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お酒は飲んでも飲まれるな。……あれ?登場人物の半分が未成年者……

「えー…ではギルド創立記念日を祝いましてぇ……」



「かんぱーーーーい!」


ある日特にすることがないので眠りこけているティリアの髪を嫌がらせのように三編みにしまくっていたらアニエスが現れて、『ギルド創立記念日だから宴会するわよ!』と強制的に引きずられてきた。


「それにしても何でこの時期なんだ…」


「仕方ないでしょ。創立記念日とか最もらしい言い訳考えつくまで、書き出せなかった根菜の身にもなりなさいって。」


「え?……アニエス?」


「いい加減次の章を始めなきゃいけないけど明言したから、結構キツイのよ。」


目が虚ろになりテーブルの一点を食い入るように見つめながら意味不明なことを口走るアニエス。よく見ると頭の上に3Dグラフィックみたいなネギが刺さっている。


気味が悪かったので振り払う。


「あれ?私何か言ってた?」


「…………いや?」


今のことは忘れよう。


「それにしてもティリアちゃんはこれ…寝てるの?」


忙しかったらしい診療所が珍しく暇になったヘンリも今回は参加して、久しぶりに全員が集合したのだが…


「ん。今日は寝る日なんだと。」


「いや、ユウこっちは落ちないか不安なんだが…」


ノッチが心配そうに言うのはティリアの姿勢だろう。カオアリモードで顔のみをひょっこりと出して残りの体部分は白いカバーに変わった布団の中で、(恐らく)体育座りをしてコクリコクリと船を漕いでいる。


