編成を組むんだ!何ぃ!バランスが悪い…?気合で乗りきれ!
山岳地帯の少し見晴らしのいいところから双眼鏡で谷間に存在する円柱状の建物を窺う。
「見張りはまだこちらに気づいてはないな。」
隣で同じように窺っていたファルクと一旦双眼鏡を閉まって少し下るとそこにはいつものメンバー。
「どうだった?」
「ほぼ同じ。さっきから見張りの様子にも変わったところはないし、俺らには気付いてないな。」
ノッチに双眼鏡を返して俺にのし掛かってくるティリアをしっかり背負ってから座る。
「よし。じゃあ乗り込むわよ。」
わざわざ俺が座ったタイミングでのリーダーの無慈悲な発言。
今、俺達は盗賊団のアジトに強襲作戦の依頼中だから仕方ないと言えばそれまでなのだけれど。
ことの発端はまたしても俺がギルドで嵌められたことから始まった。
いつも通りに仕事を探しに言ったけれど、中々良いのがなく仕方なくチョウガが勧めてくる依頼を見たところ盗賊団の討伐。としか書かれておらず、かといって拒否するとウチだけ家計が炎上しかねない。
やむなく依頼を受け、全員出動となった依頼はそこまで難しくはなかった。最前線の村に襲撃をかけた盗賊を迎え撃つスタイルで浅く掘っておいた沢に盗賊の足が全部入った時点でシスティの広域スタン電撃。
気絶し、流れた盗賊を下流で底引き網のように一網打尽にし、これで終わり。
と、村長に報告したら
『アジトを潰してないじゃないか。』
と、お叱り。
詳しく聞くとこちらの村長は最初は襲撃グループは俺達みたいなフットワークの軽いギルドに依頼して、アジトは国軍に依頼する予定だったけれど、
『そちらのギルド長から「うちが送るメンバーに任せても大丈夫。追加料金もいらないと言っていたぞ。」』と聞かされ、
今に至る。
「さてと。馬鹿のせいで重労働になった今回の依頼をもう一回おさらいしましょ。」
アニエスが村からもらった地図を広げて状況のまとめにはいる。
「まず私達がいるのはここ。この高台から谷間にあるアジトに一気に強襲。出入り口は1個だけらしいから、そこから出てきた順にボコして、確保!明らかにオーバーワークだから超過料金は国軍からむしりとりましょ。」
「いいんですか?」
「『そっちの動きだしが遅かったから私達がやる羽目になった。』って言えば大丈夫!」
さらっと恐ろしいことを抜かすアホの意見には同意。ついでに程よく怪我して労働災害だ。といちゃもんをつけてあの顎髭モップジジイからもむしってやる。
「それはいいけどまた盗賊もいいところに目をつけたねー。」
「……地図を見る限り廃坑になった坑道みたいだな。入りやすいけれど狭いから部隊が展開出来ないから少数でも充分軍を相手取れる。」
地図を眺め、坑道のルートを確認しながらヘンリとファルクがそれぞれの視点から意見を言う。なるほどな…昔読んだ漫画でも坑道とかが多かったのはそういう理由もあった訳か。
「そ。それでこの場合、ノッチ!」
「お、おお…何だ?」
「軍としてはこういう場合、どうする?」
「ええっと…補給のラインを絶って、弱ったところを迎撃、または捕獲だな。」
突然の指名にもテキパキと答えたノッチ。
アニエスはそれに納得したように頷く。
「そうね。それが正しい。でも!」
突如クワッと顔を険しくするとバンッ!と地図を叩き
「それだと市民に対して、配慮が足りないわ!もっと迅速に!」
「うるせぇよ何でそんなにテンション高いんだ。」
「じゃあアンタ何かあんの?代用案。」
「……そうだな。」
ブスッと膨れて俺に八つ当たりをしてくるアホ。
作戦のコスト、市民に対しての配慮、確保の成功率を地図から考え……
「ここ。」
地図の一点、坑道唯一の出入り口を指差す。
「ここで麻痺性の煙がでる草を焚き、その煙で坑道を埋め尽くす。そこまで深くまで繋がってはないし、炙り出したのは出入り口は一回下に落ち込む形になってるから、ここを柵で塞いでおけば坑道からは出れずにもれなく全員薫製になる。柵は退かされないように上から岩でも乗っけておけば麻痺でろくに動かない手足じゃ退かせない。あとは煙が晴れてから……何だよ。」
自分では中々いいと思っていたけれど気づけば皆が俺を見ている。メッチャアブナイ奴を見る目で。
「……ユウさん。流石にそれは…」
「越えちゃいけない線だってあるぞ…ユウ。」
「倫理的にアウトだな。」
「前から思ってたけどユウ君ってすごいサディスティックなとこあるよね。」
「まぁ、アンタはそういう奴よ。」
隣に座っていたノッチが少し距離をとったのが心に染みる。
「流石ご主人……!そこに痺れて萌え萌えズバキュンです…ブラックご主人……」
「色々混ざったな。」
瞼が降りかけながらも俺の提案に慰めなのか分からないけど称賛を送りつつ、肩に頭を置きコクリコクリと船をこぐ側近。
……もうすぐ寝るな。
「ティリアが限界近い。」
「分かってるわよ。じゃあフォーメーション組んで侵攻しましょうか。」
俺の次に付き合いの長いアニエスが親友の活動限界を察したらしく近場にあった石を人数分拾いあげ、ファルクに手渡す。
