ゲーム中いきなり性格が変わるヤツが一人はいるとそれはそれでおもしろい。
「逃げるな。大人しくしていればものの数分でカタがつく。」
「俺の命と引き換えだろうが!」
縄を手にこちらにジワリジワリと近寄ってくるファルクを相手にこちらもファルクに決して背中を見せずに摺り足で拠点を囲う壁沿いに逃げていく。
あの後ファルクが打ち出した作戦は、まずここから少し離れた場所に誰かを磔にしておき、ダミーのスライムを持たせ、スライムのダミーごと自陣に引き込んだところを後ろから攻め立てる。というガッバガバなトロイ作戦だった。捕まったらまず磔にされた誰かはどうやって拘束を解くんだ。とか、スライムだけ持ち帰ってしまったらむしろ磔にされた場所で戦闘開始になるからソイツに待っているのは確実に関係ない弓矢か剣が飛んできて身を守れずに即死だ。その場合は?とか。諸々の意見を言うよりも早くファルクが手にした縄を寸前で避け続けて……で、今現在。
「私の作戦のどこが不満だと言うんだ。完璧じゃないか。」
「俺のことは度外視か!」
珍しく不機嫌を隠すことなく眉間にシワを寄せたファルクはついに縄をカウボーイのように回し始めた。通常あそこから腕のスイングで縄を投げるところをあの神速の槍使いはあの状態から手首のスナップだけで正確に投げてくるから、油断しているとあっという間に捕まる。
「というか…誰か助けろ!」
ファルクから目を離さずに回りの警護当番でない奴等に救援を求めるけれども、そもそもファルクがリーダーなのだから、やれ『抵抗をやめろ!』だの『大人しく捕まれ!』と立てこもり犯に対する喚起しか飛んでこない。
「無駄な抵抗は止めなさい!」
「お前は俺の味方だろうが!」
そのなかでひときわ通る声でヤジを飛ばしてくる金髪のアホはいつか殴る。
「ご主人……ううっ。私が必ず助けます!」
「今来なさい!」
地に伏して泣き崩れ…絶賛悲劇のヒロインごっこをエンジョイしている側近は今だ(嘘)泣き止まず。
「大体この作戦はユウ。お前じゃなければ成立しないんだ。ここ最近拠点に現れる黒コートの戦闘狂が。な。」
「道理で最近外での戦闘当番が多かったわけだな…!」
来る日も来る日も、外での戦闘しか来なかったからおかしいとは思っていた。
縄が当たったらもう絡め取られて磔コースなので、必死に避けながら門の近くまで移動し続ける。戦いの基本は足を止めないこと、特に俺みたいな近距離職は絶対に止まらず!
しかしあくまでもデータ取りの為に作られた集落の壁の外周は狭く、あっという間に門の柱に背中が当たってしまう。
気がつけば辺りには見張りの交代の時間を迎えて見張り台を登り降りするファルクの仲間達が俺にアッツイヤジを飛ばしてきてくれている。レオラは黙って傍観しているがシエラに至ってはヤジに加えて弓矢まで持ち出す熱烈っぷり。…アイツらも後で叩いておこう。
「さぁ。観念しろ。一発で楽に…!」
縄を回しながら…突如門の先、向こう側に鋭い視線を向けるファルク。一気にシン…と静まり返る空気の中、各々が気取られないようにゆっくりと体勢を整えだした、正にその時、
オオオオオオオオオオ!!
森の中から勇ましい怒声と共に一斉に男達が門に雪崩れ込んできた。
バリケードまで下がろうと身を返すと門の先にあのダサいカラーリングの隊服ではなく森に潜む為の深緑のカラーリングに変わってはいるけれども、紛れもない帝国兵の編隊が視界に入った。
「わざわざ見張りの交代時間まで潜んでたんかよ……!大人気だなここは!」
毒づいてさらに距離を取ろうとした時、まだ近くでもたついている仲間が見えた。多分交代要員だろうけど…!
