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人のトラウマはその人の歴史

─晴れた日には外に出て日を浴びなさい


昔母にそう教えられたことを不意に思い出した。窓の外を覗くとサンサンと太陽が照っていて、『あの日差しの下で走り回れたら気持ちいいだろうな。』と考える。


「いい加減外に出たらどうだ?」


ノッチが笑いながら話しかけてくる


「前に出たときは確かに良かったよ。」




あの勝負の後、無事に入った俺を迎えてくれたのは陽気な国民達だった。


最初の方は『見慣れないけどどっから来たのか』とか。


だがノッチがポロっと異世界から来たという事実をみんなに伝えた瞬間、全てが変わった。


様々な人が興味津々に聞いてきて、そのあまりの恐ろしさに逃走。ノッチの家に避難。そのまま、ほとぼりが冷めるのを待っていたが、


そこから『ウォーウルフを素手で狩った』、『兵士相手に素手で勝利』


この二つの事実が出回った時にそれは無くなった。




「今俺の噂ってどうなってる?」


「んー。俺が聞いた範囲だと『世界を終わらせる能力を持った異世界人。』ってのが一番多かったな。」


「持ってるわけないだろ…」



むしろ力が抜けて机に突っ伏す。


結局自分の能力は『意識を集中すると力が籠る。』ことしかわかっていない。



「そうだ。ユウに朗報だ。」


「…王国軍が来た。とかじゃないよな。」


「違う違う。まぁ来客だ。」


そう言ってドアを開けるとそこには150センチ位だろうか。『ドワーフっていったらこんな感じなんだろうな。』と思える男が立っていた。


「この王国で一番の武器屋、『トワフ』のオーナー、トワフだ。」


「武器屋?」


トワフはトコトコと俺の近くまで近寄ってくるとニカッと笑い、


「いや、どうもトワフって言います。今回はですね、武器が無いユウ様にこちらが全面投資という形で全身の武装を提供させていただきたくこうして訪れた次第でありまして、ああどんな無理難題でも構いませんよ。最大限その意見に添えるような武装を用意させて見せますので!ただその代わりにこれからは『トワフ』の広告塔になっていただくのが条件なのですが。万が一武装が気にいただかなかった場合作り直しも承っ」「ちょっと待て。」


なんとここまで一息。というか広告塔ってなんだ。


「ええと、要約すると、広告塔になる代わりに武装をくれるって訳か?」


「まぁそうですな。」


「すまんな。腕は確かなんだが喋り出すと長いんだ。」


少し考えてみる。広告塔とやらで何をするのか分からないのだが、まぁ…


「…紙か何かあるか?説明するより描いた方が早い気がする。」


ここはくれるというのなら貰っておこう。


ノッチから紙とペン─森で見た哀れな鷹の羽のペン─を受け取り、描き始める。


「ほう…なかなか上手ですな。やはりウォーウルフを倒せる方は多芸なのでしょうかねぇ?」


トワフは何故かニヤニヤ笑いながらノッチを見ている。


「…ノーコメントだ。」


そして当の本人はそう言って天井を見始めた。


「なぁ、ウォーウルフって狩れると何でこんなに扱いが凄いんだ?」


その場の空気を変えるため、気になっていたことを聞いてみる。するとノッチが凄い勢いで食いついてきた。



「ウォーウルフはこのアリュキス王国でも最強格のモンスターだからな!大抵の奴があの巨体の飛び掛かりで死んじまう!だから誰も狩りに行かないようにしたんだ!」


空気が変わったのがよっぽど嬉しかったのか顔を輝かせながら答えてくる。


それと対象にトワフはつまらなそうな顔をしている。…凄く気になる。



「それを素手で倒したって言うんだからみんな驚いたものだ。」


「そんなもんか…むしろ俺は最初に見たのがアレだったから平均がアレかと。」


「ちなみにここら辺一帯で一番弱いのはウルフなのですよ。」


「それもどうかと思うけどな…」


「スライムがあれかよ……」


「すらいむ?何だそれ。」


「いや。何でもない。」


そう考えるとファンタジー100%になってしまう。だから例えばこの先ゴブリンとかバフォメットとか。最悪ドラゴン…


「もしかして…ドラゴンとかいるのか?」


俺が先程言ったすらいむのイメージをしていたらしいノッチに聞いてみる。


「ああ、いるっちゃいる。昔話とか伝記には出てくるし。実物はないな。」


ということはあくまで物語の中の存在ということだろう。紙に描いていた長大なハルバードを消しておく。


「ワイバーンっていう飛竜ならいるぞ。」


ハルバードを書き直す必要が出てきた。



冷静に考えてみたら俺の戦闘スタイルにハルバードが合うとは思えなかったので却下。細部のデザインを書き積めていると、すっかり空になったコップを玩びながら


「あんまり驚かないな。」


ノッチが意外そうな雰囲気で聞いてきた。


「何に?」


「俺だったらパニックになるな。いきなり全く知らない世界に放り込まれた訳だろ?」


「あー、何かな。今なら大抵の事じゃ驚かなくなった。そういうノッチも驚く事なんて無いだろ。」


愉快そうに笑いながら、


「まぁな。」と一言。


「未知の領域に踏み出していくってのにそのひとつひとつに、いちいち驚いていたら、命がいくつあっても足りないしな。」


「そう言えばノッチさん。あの方が近く手合わせしようと言ってましたよ。」


「既に死んだと言ってくれ。」


またしても顔面を蒼白にするノッチ。



「良し。出来た。」


それから暫くしてイメージ画が出来たのでトワフに丸めて渡す。


外はもうすっかり夕暮れ模様。


「はい。確かに。ではなるべく急いで作ります。」


受け取って扉に向かって歩きながらそんな事を言うトワフ。


「あんまり急がなくてもいいですよ。」


事実なかなか難しい注文をしてしまった。


完成には二週間…位だろうか。


するとトワフは扉に手をかけたままこっちを向いて




「3日後、国軍が来るのにですか?」


なんて事を仰った。


「は?」


「『ウォーウルフを素手で狩った異世界人』を捕らえる為に万が一の反撃を恐れて近く、精鋭軍団が来るとか。」


国軍?ということは間違いなくあの兵士より強い。何倍も。


「ウォーウルフ狩っただけでそこまで警戒しなくても…」


「何でもその異世界人はその直後、素手で武装した兵士を倒したって話ですよ?」


言いながら渡した図面を確認している。


「…どうやら本物のようで。」


こちらを見てニヤニヤ笑うトワフ。


確かにそんな感じのイメージにはしたが…


笑いが腹立つ。確実に楽しんでいる。


「ま、大丈夫だ。」


俺の肩に手をおきながら悲しそうに笑うノッチ。だが目を見れば分かる。


─コイツも楽しんでやがる。



そのまま立ち去りながら、


「まぁ早めに完成させていただきます。


あ、そうだ。」


そこまで言うと半分閉まったドアから顔を出して、そんな俺に同情の目を向けているノッチに先程の嫌らしい笑みを向け、


「その中にはあの人もいますよ。」


「は?」


「匿っているのがノッチなら私が行こう。と言ったそうで。隊長になったから、確実に来るでしょうね。では。」


そう言ってドアを閉めた。




俺とノッチで暫く硬直。


部屋の空気と同じように冷めきったお茶を飲んで引っ掛かった事を聞く。


「あの人って?」


「…ノーコメントだ。」


某ボクサーのように真っ白になったノッチがそこにいた。



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