「あれ?お前が考えたんじゃないんだ。」
「こういう場合だったら机の上で習っただけの私より実践経験豊富のノッチかファルクのほうがいいでしょ。」
「むしろお前は何で机の上でそんなの習うんだよ。」
「ではまず……ユウ、私、アニエスで前衛を固める。」
俺のツッコミはあえなく無視され、アニエスから託された石をトン。トンとフォーメーションを組ませるように置きつつファルクの説明を聞く。
「次に中衛。前から順にヘンリ、システィ、ティリアの順で並んでもらう。システィが攻撃の要で前後の二人がそれを守る。そして最後にノッチを後衛に。背後からの奇襲の対策だな。」
並んだ石を見て、それぞれの人物に当てはめてみてもバランスがいい。これなら何の問題もなく……あ。
「……うい。」
「どうしたティリア。何か?」
俺の肩越しに顔を覗かせながらティリアが挙手。そうなのだ。このフォーメーションには……穴がある。
「私、ご主人から離れると戦闘力が落ちます……」
「「「「え?」」」」
俺とアニエス以外の全員が想像外の理由に驚愕する。
「本当よ。ユウが家を開けてた時に布団剥がそうとしたら全然力なかったから。」
「……。ならこの陣は使えんな。」
「ファルク。ならティリアとヘンリを交換すればいいんじゃないか?」
「ノッチ。それはダメだ。コイツから目を離すとサボるか、女を口説くかの2択になってしまう。」
「あれ?ファルクちゃん。悪意しかない紹介されたような気がするんだけど。」
残念ながら一人の著しい戦闘力の低下が露見したため、石のフォーメーションも解散。
「……前衛を絞るのは?」
アニエスが提案し、石を組んでいく。
「前衛にノッチとゼロ距離馬鹿。中衛のメンバーは変えずに、後衛を私とファルクで固める。……どう?」
「アニエスちゃん…出来ればなるべくノッチさんと離れたくないです……うっかり魔法で巻き込む危険が……」
「私とアニエスが後衛で並んでしまった場合、長物2本だと動きが合わんぞ?さっきのはあくまでユウの狩り残しを考えていたから平気だったが。」
「……すぅ…。」
完全に堕ちた側近も寝息で却下を伝えてきた。
そこから何度か組み直しが行われたが、俺が最前線に立たされるのが毎回変わらないように、全部のフォーメーションが却下されていく。
冷静に考えればパーティのバランスがそもそも変なんだ。
前衛としてアホ(たまに忘れるけど電気、雷系魔法が苦手)、ファルク、ノッチ。
中衛…はおらず後衛という名のマルチレンジにシスティ。(近くにノッチがいないと誤爆の際、味方への被害甚大。
マルチアタッカーのメンバーは癖しかなく、ヘンリはさっきファルクが言っていた通り、俺の側近は俺が近くにいないと戦闘力がガクッと落ちる。
前衛3、ゼロ距離1、後衛1、マルチアタッカー2。
確か前にこんな感じで考えたことがあったはず。……全く事態が好転してない。
誰からも意見が出ないままただ時が流れ…純戦闘職じゃないシスティも寝落ちしそうになる中、段々空が明るんできた。夜だからこそ奇襲の成功率も上がる!と全員一致で挑んだのにまさかの理由での延期。
誰もが心なしかピリピリする中、
「……決めたわ。」
アホがその口を開いた。
「作戦はいたってシンプル。日の出と同時にその警戒が最も高いタイミングでの……」
そして石を摘まむと、
「ユウ単機の特攻で終わらすわ。」
1個だけ地図にピシッ。と置いた。
反論するために口を開くと罵詈荘厳まみれのブラックご主人とやらが飛び出しそうなのでアイコンタクトでアニエスに反論。
『……オイコラ。』
『何よ。それが一番早いでしょうが。ここでウダウダしてたらシスティ、ティリアは夢の国に行っちゃうし、見張ってくる。って言ったファルクもあれ、結構イライラしてるわよ?』
『……正直、俺も眠気で限界近いわ。』
『アンタが特攻してる間にティリアに任せてここを守ってもらって、私達は一回仮眠とるわ。帰りはアンタ寝ていいから。』
『ここまで頭が回り続けたお前をすげぇと思う。』
『さっきフッと沸いただけよ…』
「よし。ティリア。」
腰のバックから眠気ざましの水筒を煽ってから人の背中にしなだれかかって気持ち良さそうな寝息を立てる側近を起こす。
「…………ぅぃ。」
「眠いか。」
「……(コクッ。」
「俺が終わらせてくるから、ティリアはここでしばらく仮眠をとる皆を守っててくれ。出来るな?」
「…………。」
「おーーい。」
「…帰ったらベットで寝る……。」
目をコシコシと両手で擦って伸びする側近。何故ワンアクションごとにあざとくしないといけないのか。
「…ご主人のベットで安眠……」
「俺は床なのか。」
結局本当に俺単機で特攻をかけ、瞬時に殲滅。開幕からクライマックスで狼化で行ったのもデカかったらしく、全部終わった後、ギルドから来た迎えの馬車に乗り込んだ全員泥のように眠り、起きたら国に帰っていた。
馬車から降り立った時、疲れからなのか随分と食していない米を味を思いだし、少し空しくなった。