「サポート!」
そう叫んで上体を倒し、一気に肉薄。
面食らっている兵士の一人をドロップキック気味の蹴りで後続ごと蹴り飛ばし、横をすり抜けようとした兵士の腰を掴んで門の外に投げ出す。
「死ねぇ!」
ベタな叫びと共に横から振るわれた剣を少し下がってかわし、左足で思いっきり踏み抜いて地面にめり込ませる。正面から突き出されたハルバードを剣を振るい、前傾になった兵士の背中を踏み台にして上にジャンプ。降りるときに引き戻されようとしているハルバードごと踏み台にした兵士を右足で蹴り、地面と一体化させる。
「この野郎!」
ハルバードを折られた兵士が腰の剣で斬りかかってきたので素早く懐に潜り込んで斬られるのを阻止。そのまま肘を腹、喉、顎に入れて離れたところで、また蹴り飛ばして後続と一緒に絡めて戦闘不能に。
左右の兵士から繰り出される剣はコートの腕部分に付いているプロテクターでガードしつつ、サポートを待つ。
「ユウ!」
後ろから響くファルクの声に、思いっきり弾いて剣を削りバックステップで後ろに下がる。追って飛び出してきた兵士はカウンターの左掌底で昏倒させてからしゃがむ。
目の前で振りかぶっていた数人が風の弾丸に吹き飛ばされると同時に俺の首にパサリとかかる……
見覚えのある縄。
体を指し貫くかのような悪寒とともに急いで縄を掴むと首ごと引っこ抜かれる勢いで縄が引き戻された。
「うごごおごごご!痛い痛い!背中擦れてる!」
大昔にあった市中引き回しの刑の如く勢いよく引っ張られたまま門の中に入り、バリケードに頭からぶつかってようやく止まった。
「手荒になった!すまん!」
「気にすんな!それにしても随分せっかちだな敵さんも!まだ来ないんじゃなかったのか?」
バリケードに当たった衝撃で縄が緩んだ一瞬で抜け出してバリケードの中に身を隠して少しの間息を整える。まだ本格的に拠点に入られてはいないけれどそこかしこでの散発的な戦闘は始まっているのが音で分かる。
「ユウ!フロントに出て!」
「あ?!お前は平気なんか?」
アニエスが兵士と斬り結びながら俺に指令を出してきた。向こうの方が体格が大きいから割り込もうかとしたら、一歩踏み込んだらもう叩き伏せていた。何なのアイツ。
「ハァッ!なだれ込んできたらあっという間に終わるわ!アンタはこっちの体勢が整うまで門の死守!」
荒々しく息を吐き出して俺に指示を出すと自分の死角から襲ってきた兵士をまたもメイスの一撃で殴り倒して
「思う存分暴れてきなさい!!」
「……いいのか?多分うっかり死ぬかもだぞ!」
「コイツらはしぶといから平気なはず!それに……!」
アニエスは剣をメイスで弾いて俺にぶつかるように止まり
「ここまで来たら正当防衛!」
偉そうに胸を張って堂々たる宣言。
「……それもそうか。」「そうよ!」
短いやりとりの後、一気に狼化。俺が相手していた兵士の剣を掴んで一息で握り砕くと砕いた際の拳のままソイツを殴り倒す。ついでにアニエスが相手していたヤツは…面倒だから阿吽の呼吸でしゃがんでくれたアニエスの背中を借りて飛び上がり、頭上を飛び越すついでに膝蹴りでKO。
「貸しな!」
「出来て当然!」
どうやらあの程度なら貸しにもならないらしい。
着地の瞬間を狙ってきた槍は面倒だから穂先を噛んで横に反らし、上体がグラついた隙を見逃さずに体の捻りを加えた右の掌底で文字通り吹き飛ばす。
何人かと揉み合うように倒れたのを見届けるとちょうどいいタイミングで銅鑼が打ち鳴らされた。そこそこ体勢が整ってきたんだろう。
「さぁ……開戦だ!」
まずは侵入を試みていた近場の一人を投げ飛ばして次の獲物を見定めた。




