え?フラグ?なにそれ?
ラッシュの合間を縫って、レオラの蹴りが思いっきり腹に入り、もう何回目かのダウン。
「このっ……」
「いいからかかってきなさい。」
起き上がって睨み付けても楽しんでいるような表情に変化はない。
「早くしないとつき殺すわよ。」
そう言いながらわざとらしく肩に担いだ槍を見せびらかすように振ってくる。
「それは勘弁してほしい…
体を横に倒して起き上がる振りをして
……なっ!」
レオラに手に持っていた槍を投げつける。
ここで鍛えられている成果なのか穂先を先に、真っ直ぐと貫かんばかりに飛んでいく。
レオラは一瞬驚いたが普通に槍を使って弾いてくる。
「やっぱりこっちの方が向いてんだ、よ!」
シエラの手にあった槍を手底の一発でへし折ってそのままゼロ距離で今度は得意な素手でのラッシュで押しまくる。
「チッ。」
ウザそうに舌打ちをしてから右に逸れようと体を横に移動していく。
「逃がすか!」
牽制も兼ねて右蹴りを移動先に放つ。
「逃げる気はないけど…」
それを見透かしていたようにスッとかわすと
「少し本気で行こうかな。」
その言葉と同時に屈んでかわすと俺の首があった場所を鋭い一閃が駆けていく。
見上げる形になったレオラの手には槍。
「さっきの一瞬かよ!」
その通り。と答えるようにニヤァと笑うと、槍をペンでも回すかのようにクルリと逆手に持ち変え、容赦なく突いてくる。
後ろに下がりながら槍を横に弾き、そのままバック宙して立ち上がる。そのまま止まっているとマジで殺される。
今目線を上げたら、もう目の前に槍を引き絞ったレオラがいる。
「この…野郎!」
少し下がってから、やけくそ気味にブレイクダンスの様に足を回す側転を見様見真似でやってみる。途中で足に棒が当たったような感触を感じて、咄嗟に足を曲げてそのまま着地するとバキッ!と折れる音がした。どうやら槍を巻き込んでうまい具合に折れたらしい。顔をあげずに手を横に出して放たれた蹴りを受け止める。
「槍が無いなら勝てんだよ!」
そのまま足を払って地面に倒し、憎たらしい顔にワンパンをお見舞いしてやろうか。と、振りかぶった瞬間。
ごぉん。
チッ!と今度は俺が荒々しく舌打ちをして右足でレオラの左足をガッチリ固めて体ごとグルッ!と勢いよく回る。その途中で足のどこかを捻ったらしく、うあぁ!と悲鳴が聞こえてきた。後ろから振るわれる俺のをいれると3本目の槍を腕で絡めとる。
「レオラを放せ…!」
「目ぇイッてんじゃねぇか、サイコレズ野郎…っ!」
明らかに殺す気で突きにかかるシエラの槍を絡めた足を外さないように弾く。だけど
「……こんの、野郎!」
「放せ!!」
レオラとは違い明らかに殺気がこもっている突きはレオラの様にいつでも突ききらないように止める手加減があったけれど、体の急所、それよりもっと恐ろしい四肢の関節と突き斬りにくる。目的忘れすぎだろ!コイツ!
ただカッとしているのかかなり速いけれど、狙いが急所しか狙ってこないから…捌ける!焦れてきたのか少し大きく振りかぶる。ここで勝負をかける!