「あら。髪形がお団子なんですね。頭のちょうど横の辺りに二つ。」


「ああ、それは俺がやった三編みを崩したくないらしいティリアが自分でまとめた。」


何故まとめるんだ。と外出前に聞いたら少し止まってから『めぇえぇぇ…』と答えた。そしてあろうことかそのままカオアリモードでここまで来た。


「全く…ん?」


「どうした?アニエス。」


「あれ。」


アニエスが指差す先にはアルドとドロイの大騒ぎ兄弟がなにやら揉めている。


「何やってんだ、アイツら…ちょっと見てくる。」


「私も。」


「いってらしゃい。」


ヘンリの間の抜けた声に押されて歩き出そうとする、しかし


「何だティリア。」


側近がそうさせてくれない。ガッチリと俺の腕を掴んで離さない。


「付いていきたいんじゃないですか?」


「目、思いっきり閉じてるわよ。」


ティリアはそのままカオアリモードで椅子からスルリと降りると本家顔負けのスルスル移動で俺に近づき…


のっし。と俺に覆い被さった。おんぶお化けと化したティリアだが身長が俺の肩くらいしかないので足はついてない。ズルズルと下がる布団が哀愁を感じさせる。


「ものすごい幸せそうな顔してるんだけど。」


「いや、もう気にしない。じゃノッチ。ちょっと見てくる。」


「気を付けてな。」


スタスタ……


「ねぇ。ユウ。重くないの?」


「いや…暇さえあればこうしてくるからもう慣れた。」


「それもどうなのよ。」


そう言われても慣れたものは仕方ない。


そのままズルズルとティリアを引き下げアルドとドロイの元に。


「何の口論をしてるんだアイツら…」


「多分酒の問題でしょ。」


アニエスがまたか。と言わんばかりにしゃべっているのはそう言うことなんだろう。


「ユウ!ちょうどいいとこに!コイツが俺の酒を取ったんだ!何とか言ってくれ!」


「いや!そもそもコイツが酔ってるのがいけねぇんだ!」


「ああもう五月蝿い酒臭い!」


二人が詰め寄ってくるのを見てアニエスは俺を盾にし、ティリアは俺から降りた。


「じゃあもう…腕相撲でもして決めろ!」


「「腕相撲?」」


俺はずっと後悔する。ここで俺が言わなかったら…きっと数多の腕が犠牲になることは無かったんだ。




「いいか?ルールは簡単。互いに手を組んで肘をついて、相手の手を反対側につけたら勝ちだ。当然その他の妨害は禁止だ。」


向こうでもよくやっていたルールを簡潔に説明してその場を離れる。


「いやー、面白そうな遊びだな。」


「本当だね。ユウ君が考えたのかい?」


「んな訳ないだろ。生まれる前からあったわ。」


元の定位置に戻りアルド達から離れるときに再び俺の肩に戻ってきたティリアを椅子に着地させる。


「面白そうですね。ノッチさん。」


「いや…面白そう……ですか?」


「私ちょっと参加してきますね!」


「お願いですから待ってください。」


あの屈強な男達がうぉぉお!と唸りながら腕相撲している中に飛び込んで何がしたいのかこの人は。


「じゃあノッチさんお相手お願いします!」


「やりませんて!」


細っ白い腕を腕捲りをして気合い充分なのはいいけれどノッチの腕と比べれば糸と超合金のワイヤーみたいな物だ。


「システィ!他の人のを見るだけでもいいんでしょう?それなら私とユウがやるから!ね?」


「それはいいですね!」


おい待て。というよりも早く首を抱えられ、耳打ちをされる。


(まぁ聞きなさいよ。ノッチとヘンリだと話にならないしティリアは爆睡中。となるとアンタ以外にいないでしょうが。)


(なるほど?そこそこの戦いじゃないとシスティも納得しないし、この中でそれが上手くできるのがこの組み合わせ。か。)


(理解が早くて助かるわ。)


テーブルの上を少し片付けて、メイスを振り回しているわりにちっさいアニエスの手を握り、準備完了。あとは適当にやってシスティを満足させれば終わり。


「じゃあいいかい?」


アニエスも俯いてどうすれば面白いか、試合展開を考え…違う。コイツは


「始め!」


その瞬間体ごと沈めるかのように倒しにかかるアニエス。寸前でその動きを察知した俺は必死に耐え、腕の角度が60度ほどのところで堪えた。


「ど、どういうつもりだ…?」


裏切りにあった悪代官みたいな台詞を目の前の暴君に問いかける。


「不意打ちだったらいけるかと思ったけど…無理なようね。」


ニヤァと歪んだ笑みと共に暴君はその計画を語りだした。


「この試合は…システィを満足させるためだけだろ?」


「ええ。そうよ?アンタが私に負け、床に無様に這いつくばるっていう、最大のショーよ!」


叫びつつさらに腕を沈めるアニエス。腕の角度が不充分な俺の腕がテーブルに近づいていく。


「お、お前…何の恨みが……」


「まだ分かっていないようね。」


フッと吹き出すと左手を腰に回して何かを取り出したアニエス。反撃には最大のチャンスなのだが腕がほぼ沈んでいるので下手に動けない。バサッと放り投げられたそれは情報紙。むこうで言うところの新聞みたいなものか。その一面を飾っているのは…


「『アニエス、ユウついに子供が!』……」


申し訳なくて顔を反らす。


「笑えるわよねぇ!私これ見たときから笑いが止まらなくって、思わず情報紙を作ってるところに乗り込む所だったわよぉ!」


完全にトんだ表情で俺に叫んでくるアニエス。どこかで見たことがあると思ったらアイツだ。ティエルフールにいたイレウス。


「ここでアンタを負かし!その雪辱をここで晴らすのよぉ!!」


情報紙を叩きつけるとケリをつけるためか、左手でテーブルを掴み勝負をつけに来るアニエス。(イレウス憑依体)


だが……


「負け…るかぁぁぁぁぁぁああ!!」


必死に耐える。まだだ。まだやられるか!


「凄い試合ですね。ノッチさん!」


「……ヘンリ。救急セットって」


「ちゃんと持ってきてるよ。」



おおぉ…と力を込めてせめぎ合うアニエスと俺。奴はまだ有利だと思っているだろうが俺にはまだ技がある。これを食らって…沈め!


バッと勝負をかけに動きを始めたその時、


背後に感じる圧力。


肩から香る甘い香り。


「ご主人…五月蝿いです……」


ティリアだ。


本当にコイツは……俺の側近なのか。


テーブルに腕がついた俺にアニエスがものすごく微妙な表情をしていた。




「なにかしら。この不透明な決着。」


「これは…酷いな。」


「ティリア。お前さ。もう少しさ。タイミングてあるじゃん?何で今だったんだ?ううん?」


両手で頬っぺたを挟み込んでうりうりしての尋問。


「うううう!」


それにたいして一切起きずに唸って顔をブンブン振って外れ、またしても椅子に着地する側近。そしてまたすぴー、すぴーと寝息をたてる側近。



「……苦労してるのね。」


「ユウ。」


ポンと肩を叩かれ振り向くとグラスを持ったノッチがいた。


「飲もうか。」


結局、そのまま食べ物の香りに誘われ起きたティリアを加え粛々と終わらせた。



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