LとRの発音の違いはそれっぽいテンションで誤魔化す。
「まるで規格外?」
「違うわよ。マルデキカクガイ。」
「だから…まるで規格外だろ?デカイんだろ?」
「だーかーらー!マルデキカクガイ!デカイことにはデカイけど!マルデキカクガイなの!」
頭を抱えてヒステリックに叫ぶアニエス。コイツを嫁に貰う奴は大変だろう。あれだ。よくいる子供が言うことを聞いてくれなくて子供に当たる母親。あれほど見苦しいものはない…
「聞いてんの?」
「聞きたくないけどな。とりあえずあれだろ?まるで規格外な何かを捕まえに行くんだろ?」
「ご主人。違いますよ。マルデキカクガイっていうナマズを捕まえるんです。」
「は?ナマズ?」
皿を片付け終わったティリアが全員分のお茶を汲んで持ってきた。
「ナマズなのか?」
「そうよ。マルデキカクガイよ。」
「知ってるのかティリア?」
らちが明かないのでティリアに聞く。今度アニエスにゆっくりと筋立った論理の建てかたを教えてあげよう。
「マルデキカクガイっていうのはまるで規格外な大きさからマルデキカクガイと呼ばれるようになったまるで規格外な大きさのナマズ…マルデキカクガイなんです。」
「お前わざとやってるだろ。」
「ドラマCDとかどうなるんでしょうね…」
「話を元に戻せ。」
何をいきなりドラマCDだと言っているのか。
「あんまり発見されない清流に住むという幻のナマズなんですよ。」
「どこからツッコんでいいんだ?ナマズ本来の生息地からか?」
頭の中で風船が膨らんでいくかのようなストレス特有の頭痛がさっきから襲ってくる。
「で?デカイっていうのはどのくらいなんだ?」
「分かりやすく例えるなら…ノッチさんとシスティさんのダブルベットの代わりになるくらいです。」
「すげぇデカイことは分かったけど例えが酷いな。」
前に聞いたときはそれぞれ違うベットで寝てるって言っていた。
それについて茶化したアルドは翌日病院送りになったけれど、マジでノッチが怒ったら恐いだろうなぁ。と思う。
「それにしても詳しいな…他には?」
「その身は淡白かつ濃厚という相反する二つの旨味を併せ持ち、溢れる肉汁はまさに滝のよう……」
「あ、だから詳しいのか。」
「法都バルティスに存在するレストラン─至高─の看板メニューのスープの水分は全てこのマルデキカクガイの肉汁が使われているというから驚きですよ……」
「探せば究極っていうレストランもありそうだなぁ…オイ……。」
「ご主人なんでイライラしてるんですか?」
差し出されたハーブ茶を一息で飲み干す。
「で?それをどうやって捕まえるんだ?」
「一本釣りよ。」
俺のイライラはピークに達した。
「頑張れば一本釣り出来るらしいから。すでにノッチ、システィ、ヘンリに声はかけてあるわ。」
頭を掻いてイライラをまぎらわせるながら話を聞く。
「アタリがあり次第、ノッチが釣竿をひいて、システィが電撃で弱らせ、ヘンリが…ヒレでも斬ってもらうわ。私が人頭指揮を執りティリアは風魔法でサポート。これで完璧よ。」
「で?俺はぁ?」
「フフン♪アタリをひいて貰うわ。」
「降りていいか?」
「ダメに決まってるでしょ。」
コイツに会ったのが運のツキだったのだろう。




