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辛い時こそ笑え。っていうけどホントに辛かったら中々笑えない。

─ノッチ。どこに行く気だ?


「か、勘弁してくれ。もう良いだろう!」


まだ続けるつもりらしい。先程からずっと闘い続けているというのに目の前にいるアイツの息は全く上がっていない。アイツの能力だと知ってはいるがそれでも疲労感は残るはずなのだが…


─いや、まだだ。まだ私は負けていない。


「こ、こいつ…」


先程の接触の際に両足に峰の部分で一撃入れている。加減したとは言え、その時は痣になったはずなのにもうダメージなんて無かったかのように立ち上がってくる。能力で戻しているとはいえ、流石に何度も繰り返していたらいくら俺でも限界が来る。その時傷を負うのは自分だというのに。そんな俺の思考を読み取ったのか、雌豹を思わせる笑みを浮かべ、愛用のサーベルを切り払い



─さぁ、まだまだ闘おうか。



「おい、おい!」


「この…ん?」


「大丈夫か?」



魘されていたノッチを起こす。


この王国に来て2日。


まだノッチの家に居候をさせて貰っていた。だがその家主は明らかに最初に会った時よりやつれている。原因はアレだろう。



「なぁ、いい加減教えてくれよ。」



やつれにやつれたノッチはすでにベットから立ち上がるだけでよろめいている。



「何だ。」


「あの人って誰。」



そう。前回トワフが来たときに言った、


『その中にはあの人もいますよ。』


あれを聞いてから途端にやつれ始めた。



「まぁ…ユウに言ってもいいか。ただ…」



そこまで言い、こっちを向く。


顔は完全に死んでいる。



「道すがらでいいか?座ったりして話したら…発狂しそうだ。」


もうトラウマってレベルではない。




「しかし…活気というか、なんというか、凄いな。」


「向こう側?ではそんなこと無かったのか?」


「うーん。一部ではそうだったけど…」



今俺達二人は城下町を歩いている。


アリュキス通りと呼ばれているらしい大きな通りは両サイドに様々な露店が並んでいてとにかく活気が凄い。トワフの店はここから先の王宮の近くに立っているらしい。



「まさか受け取ってる最中に国軍が来たりしないよな。」


「そんなこともしあってみろ。」



ノッチの声が急に真剣見を増す。


今のノッチは最初に会ったときと違い、皮の上着を羽織り、サンダルではなく靴もまた革製。


戦闘体制の武装なのだろう。利き手の反対側の右肩と胸の部分にプロテクターのようなものがくっついている。



「俺はこの王国から全力で逃げる。」


「何があったんだよ。」


「それに答えるには…お前のその服装を剥ぐ。」



今の俺はパンツに上はワイシャツの下に元々着ていたシャツ、その上にフード付きのマント。それに付いているフードをすっぽり被っている。色は全部黒。


魔法使いみたいな格好。以上。



こうなっているのは以前そのまま街に出たとき、『あの噂の人物だ』と見つかり結局買えたのは今着ているマントだけ。


時間にして僅か3分で帰った俺をノッチが指を指して


『自由に散歩してくるって言って随分早いお帰りだな!』


と、大笑いしたのを決して忘れない。



「それは…困る。」


「ならもういいだろ。この話題は終わりだ。」



そのまま黙る二人。





「いらっしゃいお二人さん。」


「「その言い方は止めろ。」」



来店したとたん非常に不快な挨拶。



「「出来たものを早く見せてくれ。」」



「急ぐな。何かあるのか?」



「「来る予定のトラブルから早く逃げたいだけだ。」」



今や以心伝心。俺は王国から。ノッチは、とある誰かから。互いに思うことはただひとつ。




─絶対に逃げ切ってやる。




「ノッチさん。まず大剣。研いでおきましたよ。」



そう言って自分の身長と変わらないくらいの大剣を手渡すトワフ。よく見ると、とても幅広だ。おまけにとても長い。多分120センチはあるか。装飾の類いは一切無く、片刃のそれは見るだけで重厚感をヒシヒシと感じさせる。ノッチ以外は使いこなせないだろう。ただなんというかあまりよく武器というのが分からない俺にも分かる。幾度となく戦場を切り抜けて来たことが感じ取れた。


