え、シリアス?まだまだ続くよ!
剣、剣、槍…たまに矢。右も左も全部俺を斬り倒す為に振るわれてくる。またしても襲い来る刃をいい加減面倒くさいから払ったりそらしたりもせず、真正面から一緒に蹴り砕いて兵士ごと吹き飛ばす。
「うぉおおお!」
物凄く野太い怒声を聞いて反射的に身を屈ませると頭上を何かが通りすぎ、目の前の地面を盛大に抉りとってまた上に上っていく。
「……斧かよ。」
きっと厳密に言ってしまえば戦斧というはずの幅広の両刃の斧を腕ではそらさずに体さばきだけで的確にかわしていく。
「ああいうのは苦手なんだけどな…。」
実をいうとこの狼化はあまりパワーというものがない。変化としてもベースの俺の体の上に黒い何かを纏っているだけなので速度はバカみたいに上がるけれど、元々の力としては俺の1.5倍、強度に至ってはあまり元々と変わらない。剣や矢ならそらしたり受けたり出来るけれど、ああいう戦斧とかになってくると…
「折れるな。受けたら…!っと。」
でもそうも言ってられない。俺がここで粘れば粘るほど拠点の体勢を整えやすいし、スライムも時間稼ぎが出来る。
「先手…はとられたけど、必勝!」
袈裟斬りの戦斧を潜り抜けて戦斧の使い手らしい巨体の腹に突き。確かな手応えを感じたが、何事もなかったかのように戦斧が振るわれる。
「効かねぇのかよ。」
結構手応えがあったにも関わらず平然としている戦斧使いを見ると向こうは勝ちを確信したのかニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべている。
「なら…!プランB!」
指先に集中をしてマンティコア戦でも作り出した鋭い爪を展開していい加減遅く感じてきた戦斧を避けて先程自信満々に受け止めた腹を真横に切り裂く。
「な、ぐぁっ!」
てっきりまた打撃だと思い込んでいたらしく、予想外の斬撃に前屈みになった所を見逃さずに
「おおらぁ!」
熊手で思いっきり殴り─まぁ狼撃な訳だけどこの戦場下で叫ぶのは恥ずかしい。─抱えやすい高さにきたところで……
少し離れると左右から人影が飛び出し、それぞれ一太刀ずつ与え、戦斧使いを斬り伏せてしまった。
「もう防衛線はいいのか?」
「まぁな。ユウが耐えてくれたお陰だ。」
大剣を担ぎ直して笑いかけてくれるノッチとノッチと一緒に上がってきたファルクの仲間に任せてひとまず後退する。
「私も頑張りましたよ……」
俺の背後にすがり付いて離れない側近を連れて。
「うん、そうだな。ありがとうなー。」
ここで感謝しておかないとあとがめんどくさいから完全に棒読みになりながらもティリアの頭を撫でてあげると途端に表情筋を緩ませて擦り寄ってきた。…なんで幼児退行するのか凄い謎だけれど。
そしてそんな隙だらけの奴が見逃される訳なく、怒声をあげながら駆け寄ってきた兵士達は、憐れにもティリアの風で掬い上げられ地面に叩きつけられていく。
「ご主人、少しお待ちください。」
俺の手をゆっくりと退かし、踵を返すと突撃してきた兵士の首を掴む。しかしさすがに場馴れしているらしくむしろ近づいてしまったティリアを突き刺そうと握りを変え…ようとはしたのだろう。
突如ティリアが発生させたミニサイズの竜巻が兵士の顔を襲うや否や、剣を取りこぼし必死に竜巻を揉み消そうとバタバタと両手を動かし始めた。恐らくあそこで激しく風が吹いていて呼吸がしづら…出来ないんだろう。背中しか見えないけどティリアの髪は僅かに広がり、メッチャ怒っているのがよくわかる。しばらくして動きが鈍くなってきたところで手を離して兵士を開放するティリア。ビクビクと動いている兵士を見る限り殺してはいないようだ。
「私がせっかくご主人に誉めて貰っている時に横槍をいれたんです……!」
言いながら腰の刀を抜き放ち、1回2回と体の回りで振り…
「楽に倒れるなんて思わないで下さいよ……!」
「そんなに怒るなよ……」
ゆらゆらと辺りの空気を歪ませながら進んでいくティリアに呼び掛けておくとゆっくり、親指を立ててきた。不安しか残らない。
「ユウ!」
ティリア(怒りモード)に任せてひとまずバリケードまで下がると、指揮の一部を任されていたアニエスが呼び掛けてきた。
「アニエス。防衛ラインは?」
「大丈夫よ。今のとこはね。……ただ不安なのは」
「あまりにも攻撃の手が弱いことか?」
「そ。今は門の前にノッチと…さっきレオラが出ていって、ティリアが今そこの中衛。弱くはないわ。だけどスライムを奪いにきたにしては余りにも消極的。ファルクも不思議に思って私に指揮を少し任せてここで待機させてるけど。」
意外とスラスラと戦況を説明しだすアニエスに少し驚きながらも考える。確かにさっきの戦斧使いもどちらかというと俺を殺そうとはしていなかった気がする。極端な話素手しかないのが分かっているんだから槍を1列にズラリと並べ、間や上等の隙間は盾でしっかり埋めてしまえば俺は手も足も出ないから下がるしかない。そしたら拠点という籠の中で向こうは数で押しきってしまえばそれで終わりだ。
「ってことは…何かあるってことか?」
拠点の構造もそうだけれど、ファルク、最近外での戦闘が多かった俺もその戦い方は向こうに熟知されている。知っていてそうしないということは、何の意味が……
「……あれ何?」
「ん?」
考えを巡らせているとアニエスが何かに気づいて空を見ている。
「あれよ。なんかおっきい…鉄球?みたいなのがこっちに飛んできてるんだけど。」
アニエスが指差す方向から確かに高い高い軌道で放物線を描きながら鉄の玉が飛んできている…ヒュルルルルと唸りをあげて。
「まずい…!」
「何よ?ここら辺に落ちてくるわね…あんなの撃ち返しちゃえばいいんでしょ?!」
言葉の通りにバリケードから身を出したアニエスの首根っこを押さえつけて強制的に隠し
「全員避けろ!!」
叫んだその瞬間、
この世界では見慣れない─爆薬─が目の前で爆音と共に炸裂した。
ここで私事ではございますが少し忙しくなって来てまして…土曜の更新が出来ない週が出てきてしまうかもしれません。
ですけれども水曜は必ず更新しますし、この話はエンディングまで(……まぁ私自身、練ってある話やネタの数々がいつ書き終わるのか分かりませんがね!)根菜……違った連載が終わることはありませんので。
そこの所はご安心ください。
え、後書きが長い?
気にせんでください。
それではこの章もあと3ヶ月!(長い)ごゆっくりお楽しみ下さい!
あ、感想という後書きへのダメ出し、文章の誤字脱字、作者の生態等々ありましたらコメントいただけるとありがたいです。




