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ネバネバ、ヌチョヌチョ

「着いたぞ。ここが私達の拠点だ。」


「「はぁー…」」


「何抜けた返事してるんだよ…」


門というよりかは木製の木組みがそこだけ抜けたかのような出入口をくぐって中に入るとアニエスとノッチが感嘆の声をあげた。


「いや…ユウ、ここ何気に凄いぞ。きちんと組み上げられてるし、なによりも地形的にも守りやすい。」


「へぇー…そうなんだ。」


よく分からないのでそれっぽい返事を返すとティリアがムクッと顔を起こして辺りを厳しい目線で警戒し始めた。


「……むぅぅぅ。」


「起きたか?ティリア。」


「歓迎されてない空気が凄いので。」


「……そうみたいですね。」


苦笑するシスティの言う通りレオラとシエラは(シエラは今だ俺にあたるのが強いときが間々あるけれど。)皆一様に警戒している。しかも取り繕った感じもなく、不穏なアクションを起こした瞬間襲ってきそうな……


「すごいねユウ君。今の今までここでハーレムだったわけだ。」


「ヘンリ、滅多なことを言うな。マジで殺されるぞ。」


警戒度が確実に上がった。


回りの空気がピリッとする気配。


ティリアが俺の背中から降りて自然な動きで俺の利き手の逆サイド、左側に立ったのが証拠といってもいいだろう。…どうかと思うけど。


「んで?うちのユウを綺麗に巻き込んでくれたのは誰?」


「何だろう。お前って英雄か何かの生まれ変わりなのかと錯覚することがあるんだけど。」


ここまで完全アウェーの空気の中、先行するシエラにいつも通りの態度で話しかけるアニエスに最早貫禄しか感じない。


「そう急かすな。今着くところだ。」


こちらを見てから拠点の中心にあるテントの天幕をあげて俺達を中に招きいれると、そこには部下数人と、いつもと変わらずパイプを加えていたファルクが座っていた。


「ん?あんた?」


「ここでのリーダーを勤めさせてもらっている。ファルクだ。」


「ふぅん…まぁいいわ。」


突っ込んで聞いたわりに興味はそれほどなかったようで勧められもしない内にファルクの目の前にあった草を編んだであろう座椅子に座り出す。


「それで?私達のユウを貸してたんだからそれなりの何かがあるんでしょう?」


「ユウ、落ち着くんだ。アニエスはあれでも凄い心配していたんだぞ。」


「ああ、分かってるさ。だから今俺はアイツの頭をどつきたいのをこうして堪えているんじゃないか。」


アニエスの発言に対してファルクは少し悩んだように表情を曇らせると


「仕方ない。全て話すか。」


そう言うとパイプを置き、俺達に座るように促して、ゆっくりと話し始めた。


「先程の戦闘の通り…私達は元プテリオン帝国の兵だ。ここには元々私達の隊を含め、幾つかの隊がきていたのだが…その作戦があまりにも非道なものだった。」



「作戦。というかは兵器じゃないのか?それも…ものすごい奴。」



俺が横槍を入れた瞬間…明らかに空気が変わった。


「多分そうだと思うぞ?いまいち帝国サマの兵力は分からないけど、逃げた一団を追ってここまで執拗に攻めてはこないだろ。」


思っていたこと、ここまで疑問だったことをぶつけていく。ファルクはそれに黙って聞いている。


「大方…バカでかい大砲とかじゃなくってもっと軽いもの。そんでもって…」


一回息を吸ってから少し溜めて


「そう簡単に分解できないものだ。」


「……何故そう思う?」


「簡単に分解できるんなら、それこそ分解して逃げればいいだけの話だ。それだけ。」


「でもユウ君。それだと帝国兵はどうして強硬策に出ないんだい?場所も分かってるんだろう?」


「出ないんじゃなくて、出れないんじゃないのか?それほど危ないものなんだろうよ。」




「……スライム。」




ポツリ。と呟くようにファルクがその名前を口にした。そして部下に目線で指示を送るとテントから出てどこかに行ってしまった。


「偶然産み出されたものだそうだ。」


「……聞いたことないですね。すらいむ?」


「非常に毒性が強い魔法を付加し続けた結果、最悪の液体になったもの……それがスライム。そうイレウスが自慢気に言っていたよ。」


ファルクは昔の嫌な思い出を告白するように静かに語りだした。


「私達がここにそれを持ってきたのは、ここの近く…といっても山を越えるのだが。そこの村にスライムを解き放ち、実験をする為だった。」


「ん?液体なんだろ?解き放つ…って液体が自分で動くのか?」


「ノッチ。動くからスライム。なんだ。」


「いや。自力では動かん。あくまでも液体だ。」


ドヤ顔で訂正を入れた手前、すごく恥ずかしい。


「液体を解き放ったところで被害なんて微々たるものでしょ。農作物に影響でも与えるの?」


「実物があった方が早いな。私自身、説明を受けたがよく分からなかった。」


アニエスの問いを片手をあげて制すと、ちょうどいいタイミングで先程出ていった部下が戻ってきた。ファルクは軽く労うと、慎重に受けとり俺達の目の前にそれをおいた。


「これがそうだ。」


「……?瓶?」


置かれたのはなんの特徴もない瓶が一つ。その中に粘度の高そうな深い青の液体が半分ほど入っている。


「迂闊に触らない方がいいと思うぞ?」


「密封してあるから平気じゃないの?」


全く恐怖という概念がないアニエスは普通にヒョイと持ち上げてしげしげと眺め回している。ヤバイ、コイツヤバイ。


「ユウの言うとおり。その中のスライムは一度皮膚につくと体中に染み渡り血管をズタズタにする。」


ポロッ。(アニエスが瓶を落とした音。)


パシッ!(ギリギリのキャッチに成功。)


「殺す気か!」


「びっくりしただけよ!っていうか平気よね?ついてないわよね?」


「落ち着けパニクるんじゃねぇって!」


自分がどれだけ危ないものを持っていたかが今分かったらしく必死の形相で手を擦るアニエス。というか人間手についたものが嫌な物だと擦るっていうけど本当なんだなぁ。と思う。


「アニエス!これ、これ!」


「ティリア、手拭いではとれないと思うぞ?」


「アニエス!ああ…医者呼ぶか?」


「落ち着けノッチ。医者に治せたら兵器じゃないだろ?」


「アニエスさん、落ち着いて!深呼吸です!ヒッヒッフーヒッヒッフー!」


「システィ、お前がまず落ち着kいてっ!この…止めろアニエス!」


「アンタ、パートナーがピンチなのに!平然としすぎでしょ!この!この!」


パニクりが頂点に達したらしくビシバシと平手打ちを繰り出す金髪。


「アニエスちゃん、アニエスちゃん。瓶よく見てごらんよ。」


「何よ!ヘンリ!」



「蓋閉まってる。」




ピタッ。とお祭り騒ぎが一気に醒める。


「……ふぅぅん?ま、まぁ知ってたし?」


「お前……」


急に口笛を吹きながら腕を組んで思いっきりなかったことにしようとしているアニエス。元々吹けないのに吹こうとするから、ピスー、ピスー。と情けない音しか出てない。


「話を戻すと…これは危険なものだ。」


ファルクがこの騒ぎには少し気圧されたのか咳払いを一つし、俺の手からスライムの瓶をソッと受けとると部下に渡した。


「だからこそ、ここでこれを解除、無力化する方法を探している…それが私達だ。だが……」


「それも難しくなったわね。」



うーーん……と重苦しい空気がまたテントの中に溢れた。



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