基本、秘奥義ってサブキャラとかそういう方が強い気がする。
何時だったか見た…確か中学生の時社会の資料集で見た大昔の大砲の写真を見て、『ほんとにこんなもので侵略とか、どうやるんだろ。』と思っていたことがあった。先生の言うには対象を追い詰めてこれをしこたま放り込んで残りはしらみ潰しだったらしい。
……なるほどな。こういうことかよ…!
「ゴホッ!くっそ…」
砲弾が炸裂した爆煙の中、頭に飛んできた土を払いながらバリケードから顔を覗かせると着弾地点は思っていたよりも抉れておらず、1mほどの浅い穴が空きその回りの土が少し焦げたのか黒ずんで、辺り一面に爆竹を炸裂させたときのあの独特な火薬臭が漂っている。そのなかに…大丈夫だ。肉が焼ける臭いはない。呼び掛けに素早く反応してバリケードに各々身を隠してくれた結果だろう。
ホッとしていると手がニュッと伸ばされ俺の胸ぐらを掴みあげるとバリケードの中に勢いよく引き込んできた。
「ちょっと!あれ何!」
いつも堂々としているアニエスが完全に面食らって焦っているのを見るにきっとここでは大砲なんて物はなかったのだろう。それは薄々思っていたけれど、
思い返せばここでの武器は剣や槍、弓が殆どだった。それはそうだろう。使うときは獣を倒して食料にするとき、たまに現れるゴブリンやオーク(国の外に出ることが一生で一番多く、そういうところに行きがちな探索者でも生涯見たことがないことの方が多いらしい。)などは…まず戦うことはしないし、
円形の強固な国の中ではその兵器は必要性が皆無だから。だから存在しない。
「…大砲だよ。」
「た、タイホウ?」
「ああ。」
未だに俺を掴んでいる年の割にちっこい手を出来るだけ優しく外して、バリケード越しに門の外、拠点の中をニヤニヤ眺めている兵士を睨み
「絶対、ここには必要ないものだ。」
簡単にそう返した。
「凄い音がしたわよ…」
「……まぁ向こうが想像した完成品とは違うだろうけどな。」
「え?」
火薬が入っているようだけれどこれでは単なるかなり大きな爆竹だ。真下にいたら大ダメージだけれど距離さえあればどうということはない。…だとするとこれはまだ、
「ちょっと!」
「ん。ああ…威力としてはあの通り対したことはない。けど…」
「連続で撃ち込まれたら厄介よ…」
呟くアニエスに目立ったダメージはない。バリケードの中にいたファルクのメンバーも完全に怯んではいるけれどダメージはない。
「アニエス。ここの指揮任せていいか。」
「…アンタは?」
「今ここでアレを知ってるのは…多分俺を入れて二人だ。…多分。うん。」
言った手前もう少しいそうな気がしたけれどそこは飲み込んで先を急ぐ。
「とりあえずここの指揮官どのが向こうで自分の部下を立て直してるから俺は中間を立て直してくる。」
そう伝えてからバリケードをひらりと飛び越してノッチ、ティリアがいる中衛に向かって駆けていく。狼化していたから直ぐに着いたけれど案の定、そこでは大砲を知らなくて右往左往している中、兵士を相手取っているため、軽くパニック状態になっていた。目の前でこちらに向かって傷ついた仲間に肩を貸してヨロヨロと歩いてくるファルクのメンバーに背後から剣を振り下ろそうとしていた。
「この…野郎ぉぉぉぉお!!」
叫びながら有らん限りの加速で一気に肉薄して、背中を切り裂く寸前の剣の刀身を一撃で殴り砕いてから兵士の頭の掴みあげ、密集しているところに思いっきり投げ飛ばし、団子状になって吹き飛んだ塊を見やってノッチとティリアの姿を探すけれど混戦状態なのが災いして見つからない。
なら……!肩幅に足を開いて息を思いっきり吸い込む。狼化しているからか、体中を駆け巡る力も、奥底から沸き上がってくるマグマのような何かに頭を白く染められる感触を感じる間もなく、
「ぅおあらぁぁぁぁああああああ!!!」
力の限り叫び声をあげる。
自分でもどこから出たのか分からないほどの声量とそれを遥かに上回る迫力に兵士はおろか、仲間まで怯んだ合間を縫って二人の人影を見つけて少し安心する。
「ユウ!さっきのは?…ああ、爆発したほうだ!」
「向こうさんの新兵器だよ。直接当たらなければ威力は無視できる。あとは音にビビらないようにしてくれ!」
分かった。と短く返事を返して指揮を取りに戻ったノッチと入れ替えて駆けてきたもう一人をねぎらいの言葉と共に迎える。
「ご主人!私は平気ですよ!」
「おお…うんそうだな。平気そうで何より…」
「ご主人?」
囲ってくる兵士を神速の居合で退けつつ俺に媚を売ってくる側近。
「……お前なんで完全に無傷なの?」
その姿は1滴の返り血も土埃もなく、綺麗なものだった。
「私の可愛さが汚れに勝ったからです。」
「ちゃんと答えろ。」
「風の膜をまとっふぇふぃますから。汚れだろうが返り血だろうが吹き飛ばしちゃいますよ。」
俺にほっぺたを両側から押さえられつつも胸を張って偉そうに『できる側近アピール』を決して止めようとはしない。
しかし風の膜…なるほど。道理でさっきからティリアに飛んできている矢が明後日の方向に飛んでいったり、不自然に失速する訳だ。……強すぎないかこの側近。
「じゃあここは任せていいか?」
