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タフネス、それはとっても大事。

今回の変化でまた少し分かったことがある。多分…俺のこれは変化したときの感情が大事らしい。新しい変化が増えるタイミングで、何を感じて何を思っていたか。それでその時変化できる形態が追加される……

「今までの何も分かってないのとほぼおんなじか。」

そもそもいつその時が来るのか分からないし、その時にもし、『ナマコになりたい。』って自堕落な事を考えていたら記念すべき変化形態の一つがナマコになってしまう。

「まぁ、いいか。」

考え事を途中で切り上げて戦斧使いの最後の一人を締め上げていた右手を解放する。すでに気絶していた兵士は膝から崩れ落ちるとそのまま地面に突っ伏して動かなくなった。

「さて、次は誰だ?一度にかかってきてもいいぞ?」

イレウスに向かって問いかけるも、すでに後ろを向いて兵士達を掻き分けて逃げ出していた。

「……それは虫が良すぎじゃねぇの?」

戦斧使いが落とした俺が壊していない斧をそれぞれ片手で1本ずつ持ち上げて目測で兵士達の最後尾目掛けて放り投げる。

ひゅーーん……と気の抜けた軌道で飛んでいった割に大分適格にイレウスの目の前に突き立った。

「逃げんなよ…こっからだろ?」

当たってもいないのに腰を抜かして動けなくなっているイレウスに向かって、歩いていく。

「な、何をしている!早くアイツを止めろ!」

しゃがんだままみっともなく叫ぶイレウス。

とりあえずなのか俺の近くにいた兵士達が剣や槍を手に襲いかかってくるが…気にしない。何もせず鱗が剣や槍を弾き、欠けさせていく。その様子を見た他の兵士も尻込みしてしまい、攻めには来ない。

尻尾の一凪ぎを全員の顎に決めて倒し、さらに歩を進める。

そうでなくても部下だろう兵士達も俺を止めには来ないようだ。まぁ、こんな上司に付き合いたくもないだろうし。

運悪くイレウスの近くにいた兵士が突き出されて俺の前に出てきてしまった。

余計な攻撃も悪い気がするから、首もとを掴んで真っ直ぐ俺を向かせる。ニッコリと笑いかけてから

ドゴン!

頭突きで昏倒させておく。

「……角が後ろに流れてて良かったな。」

呟いてポイッとダメージが無いように放り投げる。

歩いてイレウスに接近していっても俺を避けるように兵士達の群れが割れていく。

難なくイレウスの前まで到着した俺を睨みつけながらキイキイとわめき声をあげるイレウス。

「……!どうした!コイツを止めろ!」

「それが人望ってやつでしょうが。」

俺の後ろから来たアニエス達はすでに抵抗しない兵士達を軽く拘束して俺の後ろに立っている。

「ファルク!貴様裏切るのか!」

「裏切っていなければここに立っていない。それとこの状況、貴様はついに見放された。ということだな。最終勧告を受けていたはずだが。」

イレウスと同期…いや階級が近かったのだろう。それにしても勧告?

「諦めたらどうだ?お前だけなら誰にも勝てないだろう。」

ノッチの苦言にも耳を貸さずに兵士が落とした剣を拾い上げて俺達に剣尖を向けるイレウス。

「負けんぞ…私がお前らなんかに!負けるかぁぁぁ!!」

抜けていた腰がやっと戻ったのかしゃがんでいた体勢から立ち上がると俺に向かって剣を振り回して攻撃を仕掛けてくる。

「負ける、負けないじゃなくてな─」

俺の前に出ていこうとしていたアニエスとティリアを後ろに押しやってイレウスの剣劇を受けてやる。しかし…やっぱりというか兵士達の方が手強い攻撃だった。虚しく俺の鱗をキンキンと叩くだけでダメージは皆無。焦れたのかプライドがそれを許さなかったのか。奇声とともに横凪ぎに振るわれた剣をハシッと掴んで粉砕してから、わざとらしく拳をテイクバック。慌ててガードしようと構えるが、慌てすぎて砕けた剣を取りこぼしている。その様子に苦笑してから、

