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瓶って開かない時は絶対に開かない。

青い液体─スライムの満ちた瓶をじっくりと眺める。


「……なんも見えねぇ。」と俺。


「うっっっっっすら何か分かる。」と眉間に思いっきりシワを寄せたアニエス。


「…ダメだ。ユウと同じくなんも見えない。」と、ノッチ。


「私も何も見えません!」それに便乗する側近。


「ティリア、ここに何がある?」


「あ、ここは解除阻害の式がうようよしてます。」


「しっかり見えてんじゃねぇか。」


「いや、少し私にも欠点があった方がご主人もいいかな。と思いまして。」


「よし、帰ったら楽しみにしてろ?お前の欠点を小冊子にして渡してやる。」


そんな外野の声など聞こえていないかのように熱心に談義を続ける二人組を後ろでガヤガヤして結論が出るのを待つ。


「…ここは解除してもいいんじゃないかい?」


「解除しても…そうすると、多分この式が血管内の走行だと思うんですよ。」


「そっか。ここ切っちゃうと細胞が危ないわけか。」


「体の表面に留まるだけならそれでいいんですけどね…」


「核がもし拡散型だったら大変だもんなぁ…」


「「うーーーーーーーーん……」」


元からここにいたファルク隊の魔法使いを茅の外に押しやってシスティとヘンリのスライム解析は続く。




「何を話しているんだ?」


「ファルク。俺は実は魔法を使えない。」


「つまり?」


「さっぱり分からない。」


簡潔に答えるとお茶を一口飲み、


「そうか。」


さっくりと答えた。



あのあと悩んでいると、


『面白いですねー。』と的はずれなことを言いながらその意見に共感したヘンリと一緒にヤイヤイと言いつつ、スライムの分析に入った。これなら行けるか!と期待を寄せつつ待機を始めて…早30分。


まだ解除はできていないようだ。



「というかファルク。アンタの隊にもいたんじゃない。魔法使い。」


先程からシスティ達の元にせっせと自分達の検証結果、帝国魔法を基本構成などの情報を運び続けているここの女の子達を眺めながらアニエスはまたお茶をすする。


「いたことにはいたんだがな。『使える。』だけだ。解除や解析などの高度なことはそもそも帝国にも一人しかいない。」


「へぇ…そうなんか。というかティリア。お前も参加してこい。ほら。」


「今はご主人成分の摂取が最優先なんですよ…」


「なんだその…何て?」


そういえばここに入ってきて、座った段階で俺の隣にピッタリくっついていたけれど、今はさらに融合が進み森の中でやったようなおんぶお化け状態に早変わりしている。しかも今度は足をしっかりと俺の腰に回しての完全ホールド。ティリアが着ている着物風戦闘服をデザインしたのが俺だから知っているが、ミニスカートの下に例えスパッツ状のものを履いていると知っていてもやめてほしい。