「え……?」
「捨てられた仔犬みたいな表情をするんじゃない。……さっきの大砲壊してこないといけないからな。」
「一人は危険ですよ。私が許しません。」
確かに敵陣の奥深くまで単機特攻して大砲を破壊、なおかつそのあと戻ってくるのは流石に無謀だ。
「……まぁそうなんだけどな。これ以上、アレを撃たせる訳には行かねぇんだ。」
さっきは偶然被害がなかった。けど次は無い。連続で飛んできたらいつかはバリケードも燃えてしまうし、それよりも防衛がより厳しくなってしまう。
「むーーーー……」
「膨れるなって。な?」
「反対!私はぁ…反対します!」
「うるさい!耳元で大声を出すんじゃない!」
よほど俺に行って欲しくないらしくわざわざ寄ってきてピョンピョンと跳ねながら大声を出して抗議してくる側近。
「隙だらけだぜぇぇっぇええ!」
その後ろから当然の如く襲いかかってくる兵士を睨みつけると振り向き様の一閃で袈裟斬りにし、一瞬で黙らせてしまった。
「私は反対!」
「今の一連の行動を無かったことにするんじゃない。」
「それよりもご主人!今はさっきの攻撃で中に入ってしまった兵士を倒す方が先決ですよ!」
「おお…どうしたいきなり。」
「先決ですよ!!」
「分かった2回言うんじゃない!」
さっきからやたらとプッシュしてくるティリアを宥めつつ、体を離す。ティリアの言うこともその通りだけれども早く大砲を破壊しないとこちらが後手後手になってしまう。
「おい!何を惚けているんだ!敵はまだいるんだぞ!」
どう説得しようかと考えているとレオラがこちらに駆けてきた。どちらも手傷を負ってはいるけれどどれも浅くまだまだ戦闘は充分にできそうな…
いいことが閃いた。
「ティリア。」
ポン。と肩に手を置いて語りかける。
「俺はこれから大砲を破壊してこないといけないんだ。」
「ですけど…」
「ああ、分かってる。だが俺もお前を傷つけたくなんてないんだ!」
ティリアの発言を遮って物凄くわざとらしくオーバーに反応すると固まるティリア。
…よし。
「傷つくのは嫌ですか…」
「そうだ!だから俺はこれから…!壊しにいかないといけない。……!分かってくれるね?」
途中で襲ってきた兵士の一撃で伸しつつ演技を続ける。
「えぅ……でもご主人一人だと危険ですよ……」
…よし。『えぅ…』と言うときは信念が折れ始めた時や本当に困ったときしか出てこない、イケる。
「その心配なら要らないんだ。ティリア。」
そういって俺が小芝居をしているせいで兵士を相手取っているレオラを差す。
「あんなところに使い捨ての盾が転がっている。俺はアレを駆使して必ず還ってくる。」
「……駆け落ち。」
「違う。」
おっと、演技が途切れてしまった。
「使い捨ての盾……」
「そうだ。アレを使って俺は無傷で還ってくる。だから……わかってくれるな?」
キラキラとした笑顔でティリアの肩に手を置くと
「……はい!」
計画通り。
心の中でほくそ笑んでおく。
表情はキラキラ笑顔のまま。
「ティリアはここで拠点に入ろうとしてくる兵士を斬って斬って、斬っていればいいんだ。ただし殺しちゃダメだぞ?」
「はい!」
目が若干ユンユンと妖しく光っているけど今は気にしない。ついでに少し強化しておこう。
「いいか?ティリア。俺がここに戻ってきた時に斬り伏せた敵の数、イコール俺への…うぅんと……忠誠だ。いいか?斬った数がそのまま俺への忠誠なんだ。分かったな?」
「はい!!」
完全に目の奥の光がトんだ側近に任せてレオラがてこずっている兵士達をラッシュで沈める。
「……誰が使い捨ての盾だ。」
「ああ言わないと言うこと聞かなかったから仕方ないだろ。」
「破壊するのはいいけれど!あの兵士の数をどう抜ける?」
「正面突破しかないだろ!」
そう返して駆け出そうとした。
「……この一閃は神風。」
後ろから聞こえてくるあまりにも不穏な声。足を止めてレオラと後ろを向くとティリアが刀を体の前の空気をヒュンヒュンと斬り裂いていた。
「地上に蔓延る悪鬼羅刹、一切の不浄、そしてご主人に仇なす万物に……」
唱えながら刀をゆっくりと鞘に納めていくティリア。
「等しく神罰を与える。」
キンッ。と納めると居合の姿勢までティリアを中心に吹き荒れる突風の中、ゆっくりとゆっくりと移していく。
「彼の神風を浴びることはこの上なき誉れ…ご主人と同じ地に立ちし愚者よ。」
何かが取り憑いてしまったティリアはその白髪をたなびかせながらまだ詠唱を止めない。
「地に伏し、赦しを請え。」
ゾワッ!とまるで背中に液体窒素でも流し込まれたかのような悪寒を感じてすくんでいるレオラを抱えて狼化した脚力と反射神経でジャンプ。
「─『鎌鼬』!!」
ズッ…と何かがずれ込んだような音と居合の剣撃と共に放たれた斬撃はまっすぐに飛んでいき、寸前で回避が間に合った俺の足元の空気を飲み込むように飛び…
門に群がっていた兵士達の足を斬り飛ばし、そのまま深い森に消えていった。
「ご主人!今ですよ!」
「……おお。」
ニパァと笑顔の側近に手を振り返して地に伏した兵士達を飛び越えて直線上にこざっぱりした森を駆けていく。
「……お前の側近は人間か?」
「…………多分。」




