手に負えないなら寝るのも一つの手。
体が重い…頭もあまり回らない…
あれ?俺何をしていたんだっけ…
そうか、思い出した。アホの提案で川にナマズを釣りに行ったんだった。
その途中で川に引きずり込まれて…どこぞの兵士と戦って、そんで倒れて…
ってことは今はもしかして死んだか?
…死んだら戻れんのかな。
ん?何か聞こえる。あ、アニエスか…多分。
近くまで来て悲しむような憐れむかのような表情で口をパクパクさせている。
何て言ってんだ?よく聞こえな……
『うわ、風邪で倒れて死ぬとかダサ。』
「どの口が言うんだこのアホがぁぁぁぁあ!!」
勢いよく跳ね起きて憎き仇敵の姿を探す。
そもそもアイツの提案で川に行かなければ今回の騒動は起きなかったし、アイツが釣竿を忘れなければあの正体不明の拘束で、川に引きずり込まれることもなかったのだ。
段々落ち着いてくるにつれて状況がかなり違うのがよく分かる。
まず何故か四畳ほどの小屋に布団を敷かれ、介抱されていたらしい。せっかくのコートやブーツなど俺の装備は軒並み、素材丸出しのゴワゴワした木綿のシャツとズボンに。腰のバックも見当たらない。
「おお…モンハンのモンスターってこんな気分だったのか?……ちょっと違うか。」
見ず知らずの何者かに様々な手段で攻撃され、ボロボロにされ気を失うと体のパーツを剥いでいかれる。俺も今は様々な手腕で追い込まれ、装備を剥がされている。
「いやいや…そんな場合じゃないぞ。おお…良かった。水晶は無事か。」
ティリアですら斬れなかった摩訶不思議すぎる素材の首輪に埋め込まれた水晶はしっかりと首にくっついていた。
水晶が無事なら手段はいくらでも残っている。ひとまず安心して小屋を見渡す。
簡素なベットから少し離れたところにトイレだろうか。それらしいものがついたての反対側にある。小屋の中心には木を切ってそのままの机。窓などは一切なく、そして…
「……あれがあるってことは…そういうことだよなぁ…」
げんなりして見つめる先には本来小屋の扉にあたる部分。そこにガッチリとした鉄格子。
「……よく状況が分からん。」
「今説明してやる。」
凛と響く声と共に現れたのは白いベストに黒いシャツ、(女性はこう言うのか分からんけど)ぴったりとしたグレーのパンツを履いた…一言でいうとクール系?美女。
向こうで街を歩いた瞬間、スカウトというスカウトが全部すっ飛んできそうなレベルの。
俺の回りにも天然記念物レベルの天然を誇るけれど間違いなく美女の部類に入るシステイや、ティリアみたいな美少女とはまた違った感じの。誰かが抜けているのは偶然ではない。故意だ。まぁあれも美少女にはなるんだろうけど、中身がアレだ。
そして気づくのが遅れたが左右に見た目が瓜二つな女兵士を二人連れている。完全にそっくりなので見分けがつかない。違うのはそれぞれ右半分と左半分に横線2本のフェイスペイントをしているくらいか。
「目が覚めていきなりこうなってしまい呆けたい気分も分かるが、進めていいか?」
「あ、ああ…すまん。えっと……」
「ん?私はファルク。気軽にそう呼んでくれて構わない。ここのリーダーをやっている。」
美女改めファルクは右足に重心を傾けながら説明を続けてくれる。
「森の中で倒れていた君をこの二人、シエラとレオラが見つけてここに運んでくれて、今君はそういう状況だ。」
「…………ん?」
「どうした。」
「いや…結構重要な事柄をすっ飛ばして結末に辿り着いたものだから驚いてる。」
まさか起承転結と思いきや起結で終わってしまった。重要な事柄と言ったけれどそういうレベルで飛ばされてない。もうほぼ最低限の説明だった。
「分かりやすく言うとだな。今君はこちらの事情でそこから出すわけにはいかない。ということだ。」
…まぁそうだろうな。
「心配せずとも食事も提供する。なんだっていいぞ。ただそこからは出ないでくれ。」
「……もし出たら?」
少し笑いながら尋ねると少しも表情を崩さず、
「殺す。」
簡潔に答えられた。