カクッ。
と、俺の右足が沈みこむ。
いきなりの浮遊感の中、俺が見たのはよく見ないと分からないけど、顔は憤怒そのものだけどあからさまに安心した。と目が言っているシエラと、あの攻防の中自分の足を外して俺から抜け、また一瞬ではめ直したらしいレオラ。その両名の手に握られた、無骨な無骨な、槍の柄。
その後は、物凄い衝撃が、襲ってきて、
正直よく、覚えてない。
日が沈み始めた頃、集落の中心にあるメインの建物(どうやらここが拠点らしい。)に全身に薬効のある葉っぱを貼り付けて転がされていると、その入り口から小隊が帰ってきた。
「戻ったぞ。」
「「「「おかえりなさい!リーダー!!」」」」
うむ。と何気なくうなずき返して俺を見るファルク。
「今日は一段とボロボロだな。」
「うるせぇ…」
プフッ。と笑ってくるファルク。そのままスタスタと歩いて残骸置き場から折れた槍を拾い上げる。
「しかし……お前の練習の度に槍が駄目になっていくな。」
俺に向き直るとふぅ。と肩を竦める。
「タダじゃないんだぞ?」
「俺のダメージは完全に無視か!」
このリーダーはまだ喋れたら余裕だと思っているらしい。
「この前の帝国との戦闘だって危なかったんだからな!」
「だが増援がくる前に離脱できたのだろう?なら問題ない。」
ケロッとしたまま着ていたジャケットの脱ぐファルクだが、いくらアイツでも木々を切り裂きながら何かがこちらに猛追してきたら少なからず焦るだろう。正直アレは
怖かった。
「大体、俺は素手がメインなんだから、武器を使えなくていいんだよ!」
「それだから私達に負けるんだよ。」
痛みだしたわき腹を抑えながらファルクに抗議すると横からレオラが愛用の弓を整備しながらツッコんできた。
「あ?サシならぜってぇ負けねー。さっきも敵追加の銅鑼が鳴るまでに決着はついたしな。」
「それはそうだろう。そもそも私はお前の練習相手にリーダーから任命されて仕方なく、相手しているんだ。」
仰向けに転がされながらとりあえず睨みをきかせるけれどどこ吹く風で相手にされない。
「─うっかり殺さないように、な。」
「知ってるわ、バーカ。」
事実まだ向こうが殺す気できていたら生身の俺は負けるだろう。
「レオラの優しさに感謝しなさいよ。」
「お前はもう少し蹴るにしても手加減しろ。」
ファルクに怒られるのが嫌なのだろうが転んでいる俺をファルクからは見えないような絶妙な角度で蹴り続けるシエラ。何故か俺がレオラと話した後の攻撃頻度が高い。
「ユウ、お前は勘違いしているかもしれんが武器を使いこなせれば、素手にも磨きがかかるんだぞ?」
少しづつシエラの蹴りを反らして受けていると、向かいの椅子に座りギャング映画に出てきそうなパイプをくわえたファルクがそんなことを言ってきた。
「はぁ?」
「武器を使いこなせばそれで出来る攻撃のパターンが分かる。そうすることで、いざその武器と相対したときに攻撃パターンを知っていれば回避やカウンターが決めやすい。……そういうことだ。」
はぁー…と吸い込んだ空気を吐き出して締め括るファルク。
「……分かったから煙草はやめてくれ。」
「?これは精油の香りを吸っているだけだ。私も煙草は嫌いだ。」
「そうですか。」
起き上がれる位には回復してきたので立ち上がって拠点の中の全員に一礼してから、拠点から離れた位置にある俺の部屋となった元倉庫に戻り、布団にダイブ。
「まぁ…出来ることは増えてはきてるからいいか。」
軽く手を握りこんで開く。それだけで簡素なナイフが出来上がる。
「いずれは刀創りたいな…」
やっぱり俺としては剣よりも刀がいいと思う。完全に主観だけど。
「やってみるか。」
布団から起き出して扉に背を向けてあぐらをかき、精神統一。
「……取り込み中だったか。」
「確かにそうだけれど、絶対にお前がイメージしている取り込み中とは違う。」
真後ろからレオラ。何でコイツは毎回タイミングがこうも悪いのか。
「お前の分の食事だ。……あまり張り切るなよ?治療できないからな。」
「ふざけんなバカさっさと置いて去れこの野郎。」
声からどことなく気遣うような感じを醸してくる。
「あ、そうだ。お前に一個言っとくことあったんだった。」
「ほう?」
帰ろうとしていた足を律儀にまた向け直してくれたらしいレオラ。
「練習の時、あれわざと足を外して逃げたろ?」
「……返り血が嫌だっただけだ。」
「はいはい。そうですか。」
表情が変わらないから本気なのかは分かんないけど……多分本気だな。うん。
「じゃあ今度教えてくれよ。縄抜けの方法。」
分かった。と短く答えて拠点に戻っていくレオラ。
「俺も寝るか……」
必ずまた合流できる。背中にかかってきた薄ら寒い悪寒にそんなことを感じて眠りにつく。




