……まぁこういう話なら必ずこういうのっているよね!
……はい。というわけでそんな感じの奴が現れます。
「……何あれ。」
目の前で放たれたティリアの魔法?を見送って私は茫然と呟いた。
拠点の中に入れてしまった兵士もティリアの一閃を見て怯んでいる間にダッシュでティリアの元に寄っていく。
「ティリア!あれ……なに?」
「ご主人のサポートですね…ああしないと道が開きそうになかったので。」
「それはそうだけどね…」
「それに。」
私が言葉に困っているとティリアは遮るように刀をチャキッと構え直した。
「まだ向こうはやる気みたいです。」
「……いい加減にしてほしいんだけどね。」
ティリアの一閃で足をやられた兵士はすぐさま他の兵士の手によって下げられ、それに入れ替わるように兵士が入ってこようと、進軍を開始している。
「さて、さっさと終わらせてご主人のサポートにいきたいですね。」
「まぁ…アイツのことだから到着する頃には終わってるとは思うんだけどね。」
兵士の波が門を越えようとした時、
「撃て!!」
後ろから響いた号令と共に雨のように矢が兵士に降り注ぎ始めた。
「こっちだ!」
かけられた声に従ってティリアを連れて身近にあったバリケードに身を潜ませる。ユウが作っていたこれがまさかここまで役に立つとは。一息いれてから辺りの状況を確認するとあちこちのバリケードから弓矢をつがえたここの仲間達が次々に矢を発射して途切れることない矢の雨を降らせ、それでも少なからず抜けてくる兵士は前方のバリケードにいる仲間が槍で迎撃をしていた。
「凄いわね…」
「中々崩しづらいと思いますよ。この布陣なら。」
私がバリケードから顔を覗かせて関心していると、横で同じようにしているティリアも難しそうな顔をしてそんなことを言い出した。
「ティリアなら簡単でしょ…。さっき撃ったあの魔法?で。」
「?『鎌鼬』ですか?あれは奥義なのでご主人ときめきゲージを消費しないと撃てないんです。ちなみにあれは3ときめき消費です。」
「…………ん?ええと…ご主人成分?だっけ。あれとは、また」
「全くの別物です。ご主人成分は密着、ご主人の匂いで補給可能な、私の活動の要とも成りうる成分ですけれど、ご主人ときめきゲージはご主人から何かときめくようなことをされたら1、回復できる貴重なものなんです。」
「…………。」
キリッ。とした表情がスゴくイラッとする。単純に訳が分からない。
「つまり?」
「ご主人成分はそうですね…例えるならば毎日の食事、ご主人ときめきゲージは」
「ゲージは?」
「愛です。」
「ああ……うん。」
きっと親友の頭を犯している病魔はメディオールでも治療は出来ないんだろう。非常に残念だ。…2重の意味で。
「アニエス。」
思いっきり親友の頭を小突いたらもしかしたら治るかも。と真剣に悩んでいると私達がいるバリケードに槍を携えたファルクが滑り込んできた。
「状況は今どんな感じなの?」
「……良いとも言えん。悪いとも言い切れない。五分といったところか。」
そういうファルクも所々汚れているし、槍の穂先は兵士の返り血でしっとりと濡れている。
「今ユウがアンタのとこの短剣使いの…ええと、「レオラか?」れおらを連れて敵の大砲を壊しに行ったわ。」
「そうか…なら私達は今この状態を保った方がいいな。」
ファルクは短くまとめると部下に何かを指示するとバリケードから顔を覗かせ
「……出来ることなら援軍でも送りたいところだが…」
憎々しそうに呟いた。
「それなら要らないですよ。」
「何?」
「ティリアの言う通りよ。破壊しにいく。って言ってたときのアイツ、」
ふぅ。と息をついて少しの休憩。あまりのんびりしてはいられない。
「珍しく怒ってたから。」
向かって来る兵士はあまりいない。どいつもこいつも接近すると同時に素早く倒していく。剣はそれごと熊手で殴り砕いて、槍は紙一重で避けてカウンター。たまに現れる隊長格の一人が何かを叫びながら俺の進行線上に躍り出てきた。
「邪魔なんだよ!」
踏み切ると右の回し蹴り。腕で防がれたけどそのまま体を回してそのまま左のかかとでガードの無くなった顎に一撃。着地すると崩れ落ちた隊長格の膝、もも、肩と駆け上がりさらに奥へ。流石に丈夫らしく振り向いて追ってこようとするが俺に続いてくるレオラの一閃でその意識ごと斬り裂かれる。俺は飛び上がってしまったから、そのまま獣のように兵士に襲いかかり着地と同時に一人を地面にめり込ませる。他の兵士から振るわれる剣をコートで防いで足を掴みあげて投げ飛ばし、さらに奥へ!
