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待たせたな…これが真のすがtあ、ちょっとまだ途中だから最後まで言わせろぉ!!

コートに付いた葉っぱやら泥やらを払いながら、立ち上がって息を整える。全力走で森を駆け抜けてきたのは良いけれど、何分暫く狭いところでしか走ってなかったものだから少し息が上がる。


「アンタ久しぶりに見たと思ったら随分もったいつけて登場するのね。」


いい感じに整ってきたところで背中ごしに嫌味たらしい台詞が聞こえてきた。


「あのなぁ、俺だってここら辺にいたんだぞ?」


「なら何で後ろから来たんだ?」


「いや…木の上で待機してたら突風が飛んできてかなり吹き飛ばされて、必死に戻ってきたら……こうなってた。」


真面目にあの突風は死ぬかと思った。まぁ実際は風は魔法らしく、俺に当たると同時にパリン。と砕けて消えたからダメージはなかった。その分引き抜かれた大小様々な木々に殴り飛ばされた訳だけれど。


「ご主人!無事でしたか!」


「ああティリア。無事だったからすぐに離れろマジで今は戦闘中だし熱い熱い熱い高速で頬擦りするんじゃない!!」


久しぶりだからなのか側近も俺にしがみついてシャツを摩擦で擦り切る勢いで頬擦りをかましてくる。ほんとに焦げ臭い匂いがしてきた。俺が側近とゼロ距離でのドッグファイトをしている隙を見逃さない(まぁ当たり前だけれど)兵士が数名、怒声と共に襲いかかってきた。


「……むぅぅうう!」


俺が引き剥がすよりも早く、稀に本当に気分が悪い時に発する不満の唸り声と共に離れたティリアが鋭い一閃で兵士の槍の穂先を斬り落としてくれたので、素早く脇を抜けて俺はその後ろの二人。盾を構えている方は半身を反らして盾に隠された体を掴んで槍を持っていた奴に向けて蹴り飛ばす。絡み合って倒れこんだ兵士を見送って横凪ぎの剣をスライディングでかわし、股下を抜けて背後に出て左で肘打ち。続くもう一人は剣を右腕のコートで逸らして左の掌底で倒してからバックステップでアニエス達の近くまで下がる。


「楽しそうね。」


下がるやいなや兵士を殴り倒したばかりのアニエスが冷めた口調でそう言ってきた。


「楽しくはねぇって。リーチないから1歩間違えたら即死だぞ?」


答えてる間にも迫ってきた兵士の頭を掴んで後ろのもう一人に打ちつけて怯んだところを二人まとめて蹴り飛ばす。物理的にも横槍を入れてきた奴は、かわしてから振り抜くように肘をいれてKO。


「な?」


「楽しくて仕方ないって顔しながら言うんじゃないわよ。」


「おい、ユウ。」


「ん?何だよレオラ。」


「……ここは退こう。私達が非常に不利だ。」


レオラには珍しく弱った声色でそう提案してきた。どこか傷ついたらしいがそれはシスティとヘンリの回復魔法で治ったようだけれど、よく見ると履いているズボンが何か鋭い物で引っ掻き回されたかのようにズタズタになっていた。シエラも弓を持ってはいるけれど背中の矢筒に矢は残っていないし、目に見えて疲弊している。


スッと視線をアニエスとティリアに向けると二人共、兵士をあしらいながらスイッと視線を反らした。


「……そうだな。ここは逃げの一手か。」


それならやることは早い内にやらなければ。


「すまん。ちょっと任せる。」


アニエスにそう伝えると数が減ってきた兵士の中を一気に変化させた足で加速して駆け抜け、兵士の中で囲まれていた残念コーデを掴み上げる。わぁわぁと叫ぶソイツの首を押さえると素早く背中合わせになるように背負った。今だわぁわぁと元気よく叫んでバタバタさせているが、攻撃しようにも背中合わせになっているから攻撃は殆ど効かない。ファルクに教わった時はこの姿勢からパイルドライバーに繋げられて頭から地面に埋められたなぁ…。と感傷に浸っていると、回りの兵士がどよめいて少し余裕ができた。


「ティリア!」


「臥竜斬風螺旋波を撃ったのは私ではありません!!そんな事実はありません!!」


「技名はよく分からんけどその事を責めてる訳じゃない!!」


コートのポケットから俺が今滞在している場所の位置、来たら招いてもらえるようにしておく。といった内容を短く書いておいたメモを出すと風を俺の手を包んで、そのままメモを拐ってひゅー…と一直線にティリアの元に飛んでいった。途中で掴もうと手を伸ばした兵士はいきなり浮き上がると、きりもみに地面に埋められた。


