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くらえ!怒りの!バァァニングゥメイスゥゥゥゥゥ!!

絶対に今後一切このような技は撃ちませんということをここに明言しておきます。

「疲れた…」


座っているベンチに沈みこんでいくようにため息を吐き出しながら項垂れていくアニエス。


「ん、まぁ疲れたよな。」


すっかり眠ってしまった幼女を抱っこしながら、短く返して大人しく黙る。


あの後、幼女の『まーま』発言に固まるアニエスを囃し立てるよりも早く、そのままクルッと向き直りその場にいた全員を指差す代わりに両手を大きく広げ、『じーじ!』と叫んでくれたので、フリーズするギルドの面々の間をすり抜け、アニエスと共に脱出。暫く物凄く微妙な顔をしていたアニエスだったけれどちゃんと両親を探してあげる。と言い、歩き出して……


「大抵の場所はもう巡ったわよ…」


「確かにな。」


国としては大分大きなランクのアキュリス王国をアニエスの案内の元、歩き回ったのだが全く目撃者がいない。疲れがたまってイライラし始めたアニエスを更に追い詰めるかのように結構な頻度で


『お母さんー、かっぷるさんがいるー』


『あらあら、本当ね。』


こんな子供の感想が飛んでくる。


「チッ!」


「お前……」


ゴブリンにもこんな表情を向けなかったろうに、まだ可愛らしさの残る子供相手に憎くて仕方ないというように睨みつけるアニエス。お母さんがすいません。と言い子供を連れて足早に去ってしまった。


「どこからどう見たらそう見えるのよ。」


「もう少し抑えて怒れよ。」


「私は事実無根のネタで弄られるのが一番キライなの知ってるでしょうが。」


「そうだけどもな。」


そういえばギルドで弄られたときはメイスが飛び出してドロイが壁と同化したことを思い出した。


「お前のどうでもいいプライドよりも、今はこの娘だろ?」


お前のどうでもいい、のところでメイスに手が伸びたので抱っこしている幼女を盾にサッと向けてやり過ごす。


「交番とかあったら一発だったんだけどな…」


「コウバン?なにそれ。」


「ああ、そっか。ここだと何だろうな…兵士が詰めてるところだとでも」


そこまで言ったところで閃く俺。頭にピキューン……と閃光を感じてアニエスに向き変える。


「そうだよ!兵士の詰合所!そこに預けて探して貰えばいい!」


「!確かに!そこなら探してくれるし、何よりもここでクルクル回り続けるよりも確実だわ!」


アニエスもガバッと立ち上がってこの案に乗ってくれた。


「何で気付かなかったのか…頭が固かったユウを殴打したい位!」


何故俺が殴られるのだろう。


「そうと決まったらさっさと行くわよ!付いてきなさい!」


先程までテンション駄々下がりだった癖にいきなりハイテンションになって先導し始めるアニエス。


「全く…お、もうすぐ会えるかもだからな。」


ハイテンションなお方に触発されたのか、いつの間にか目を覚ましていた幼女を軽く揺さぶりながらアニエスを追おうとして気づく。



目の前にいない。



辺りを見回すと後ろで俯いて何やらブツブツ言っている。


「…いけない、連れていったらまず確実にバレる…かといって見つけられないのも可哀想…」


「おーい。」「うー?」


「どうしよう…最善は口が固くて空気の読める兵士のいるところ…」


近くから声をかけても一切反応がない。というかテンションの落差が激しすぎて正直付いていけない。


「チャル分隊長なら…そうね適任かしら。確か今週の配属は…」


終いにはその場をウロウロしながらブツブツと考えている。俺の世界だったら完全に不審者認定されるレベル。


「じーじ。」


「惜しいな、どっちかというとばーばだ。」


こちらにメイスを背負った背中を向けてブツブツ言っているアニエスを指差してじーじという幼女。非常に惜しい。あとは性別の見分けが出来たら満点だったのに。中々ウロウロが終わらないので近くを通った物売りからクッキーを買って幼女には砕いてからあげつつ、自分も食べて不審者を待つ。パリッパリの固いクッキーかと思ったら意外としっとりしていて美味しかった。


