クリックしたら再生するようにしてあったのに気付くなんて、すごいなぁ

 僕は今、病院にいます。

 僕は余命宣告されました。持ってあと3か月。

 その間、僕は病院にいることにしました。そして、病院ではWi-Fiつなげられないのでエルダーテイルから卒業することにしました。

 ノウアスフィアの開墾までに僕は卒業します。

 次のギルマスについては、僕はヒナ君に頼みたいと思うけど、遭遇できるかなぁ…

 とにかく、みんなはエルダーテイルを僕の分まで存分に楽しむようにしてね

 ドッグフード>

 動画が終わると、CDプレイヤーは消えた。そして、沈黙という時間が発生した。

「まじかよ」

 バーディは、衝撃を隠せていなかった。

「ドッグフードさんって、女だったんだね」

 アリナは涙を流していた。

「でもさ、見つかってよかったよね」

「それにしても、遺品残しすぎ、現実世界でこんなだったら相続税がかなりかかっちゃうよ」

 その一言でギルドホールは笑いに包まれた。


 数時間後、ドッグフードさんの遺品は最低限のものを残して消去した。



 ●



 私は、湖に連れてこられた。

「この呪文、使えるかなぁ…」

 そういって、エミサーは何かぶつぶつと唱えだした。

 少しづつ視界が白くなっていくように感じた。

「これでできたと思う。」

 そういわれて、湖の水をのぞき込むと、何も変わっていない。

「これでさやのデータに書き換えられたはず、あとは口調だね」

「どんな口調だったのですか?」

 エミサーは少し黙ってしまった。

「なんだろ、とにかく幼い感じかな。ですます調は一切使わない」

「じゃあ、やってみますね」

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