仕事にいって山賊の撃退などや、ここに来てすぐのオークとは違う鋭い、切り裂かれるような冷たい殺気。…強いな……
「私としても出来る限り、関係のない人間を手にかけたくはないからな。…他には何かあるか?」
ただ、確かめたいことがどうしてもある。
「じゃあ…3つ質問。答えられない時は答えられない。とでも言ってくれ。」
「その場合一回にカウントするぞ?質問の内容によってはそのまま殺す。」
それでいいよ。と答えて質問をしようと口を開いた時、
「いけません。リーダー。」
不意にファルクの右に立つ…確かシエラの方がファルクを呼び止めた。
「コイツは何か怪しいです。こちらの情報を聞き出す気かと。」
その通りなんだけど。どうやらシエラは勘がいいようだ。
「しかし彼もこのままここにいたら退屈だろう?少しなら別に構わない。」
表情こそ動かないけれどケロッとした態度で反論されシエラはうっ。と唸り…下がってしまった。
「ならばシエラ。」
「はい。」
左に立つ女兵士が答える。どうやらあっちがシエラだったようだ。ということは今下がった方がレオラか……紛らわしい。
「少しでも不穏に感じたら構わない。殺れ。」
一気にハードルが上がった。
「分かりました。」
短く答えると手にしていた弓を引き絞り構えるシエラ。狙いは真っ直ぐに俺の心臓を狙っている。
「さて、少し息苦しいだろうがこのまま続けさせてもらうぞ?こうしないと二人からの不満が解消されない。」
「……別にいいよ。じゃあ俺からも一ついいか?」
手を上げて質問をするとキリリ…と弓がさらに引かれた。アイツの沸点低すぎだろう。まだ何もしてないのに。
「なんだ?」
「質問を1個にする代わりに…俺のバッグに付いてた水筒二つ。アレを持ってきてほしい。」
「いいぞ?何か食料品が詰まっていたからな。今仲間に中身が腐らないように君を発見してからずっと振らせている。」
やっぱりここに装備一式はあるらしい。というかずっと振り続けさせているって…俺の記憶が正しければ昼過ぎに倒れて今夕日が沈もうとしているから…5時間。
可哀想な単純作業をさせられている仲間が気になる。
「それで?肝心の質問は?」
「ああ…そうだった。じゃあ質問だ。」
すぅ。と軽く息を吸って落ち着かせる。引き絞られた矢は絶対にかわせない。狼化すればかわせるがシエラも加わるだろうし、ファルクがそこに加わればまず戦いになるのか怪しい。大丈夫。この質問なら殺られないだろう。
「俺を今、どう見る?」
シン…とした空気。そこで始めて分かったけれど、小屋一帯囲まれてるなこれ。しかも数は分からないけど全員矢をつがえている。
「そうだな…」
ファルクが口を開くと辺りの殺気が少し下がった。セーフだったようだ。
「頭がいいな。この状況でも何とか回りを探ろうとしている。こうして捕まるのとは関係無く、常にそうなんだろう。……少し厄介な奴だ。」
「ユウだよ。俺の名前は。」
「そうか。とりあえずユウはそこからは出ないでくれ。不自由が無いようにはこちらも努力する。」
「疲れた……」
机に突っ伏して思いっきりグデる。
この日の食事は水筒二つ(ビーフシチューとコーンスープ)。だけかと思いきや丸パンが二つついてきた。
持ってきた女兵士が去り際に睨んで行ったからきっと振り続けていた人だろう。あとでお礼を言っておこう。
「にしても…色々分かったな……」
ひとまず重要な事柄として、
ここには外部の人間は要らない存在であるということ。
そして絶望的にヤバいのが…
助けにきた人間ですら殺しかねない。
「…あながちアニエス達がすぐ来そうで怖いんだよな……」
アニエスは『この辺かな?って思ったのよ。』とかいいそうだし、
ティリアは『ご主人の匂いが!』とか叫んで突進しそうな気がするし。
ノッチ、システィは『何となく。』とかほぼ勘でサーチしてきそう。
「……大人しくしてるか。」
結局今出来るのはそれだけ。痛む頭を治す為、牢屋にしては上質な布団に身を沈めた。