「………………行くわよ。付いてきなさい。」


暫くブツブツと言っていたが自分の中で考えが纏まったらしく、歩き出すアニエス。自分の中のリトルアニエスとの対話は終わったらしい。仕方なく付いていくしかない。




「ここか?」


何故か道中にあった宮殿を思いっきり迂回して到着したのは交番を一回り大きくしたようなほぼ建ててそのままと言った感じの建物。


「よし、ユウ行ってきなさい。」


「いやお前も来いよ。」


GOサインを出す癖に一歩も動かないアニエスにツッコミを入れる。


「一人で行けるでしょうが。目と鼻の先なんだから。いいから行ってきなさい。」


「忘れてんのかよ。俺はここの兵士を何回か伸してるから結構嫌われてるの。だからお前がいたほうが手早く終わるんだよ。」


まぁその一回はコイツに頼まれてやったから、共犯と言えなくもないけど。


「う…でもちょっとだけなんだから一人で行ってきなさいって!」


「まーま?」


「そうだぞぉ。まーまは薄情さんですねぇー♪」


「くっ……!」


幼女相手にはとてもじゃないけど強気には出れないらしく、悔しそうに歯噛みするアニエス。いい様だ。


「うう……うぇ…」


「ああ!ごめんねあなたに睨んだんじゃないのよぉー。」


「まーまは怖いでしゅねぇ。」


「ブッ飛ばすわよアンタ!」


「うぇぇええぇぇぇ!」


「ああ!ごめんって!ごめんごめん!」


「おや?貴女は…」


アニエスが泣き出した幼女をあやし始めたところで後ろから声がかかった。


「げ…」


後ろを向いたアニエスが唸りをあげる。アニエスから幼女を預かってあやしながら俺も振り返ると


久しぶりに見る立派な全身鎧。


腰には流麗なロングソードを提げ、


THE西洋人と言わんばかりの見事な金髪に蒼い目のイケメン。


「アニエス。誰だアイツ。」


「クライブ。ノッチが兵隊長を抜けたところに最年少で名を連ねた剣の名手。」


そういえば前にノッチが兵士をやっていたと聞いたけれどまさか隊長だったとは。


「おや。貴方はユウ様ですか?」


近くまで来たクライブのキラキラオーラに若干圧される。


「ああ、私は貴方に敵対心は無いですよ?」


「は?」


「貴方に敵対心を持っているのは大多数の兵士ですから。」


そのうち闇討ちとかされるんじゃなかろうか。そんなハラハラしている俺とは違い、明らかに俺よりハラハラしている…アニエス。何故かさっきからクライブの一挙手一投足に精神をすり減らすかの如く百面相を繰り返している。なんだコイツ。


「ああ!そうでした。ところでひ」


そこからの行動は早かった。


沈みこんだ体勢から猛烈なダッシュ。加速の腕をそのままメイスの抜刀(?)に繋ぐと腰を思いっきり捻り…


サッと幼女の視線と念のため耳も隠す俺。


茫然と立ち尽くすクライブ。


般若と睨みあっても勝てるであろう表情でそのまま……



メイスをクライブの腹に突き上げた。




ドガァァァン!と金属質の轟音。


端正な顔立ちを思いっきり歪められ、土下座の姿勢で石畳とキスする羽目になったクライブ。


何かがツボに入ったらしく楽しそうにクライブを指差して「じーじ!じーじ!」と笑う幼女。


フーッ…と狼化した俺の様に荒い息をつく撲殺魔。


傍目だからだろうか。


なんだこれ。と思うのは。



アニエスは素早くメイスを仕舞うと踞ったクライブの首根っこを掴みあげ、詰合所から何事かと出てきた兵士をひと睨みで下げさせる。まさに暴君。


少し離れたところまで引きずって俺から距離を取るとクライブに何か耳打ちしている。その度にクライブは顔を青くし、コクコクと頷いている。


暫くすると腹部を抑えたままのクライブが生まれたての小鹿の様に立ち上がる。全身鎧に対して有効打を与える為にメイスは作られたらしいから相当痛いと思うけれど…平気なのだろうか。


「こ、こちらの方で見つけ次第…ゴフッお知らせしますので……」


「おおぅ…無理すんなよ?」


お気遣いどうも…と言いながら詰合所に消えていくクライブに正直同情の念しか湧いてこない。


「さてと、それじゃ私達の方でも調査は進めるわよ。」


もう数瞬前の出来事なんて無かったかのように俺に問いかけるアニエス。


「……まぁでも早く見つけてあげるに越したことはないしな…」


「貴女が喋れれば一番いいんだけどねー♪」


幼女の手をとってユラユラさせつつサラッと酷なことを言い出す。


「そういえば喋ってることには喋ってるんだよな…」


「ああ、『まーま』、『ぱーぱ』と一番多い『じーじ』だっけ。」


「なんか法則でもあればいいんだけどな…」


「今のところ『じーじ』はユウには適用外みたいだけどね。」


アニエスが苦笑しながら幼女の頭を撫でると僅かに身じろぎをして起き出してしまった。まだ眠たいのか目を擦りながらごねる幼女を見て、ふと側近を思い出す。


そういえば大丈夫だろうか。まぁ平気だろう。……多分帰ったら『報酬徴収です。』とかいって襲ってくるけど。


それよりもまずはこの子からだな。と先を歩くアニエスを追おうと踏み出した時


「じーじ。」


「ん?」


またしてもキャッキャとはしゃぎながらじーじ。連呼で手をバタバタさせている。


驚いたのはその手の先がアニエス。


「アニエス、ストッ…止まってくれ。」


そういえば暴走した側近を止めるときにストップの意味が伝わらなかったことを思い出して、アニエスを止める。


「今、じーじって…私だったのよね?」


「前にはお前しかいなかったし、でもお前は…」


「…………違うわよね。」


きっと自分でまーまというのは抵抗があったらしい。


「うー、まーま。まーま。」


「今はまた戻ってるわよね…」


アニエスが抱き上げてあやすとまたしてもまーまに戻る。


そのままアニエスが高い高いの姿勢に移った瞬間、


「じーじ、じーじ!」


「ええ?ちょっと…ユウ!」


じーじ呼びされてしまい困惑するアニエス。だが違う。アニエスには手を伸ばしていない。分かりづらいけれど正確にはその後ろ…


「もしかして。」


思い立ってすぐにアニエスから幼女を抱き上げてあやす。


「ぱーぱ、ぱーぱ。」


「…少し高度な煽りかたの研究かしら?」


まーま。がよっぽど恥ずかしいらしいアニエスが怒りの表情でメイスに手をかける。それを真っ向から無視して取り上げるとメイスを幼女の前に。


「……じーじ!」




「なるほどな。」


あの一族は俺に一回の来店ごとに何かしらの苦難を与えないと死ぬのか。


「分かったの?じーじが誰か。」


「何でぱーぱでまーまなのかは分かんないけどな。」


ピクッと顔をひきつらせるアニエス。ここから扱いを間違えると非常に非情な八つ当たりが飛んでくるので苦笑して続ける。


「まぁ、早く家に返してあげるか。」



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