「昔から使ってるのか?」



そう聞いたが


「それより早くユウの武装だ!早く!」



そんなことはどうでもいいと言わんばかりの剣幕で自分の大剣を引ったくるように取り返し背中に背負うノッチ。焦りすぎで一回落としている。それを見てニヤニヤ笑うトワフ。


…やっぱり気になる。



「じゃあユウ様…でしたかな。こっちで全部身につけてください。」



試着室らしき小部屋を指差し、木箱を渡してくる。



「着なきゃ駄目か?」


「ちょっとした違和感が命取りになることもありますから。はい早く。」



確かにもたもたしている間に来たら、えらいことになる。俺の評判に露出狂が加わったら確実にここにはいられない。


急いで着替えるべく大急ぎで部屋に入る。ノッチは店の外を正に般若の形相で睨み、


周囲を確認。子供がビビって逃げ出している。



「あ、そうでした。今日は訓練だから国軍は来ないそうですよ。」


「「それを早く言え!」」


一気に脱力したのは言うまでもない。


「待たせたな。」


試着室から出て、第一声。



「…ほぉ。」「いやはや。」


ノッチとトワフも感嘆の様子で出迎えてくれた。



今の俺はトワフに作成を依頼した武装を身につけている。


イメージを起こす際に考えたことは、俺の能力は恐らく身体強化。なら使えない剣などを持っても邪魔にしかならない。


ならば、と思いきって刀剣の類いは一切排除。



半袖のロングコート。


長ズボンに、ロングブーツを履きその上からレガース。


プレストアーマーなどは当たったら終わり。と割り切って装備せず。



一番特徴的なものが、手甲。


手甲と言っても鉄の板で作ったものではない。二の腕まであるアームカバーの先に、手袋が融合したみたいな形。各指の基節骨と手の甲に鋼のプレート。戦闘中にずり落ちたりしないように胸をX字にかけているベルトにストラップで前後から固定。


「やっぱり素手で行くんだな。」

「まぁ剣とか握ったことないし。高校の体育柔道だったからなぁ。」

「?ジュードーって何だ?」


つい向こうの世界のことを口走ってしまった俺に尋ねるノッチ。どう説明したらいいか迷って

「ノーコメントだ。」


つまらなそうに唸るノッチから視線を反らし、トワフに気になった事を聞く。

「これって注文通りに…」


「ええ。『斬れない糸で作れないか』でしたね。アイアンパイダーの糸で作っているのでそこは安心して下さい。今回はサービスとしてコート、ズボンも同一素材です。」



それは有り難い。…有り難いのだが。


「何で全部黒いんだよ…」


装備の色はお任せにはしたのだが、とにかく黒い。飾りのつもりかコートの肩口から伸びる細い真紅のラインが妙に禍々しい。夜道で子どもにフル装備で会ったら絶対に大人を呼ばれるか、泣き叫ばれるレベル。



「まぁいいじゃねぇか。なかなか様になってるぞ。」


「いや…でもなぁ…」



やっぱりどことなく気に入らない。


そう思って全身を見渡していると



「今ならユウ様の気に入った色に変えることも出来ますが…」


そういいながらガサゴソと木箱を探るトワフ。そのまま何かを取り出し、こちらに掲げて来た。


「その際、こちらのエンブレムを着けて貰いますが?」


掲げられたそれはどう見てもトワフの店のマーク。凄い作り込みで全部刺繍で出来ているところから察するに俺が突っぱねることを想定済みだったのだろう。サイズは肩につけることを一切考えてないビックサイズ。でかすぎて150cm位のトワフがすっぽり隠れている。着けるというよりかは背負う、といったほうが正しい。



「さぁ、どうします?」


─決まっている。始めから答えは1つ。



「…そのままでいい。」

「コートをマントに変えることも出来ますが?」

「そのままでいい!」


俺の武装、完成。


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