会話中、視線を右に向けたら嘘をついているらしい。
「よう。今日もご苦労様。」
「ご苦労様です。ノッチさん。おや?そっちの方は?」
「あ、ああ。偶然そこで会ってな。友人だから通してくれ。」
ノッチは多少どもりながら兵士にそう返した。
「それはいいんですが、狩ってきた獲物の確認をさせて貰いますよ。」
来た。ここからが大変な所だ。返答を間違えたとたんノッチは罰則。俺は…どうなるか分からないが最悪処刑。
ここからが勝負。
「…おや?これは…ウォーウルフですか。」
「おお、そ、それはだな。」
俺の提案で敢えてウォーウルフは一番上に置いて疚しいことがないことをアピール。
「首がありませんが?」
「そ、ソイツがこう、グアッと来たもんだから俺がこう、スパーンと。…うん。」
最後の方は何故かこっちを見ながらしどろもどろの説明。…この提案をしたときに言っていたが本当に嘘がつけないらしい。
兵士二人はここで疑いの目に変わり出す。
そのタイミングで─
「それは俺がやった。」
その発言と同時に兵士達の疑いの目が一斉に俺に向けられる。
─これが俺が考えた作戦。
疑いの目を俺に集めている間にノッチは門を抜け、残った俺が口八丁手八丁でこの場を切り抜け、城下町で再び合流。
名付けて『囮大作戦』。
「お前がウォーウルフを?」
「ああ、そうだ。」
決して向こうに負けないようにこちらも強気。この方法は向こうの世界でもよくやった。
「おお!それは本当だ!俺も見た。」
芝居してます感満載だがノッチも同調。
脂汗の量が半端ないがどれだけ嘘がつけないんだ。
すると兵士は考える素振りを見せて
「それでもオーバーしてますが…まぁいいでしょう。ノッチさんは通ってください。…お前からは詳しく聞かせて貰おう。」
おおぅ。『ノッチさん』と『お前』か…。
結構心にくるがこのくらい好感度に差がないとこの作戦は成功しない。
あとはノッチが堂々と門を抜けて、まぁ俺は壁でも登るか。
(とりあえず成功。)という意味合いでアイコンタクトを送る。
すると兵士の一人がこちらに歩いてきて
「では…実力を見せて貰おうか。」
と言いつつ、槍を構えた。
「「え…」」
俺とノッチが同時にハモる。
「いくら知り合いとは言え、得体の知れない輩をみすみす国に入れるわけには行かないからな。」
これは予想していなかった。だが上手く切り抜けるには、
「…分かりました。」
「お、おいおい!ちょっと待て!!」
ノッチが慌てて止めに入ってくる。
「ユウ!お前やりますって言ったって武器は?」
「無い。ウォーウルフ倒したときも素手だし。」
ゆっくり呼吸を落ち着かせる。
精神を統一させていくと─またあのキィーンという音と共に体に力が籠ってくる。
そして先程までは気づかなかったが、
水晶体が光っている。
光っている。といっても白くポォと光っている訳だからとても頼りない。
「お前…!冗談じゃなくて刺さったら死ぬぞ!」
必死に止めてくるので横目で見ると─顔を真っ赤にして怒って、いや心配しているノッチがいた。
「大丈夫。」
1つ深呼吸。よし。
「─刺さらなきゃいいだけだ。」
どうしてこうなったかな。
帰り道でヤンキーに絡まれ、トラックに轢かれ、
そんで今は槍持った兵士とタイマン。
20メートルほどの距離を置いて構えに入る。
相手は一人。鋼鉄性であろうプレストアーマーに至って普通の槍。他は無し。
右腕を引いて左半身の構え。
絶対に長期戦は不利。
能力云々の前に実力差がモロにでる。
なら取る作戦は
静かに体を沈め前を見据え
「先手─必勝!」
相手の槍先目掛け、飛び込んでいった。