尻尾でボディを強打。

面白いくらいにすっ飛んで木にぶち当たって止まったイレウスに

「─勝負にならねぇんだよ。」

とだけ言っておく。

「鬼?アンタ。」

「鬼じゃねぇよ。龍だ。」

「……はいはい。カッコいいカッコいい。」

ジト目で問いかけてきたから翼をパタパタさせて答えると、呆れました。と肩を竦めて頷くアニエス。少し疲れたから変身を解いて首をクキクキ鳴らしていると、パシュゥゥゥゥ…と何かが打ち上がる音に振り向くと、震える手に信煙弾を握っているイレウスの姿が。空を見ると灰色の煙が登っていた。

「ううう……貴様らぁ…」

「へぇー。まだ意識あるんだ……」

「そういえばバフォメットに殴られても意識ありましたよね……」

「で、どうするんだ?」

「とりあえず捕まえて、縛って放置。」

「「「「「賛成」」」」」

皆の意見が一致したところでどこからか縄を取り出したティリアがヘンリに渡して、ヘンリとファルクが縛りに近づいた。

その時、

「ユウ!」

森の奥、イレウスの後ろに当たる場所から見慣れた、というか俺のコートを羽織ったレオラがこちらに向かって駆けてきた。

「お前…何でそっちから!」

「大砲とやらを無効化して戻ってきたところだ!」

ヘンリ達の場所よりもイレウスの方が駆けてくるレオラに位置が近い。何であそこまで飛ばしたんだ!

イレウスも形勢逆転の一手を逃がすまいと欠けた剣の残りを握り直してその瞬間を狙っている。

何故か駆け出さないファルク、ノッチとヘンリを除いた全員がカバーに駆け出すも、イレウスが隠れる格好になった木までレオラが至ってしまい……

「せめてもお前だけは殺s」

叫びは後ろを振り返らずの裏拳に阻まれ、怯んだところをレオラのラッシュが襲い、最後の台詞すら言わせてもらえずに隠れていた木にまたしてもレオラの止めのシャイニングウィザードで叩きつけられる。

「……何だ。」

「いや…お前、そんなこと出来たんだ。」

「当然だろう。」

スタッと着地して服の埃を叩き落とし、歩いてこちらに来ながら澄ました顔で返してくるレオラ。

「……で、コイツどうしようか。本当に。」

アニエスがそこら辺に落ちていた木の枝で今度こそ気絶したイレウスをツンツンつつきながら聞いてきた。

「うーーん。このまま置いておいても邪魔だしなぁ…いっそ持って帰るか?」

「嫌よ。アキュリス王国の牢獄は宮殿からそう離れてないんだから。」

我ながらいい案だと思ったけれどアニエスに一蹴を食らった。



「なら貰っていってやろうか?」



野性味しか感じない、先程まで俺が闘っていた奴の声が聞こえると同時に、イレウスの近くにいたアニエスが弾かれるように飛び退いた。するとイレウスを中心として地面が大きく陥没した。

「重力魔法?!」

「アニエス!」

「当たってないわよ!それよりも、次!」

アニエスの安否をとりあえず置いておいてイレウスを重力場から引き剥がしにかかる。意外とイレウスは重力の影響を受けてはいないらしく、いきなり騒がしくなった外の様子に目が覚めてキョロキョロしている。