「飛ばしすぎだ!戦場で孤立することがどれだけ危険だと思っている!」
「あぶねぇのは分かってる!でも今は止めないともっと被害が増してくる!」
後ろから忠告を受けるけどそんなことは今気にしていられない。一刻も早く!
「レオラ!どこら辺から砲撃はやる予定なんだ?」
「……もう少しで予定地点だ!私が知っている限りはそこから砲撃は行われている!」
レオラを連れてきたのは恐らくこういう時の配置を知っていると思ったから。ファルクはどうやら帝国にいたときはかなりの上級階級だったらしく、レオラとシエラもその時からの仲間と言っていたことを思い出して連れて来たけれどあながち間違いでもなかった。
「そこだ!」
兵士の波越しに見える天井が開き、四方を赤い布のようなもので囲った4角形の簡単なテントのようなものが見えた。
「よっしゃ!」
確認したのが合図になったようにまた1発拠点に向けて砲弾が音もなく飛んでいった。
「……!一気に抜ける!」
横を駆けているレオラの腰のベルトをむんずと掴んで肩に担ぎ上げて背負う形になる。
「な…!お前どこを触って!」
驚いて抗議の声を上げるレオラを無視して狼化した脚力で一気に駆け抜ける!
「待て!ぶつかる…!」
「壊せばいいんだろ!」
加速の勢いをそのままにテントの幕を蹴破って中に絡むようにして転がり込む。
次の砲弾が飛ぶ前に壊そうと顔を上げて、
目の前の光景に固まった。
大砲があると思われていたそこにはイメージしていた黒い砲身はなかった。
替わりに立っていたのは砲弾をボールのように片手で持つ毛皮を着た男ともう一人、ゲームで魔法使いが着ているようなマントと帽子を被り、つまらなそうに奥の木箱に腰かける女がいるだけだった。
「ん?……おお!誰かと思えばレオラか!立派になったな!昔俺が練習に付き合ったときはまだちっこい子供だったのに…いやぁ久しぶりだな!」
茫然と固まっていると男の方は持っていた砲弾を地面に置き、レオラを見つけると久しぶりに会った親戚を懐かしむかのように話しかけてきた。
「それと…もう一人は誰だ?」
「その子が例の。」
「ああ!あのイレウスの計画を壊したやつか!こんなことまで突っ込んでくるとはなぁ…いや感心した!」
ワハハ!と笑う男の身長はノッチほど高くはない…ざっと180位だろうか。後ろでその男の態度に呆れたようにため息をつく女よりも…感覚的に分かる。
この男は強い。
ザッ。とはだしでこちらに歩いてくる男から少しでも距離を置こうと下がると背中に何かが当たった。素早く確かめると目の前の男に視線を置いたまま…腰を抜かしているレオラがいた。
「ん?どうしたレオラ!こういう時はすぐ起きないと危ないと教えなかったか?!」
男はそんな隙だらけのレオラに対してまるで弟子を教える師匠のような口ぶりで話しかけている。
レオラと男の間に入り、後ろに押しやろうとしても固まったまま動こうとしない。
「……誰なんだアイツ。」
「逃げろ……」
「は?」
震えた声で俺に警告をしてくるレオラはもう完全に怯えて戦意がない。
「奴は……ブレグマだ。」
「……ハッ。ファルクが言っていたのと随分違うな…!」
「ファルク?懐かしいな。俺のことを何ていっていた?」
ファルクと聞いて歩みを止めはしたものの漂ってくるブレグマとやらの強さ。
向こうの世界でもヤンキーに絡まれた時に感じたものとは違う体を竦み上がらせるような感覚に負けないように狼化をより濃くして、こう答えた。
「……絶対に来ない筈だって言ってたよ。」