「そういえば、アニエス。」


「何よ。」


右側にいるアニエスに話しかけづらいからティリアに頭を左側に移してもらってからずっと気になっていたことを聞いてみる。



「プテリオン帝国って、何?」



「え?知らないの?アンタ…平気?」


「……知らないのか。」


「え?何これ知らない俺が変なの?」


『ユウ!ユウ!』


まさかのリアクションに呆然としているとノッチが小声で俺を呼んだ。


『何これ、俺が悪いの?俺が知らないのが悪いの?』


『いや…この世界ではもう常識的だから確かに知らないのが変なんだ。』


『マジか…』


『というかアニエス、知らなかったのか?』


『そういえばノッチ以外に俺、ここの世界の生まれじゃないっていってない気がする。』


『…俺も正直信じてなかったけど、あのリアクションからして本当みたいだな。』


『確信を得てもらったなら安心した。』



「何ヒソヒソ喋ってるのよ。」


「実は俺、記憶喪失だからな。詳しく幼少期を覚えてないんだ。」


「…都合よくない?」


いまいち納得していないようだけれど、別にいいや。ということになったらしい。


「まずは最初っからね。プテリオン帝国はここから南にある…あーっと…」


「早く言ってしまえば侵略国家だ。」


言いにくそうなアニエスのバトンを受けとるようにファルクが喋りだした。


「いいの?」


「元、だしな。それに私はあそこの生まれでもない。」


そう言うと一呼吸置いて語り始めた。


「そもそも帝国があるのはここから南の不毛の地にある。まぁ軍事国家だな。」


「…んん?待て待て。不毛の地?そこに国って…おかしくないか?」


「……ふーーん…やっぱりアンタ頭いいのね。」


「バカにすんなアホ。」


「すまんな。続けていいか?」


またしてもいつもの空気になる前にファルクが制して、先を続ける。


「まぁ…そうだな。国を創るには向かないところなのだが、何分場所が場所だったからな。」


「場所?」


「全部の主要国に均等な距離なのよ。」


「……すげぇなオイ。」


国の成り立ちに苦笑するしかできない。


「当然資源らしい資源もまともに採れないからな。そこは他の支国からの搬入という形で国が動いている。」


「支国…」


「平たく言っちゃえば過去、そこにあった国をそのままそっくり貰って自国に送ってる訳よ。侵略してね。」


「……」


色々と言いたいことが多すぎてうまく言葉にならない。ぷふー…と息を吐き出して数あることの中から一番聞きたいことを訪ねた。


「それで?今のここの戦力で本隊が攻めてきたらどうなるんだ?そのお国のトップならスライムが欲しくて欲しくて堪らないだろうからな。」


「そうだな…ユウの味方も相当に強いが、もって4時間だな。」


「絶望的ね。」


「もうひとつ気がかりなのが、陛下お抱えの奴……ブレグマが来たらもう諦めるしかない。」


「そんな化けもんまで抱えてんのかよ。」


本格的に苦笑するしかなくなってきたから、遠慮なく笑いながら少しでも情報を集める。


「んで、ソイツの特徴は?」


「素手だ。」


「「ユウ?」」


「失礼じゃね?」


ファルクが言った瞬間、アニエスとノッチがシンクロして俺を見てくる。


「常に素手で戦うところしか見たことがない。上半身は熊の毛皮の…襟にモフモフを付けた上着を着ている。それでもって下半身は皮のパンツのみ。という軽装のもうすぐ30になるオッサンだ。」


「その証言だけ聞くと完全な変態ね。」


「……チラッ」


「ティリア。ノッチをガン見するんじゃない。」


「俺はまだ25だぞ…」


ティリアの無垢な瞳にダメージを受けたノッチの背中を叩いて慰めながら続きを聞く。


「オッサン…って言っても完全、現役なんでしょ?というかファルク、アンタいくつよ。」


「私は19だ。」


「「「「「?!」」」」」


「なんだ?」


衝撃の告白に俺達だけでなくスライム解析班のシスティとヘンリまで勢いよくこちらを振りかえって目をいっぱいに見開いている。


「…あまりにも凛々しいから、私よりも少し年上なのかと。」と、この前23だとノッチにバラされたシスティ。


「初めて読みが外れたよ……」


「つうかヘンリお前何歳だよ。」


「秘密さ。」


「私の年齢なんてどうでもいいだろう。話を戻すと…そのオッサン、ブレグマは正直私でも勝てん。ユウお前も無理だろう。」


「だろうな。経験値がまず桁違いだ。」


今まで勝てていたのは悔しくもあるけれど、向こうの世界で戦いではないけれどケンカ(もちろん巻き込まれて仕方なく)した経験と、戦った相手が知らない─体を変化させて戦う奴というアドバンテージを利用した一撃必殺の高速離脱しかしていない。


もし戦う相手が俺の情報、戦い方、能力を熟知していたら話にならない。それとここに来る前に戦った上級兵達は最初の数人は問題なく倒せたけれど、終盤にはこちらの攻撃は何発か防がれている。


「いい勝負にはなると思うが、勝ちは期待しないほうがいい。死ぬぞ。」


「ファルク。その…熊?がそんな変態に近い格好してるのも……」


「『身軽じゃないと動けねぇ。それに弓なんかに当たんのはトロいからだ。』というのがモットーだ。」


「「「ユウ(ご主人)とそっくり。」」」


「悪かったな。」


確かに俺も似た考えでこういう装備にはなっているけれどこれでもコートやブーツ等はトワフの店の宣伝効果も担っているので最高級品だ。さっきの戦闘でも目立った傷はないし。


「だが、奴が出てくることはないだろう。」


「お?」


そのまま装備の軽い点検を始めようとしているとファルクが重要なことを言いそうだったから耳を澄ませる。


「奴は作戦指揮が出来ない。突撃以外の考えなんてないからな。」


「あ、やっぱり脳筋だったか。」


すごく安心して装備のチェックに戻る。



…もう、すぐそこまで来ているであろう戦闘に身構えて。



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