「……どうしてあんなに丈夫なんだよ!」

「それだけがウリだからっすかね。」

横からの声に瞬時に狼化した足を地面に突き刺す勢いで止まると目の前を何かが通り過ぎていった。そのまま走っていたら確実に顎が斬り飛ばされていた軌道。

距離を取ろうとステップを踏んで離れる。

俺を襲ってきたのは、身長はあまり変わらない位、多分歳も近いだろう。

「へぇー、あれをかわしますか。」

それが癖なのか首をカクカクと動かして関心したように頷くと槍を担ぎ、今の攻撃でズレた上着を羽織り直している。

「……誰だお前。」

「え?あれ?聞いてません?リーダーから。あ、俺ラムダって言います。」

「その前にお前のリーダーを知らん。」

とぼけるように俺に答えてくるラムダを視界に入れつつすり抜けられないか隙を伺うが…見つからない。それでもすり抜ける隙を伺う俺に構わずに敵は呟いた。

「ブレグマって名前なんですけどね。」

「……お前…?」

ブレグマの名前を聞いて俺が動きを止めたのが嬉しかったのか、それとも狙い通りに動いて嬉しかったのか。いかにも楽しそうに笑いだした。

「あああー!良かった!アンタと戦いたくってもう!楽しみだったんですよ!リーダーと競ったって言いますしね!」

「で、お前はそこ、通してくれんの?くれないの?」

「まぁ…通しませんよ!」

叫びながら突っ込んでくるけれど、ファルクに比べてしまえば幾分遅い。

「なら通らせてもらう!」

突き出される前に狼化した左手で槍をつかんで勢い良く俺の後方に引っ張ってバランスを崩す。掴んでいた左手を離し逃がさないように右手で後頭部をアイアンクローみたいな形でホールド。

「……っ!」

息を呑むのが至近距離から伝わってきたけど構わずに右手で加速をつけた左の肘撃ちを顔面に叩き込む。パッ。と散る鼻血を振り払うように振り抜いて

「……せらぁ!」

後頭部…というか脊髄切りのように左の肘撃ち。

確実な手応えを感じてイレウスの昏倒に向かおうとして、

違和感を感じて後ろに振り向く。

「……おお…痛った。今の効きましたよー。」

何も無かったように鼻をかんで立っているラムダの姿。

「……結構会心だったと思うんだけどな…」

「まぁー痛かったっすけどね─」

鼻をかみ、すっかり元通りになったラムダは自分のシャツの中をまさぐると

「─こういう経緯で、効かないんす。」

鈍く、毒々しく、真っ赤な光を放つ水晶を取り出して俺にプラプラと見せつけてきた。

「お前の相手してる暇ねぇんだけどな。」

「そう言われても戦ってこい。って指令ですから。」

そう言われても俺に戦う気はない。

少し足を後ろに下げて逃げようとするが、ラムダは身の丈に比べて少し短めの槍を携えて、逃げようと俺を確認するとニッと笑い

「逃げんでくださいよ!楽しみにしてたんですから!」

一気に肉薄してきた。

槍のラッシュは仮にもファルクに特訓を受けていたからかろうじてかわせるが、イレウスから段々と離されていく。

「楽しみにしてたんすよ!アンタとはティエルフールではタッチの差で会えませんでしたから、ね!」

「……くっそ!」

早くイレウスをもう一度昏倒させないといけないのに敵の槍さばきが凄まじく中々退かせない。邪魔が止まないことに俺は焦ってしまい、槍の石突きが後ろを向いた瞬間に突っ込んでしまった。

「も、ら、い!」

石突きから鋭く煌めくスパイクがあるのを忘れて。その狙いは俺の顎!

ガキィン!と轟音と共に吹き飛ばされた俺。

「──あっぶねぇ!」

鱗で覆われた顎を軽く撫でてから素早く翼と尻尾で地面を叩いて体勢を立て直す。

「ハハハハ!なんすかそれ!おもしろ!切り換えですか?!もっと見せてくださいよ!」

「お前に構ってる暇はねぇんだ、どけ!!」

互いに噛み合わない叫びをあげて接触する寸前、敵の槍を刀が弾き、次いで見慣れた槍の石突きが敵を打ちのめした。

「あっれ?あれあれ?」

全身を撃たれてよろめいて腰を折る敵。

「ユウ!先に行け!アニエスとレオラは私の仲間を逃がしてくれている!」

「ここは任せてください。」

「……すまん!」

ティリアとファルクが敵を遮るように俺の前に立ちはだかってくれている横を狼化に戻って神速ですり抜けていく。


「……おおっと。誰かと思えばファルクさんに…ええと、ティリアだっけ?」

「名前を気安く呼ばないで下さい。今の私はご主人の臣下です。」

「ふむ…なら私も。もうお前達の仲間じゃない。…さん、はつけなくていいぞ。」

「……参ったな。今日はそんな命令じゃないし、それに今度命令違反がバレたら俺、搾られるんですよねー。皇帝に、物理的に。」


「まぁいいか!バレる前に戦闘終わらせればいいわけだし。」





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