ティリアが受け取ったメモをキャッチと同時に素早く自らの懐にしまいこんだのを見てから、元気にわぁわぁとまだ叫んでいた残念コーデを兵士に放り投げて、再度全員を守る位置に後退。


「アニエス!」


「バカ!耳と目塞いでしゃがみなさい!」


「は?!」


アニエスの怒声、目の前の兵士がまるで見てはいけないものでも見たかのように慌てふためいて蜘蛛の子を散らすように武器まで投げ捨てて逃げ出す。続いて後ろから聞こえてくる、静電気なんてメじゃない異様な轟音を放つ何か。危機感にも似た圧倒的な死の予感を感じて振り返った俺の目に写ったのは



─小型の太陽かと思うほどの蒼い蒼い……超巨大雷球。



「……嘘だろ。」


どうやら嘘ではないらしく、レオラやシエラは顔面蒼白で木の上に必死に駆けて避難。アニエス、ティリアとヘンリはもう遠くまで逃げていてノッチはまだ近くにはいたけれど自らの大剣を地面に当てて─多分避雷針にしてるのだろうか─システィをおぶっている。


「ユウさん!地面に伏せないで下さい!」


システィの不思議な忠告と共に放たれた雷球は意外と早く飛んでいき…逃げ惑う兵士の行く手を阻むように落下…伏せて雷球から身を守ってから弾かれたかのように立ち上がり、一気に加速して距離を取ろう!とした。



……俺が甘かった。



パァン!と何千個の風船を同時に破裂させたような音が聞こえた。気にはなるけれど振り返ってはいけない。加速しようとした足をより早く。一気に狼化して神速でその場を離れる。


兵士の内から誰かの『助け…!』という叫びが聞こえてくる。炸裂の兆候を感じて屈んでから一息に地を滑るように跳躍。


アニエス達に合流すると同時に素早く皆と同じように目をぎゅっと閉じ、耳を塞いだ。


瞬間、世界を白く塗りつぶしたかのようにパッ。と明るくなり…



終わった。



「あれ?」


「…おや?」


「失敗か?」


「ここからどーん。とかかな?」


アニエス、ティリア、ノッチ、ヘンリがそれぞれ異なった感想を言う中、システィはノッチに下ろしてもらうとゆっくりと首を振って


「あれは威嚇用なのであれで終わりですよ。そこまでの威力はありません。」


と、手短に答えた。


「…威嚇用にしては、光の威力が凄いように感じたのだが……。」


レオラが今だ驚きを隠せないようにシスティに聞いた。確かに俺も不思議に思う。


「そこまでの威力はありませんって。精々近くで目を瞑らないで見たら『目がぁ~目がぁ~』ってなるだけです。」


「そのまま空から堕ちんのか。」


ソイツらはきっと本当の名前にかの空中都市の名が入っているのだろう。


「じゃあ、つまりアレね。」


いつも通りに言葉の少ないアニエスが見据える先には雷球の威力に怯えて気絶した兵士達…の中から立ち上がってくる10数名。


「あら。」


「効かなかったのかな?」


「どっちみち、私達がやるのは一つ!」


立ち上がってくる奴等は全員少しのダメージもないようで闘志を剥き出しにした視線を向けてくる。


アニエスは真っ直ぐに歩き、


「ユウ!やっておしまい!」


「お前マジで殴っていいか?」


俺に出撃命令を下した。


「何よ。私達は疲れてるだから。」


「全員でやった方がいいだろうが!」


「狼化したアンタと一緒に戦ってご覧なさいよ!私達まで巻き添えくらうじゃない!!」


久しぶりにコイツの頭に頭突きをぶつけあいながら激しい舌戦。アニエスの方がちっこいから下からかちあげられる分、俺の方がダメージがデカイ。


「大体、私は撤退が一番嫌いなのはアンタも知ってるでしょうが!この局面!多分アンタが考えてるのと!私の考えは!」


俺の頭突きをかわして背中をグイグイと押しながら


「敵を排除して!堂々と帰還!!」


最後にドン!と突き飛ばされて送り出される。


……仕方ないか、仕方ないな。



諦め大半、やけくそ少しで押し出されたままタッタッと駆けていく。


まぁ、俺も尻尾まいて逃げるのは嫌だし…!


ピタッと止まって一回深呼吸。さっき戦闘したからか不用意に近づいてこない上級兵士達を前に、はぁー…!と息を吐き出しながらゆっくりと変化してみせる。


「よぉーし…!お前ら覚悟はいいか?」


両腕を開いて手を握ったり閉じたりして久しぶりの感触を体に覚えさせる。その間に武器を構え終わっていることからやっぱり強いんだろうな…。


「少しだけ強めだからよ、うっかり死なないでくれよ?!」


叫んでからバフォメット戦の時のように一直線に駆けた。



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