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実際の商品はこの画像と異なる恐れが有ります。

「二度ある事は三度ある…か。」


「どしたのよ。いきなり。」


アキュリス王国、主要街道。


そこをスタスタと歩くアニエスと重い足取りで歩く俺。側近は昨日布団を干したら『幸福感…』とか言いながら眠りについて起きてこなかった。


「いや…ツェナのとこ行くってだけで、もう…どこからツッコめばいいのか。」


「別にツッコまなくてもいいんじゃないの?」


「何て言うか、ツッコまざるを得ない。みたいな。」


「……苦労してんのね。じゃあ頑張れば?」


アニエスが立ち止まり視線を向ける先にあるのは件の店。


アキュリス王国のドンキ〇ーテ。


ツェナ雑貨店。


「着いたか…」


「受けとるだけだから何もないわよ。」


自信に溢れる頼もしい発言と共に扉に手をかけるアニエス。何かあったら盾になってもらおう。


「おじゃましまーす。」「ちゃーす…」


扉を開けて中を覗くとやっぱりというか、なんというか相変わらずに散雑と多種多様なジャンルの商品がそこらじゅうに高く積まれていた。二人で商品を掻き分けるようにしながらいつもいるであろう、会計台のところに進んでいく。


「毎回来る度に思うけど、よく崩れないわよね…」


「埋まるなよ?」


「埋まるだけならまだいいけど…あ、そこ剣あるから気を付けて。ああいうのが刺さったら大変よね…」


「埋まるのはいいのか……」


アニエスの指摘のとおりに俺の首の高さちょうどに刃を向けて積まれていた剣を手甲を盾にしながら潜り抜け、会計台に着くとそこには女性のかわりに立派な西洋鎧が座っていた。


「あれ?いないのかしら。」


「いない事はないと思うぞ…扉に『営業中』って掛かってたし。」


未だ予想だにしない鎧の出迎えに困惑していると、


「…何か聞こえない?」


アニエスの聴覚が何かを捉えた。


「助けてくださーい…って言ってる。」


「ちょっと待て。」


まさか店主が商品に埋まっているとは。そうだったら掘り出さなくちゃいけないし、もし怪我していたら…最近ここで診療所を建てたと言っていたヘンリに来てもらうか。とりあえず救助しなくてはいけないので、能力で聴覚をあげて発信源を探ろうと集中し始めたその時。


西洋鎧が突如その両腕をゆっくりとこちらに伸ばしてきた。カシャカシャと小刻みに揺らしながら、腰を少しずつ持ち上げ、鋼の頭部をカクカクと揺らし、


「助けてくださーい……」


助けを求めてきた。


「「……。」」


ああっ。と情けない声をあげながら尻餅をつくようにガシャン!と大きな音をたて、再び座る西洋鎧。その反動で頭が外れて転がっていく。


「…俺はツッコまないからな?」


「とりあえず救助しなきゃね。」




「助かりました…頭の位置が届かないから外も見えないし、かといって背伸びもできないしで、もうどうしようかと。」


アニエスに鎧の外し方を教えてもらいながら二人で外し終わると、はぁー…と幸せそうにため息をついて見るからに安心しているツェナ。


「そもそも脱げないのにどうやって着たのよこれ。」


会計台の開けた場所の一角に脱がせた立派な西洋鎧を組み立て、座らせたアニエスがそれを軽く叩きながら質問する。


「あ!最近仕入れたんですけど、朝方ここにきたアルドさんとドロイさんが『使い心地が分かった方が売りやすい』て、アドバイスしてくれたんですよ!」


「つまり?そのまま着せてもらっていざ脱ごうと思ったら脱げなかったし、アルドとドロイもどこかに消えていた。と。」


「きっと急ぎのお仕事があったんですね。」


どこまでも信じるこの娘はシスティとは違ったベクトルでどこかズレていると思う。あれだろうか。意思の力で何でも出来る世界なのか。


「ところでツェナ。頼んでいたものだけど。」


「ああ!できてますよ!」


本題を切り出すとおもむろに何故か自分が座っている木箱から立ち上がり、上蓋をズラすと中をゴソゴソと漁りだした。今度は滑って頭から木箱に入らないかハラハラしながら眺めていると


「ありました!」


宣言通り手に持っている小さな木箱を差し出してきたので素直に受けとる。


肩越しに覗くアニエスの視線を感じながら開け、中身を確認。


「中身間違えてないか?」


閉じて返却。


「合ってるでしょうが。」


デザイナーが後ろから攻撃してきたのでこれで合っているらしい。


この─人間サイズにしてはやたら太いこれで。


4cm位の厚みのある革…多分肌触りから腰のバックと同じ素材の黒いそれを上から一回り細い、というより一回り太くしたような犬用の首輪状のものが上から固定するような二重構造の首輪。正面のバックルからは極細のチェーンが短く垂れ下がっているところを見るにそこに水晶を填めるのだろうけれど、先端に何もないのを見るにここには付けないのだろうか。


「あれ?これどうやって着けるんだ?」


まずは着けないと始まらないので緩めるためにバックルを弄るけれど全く動かない。


「あ、それはですね。」


ツェナが首輪の後ろの金具の一つを上に引っ張るとキンッと金属特有の響いた音と共にあっけなく外れた。


「なるほど…正面のバックルは飾りなのね。」


デザイナーが自分のデザインをすっかり忘れているという事実に軽く戦きつつ、首に当てて固定してもらう。カチッと填まった音のあと


「あ、ユウさん。水晶を預かってもいいですか?」


「あ、ああ…」


首から下げていた水晶を革の紐から水晶だけを外して渡すとまたしても後ろからパチ、カチン。と音が続き、


「固定するので少し首を前に倒していただけますか?」


大人しく首を前に倒すと木槌か何かで数回カンカン、と叩かれた。この程度なら可愛いものだ。最近は本物のメイスが飛んでくることもあるくらいだから。


「これで装着は終わりましたよ。」


そう言われて首をとりあえず色んな方向に回したり捻ったりして不具合がないかをじっくり確認。キツくもなく緩くもない凄すぎる成型技術をひとしきり体感してみる。


「水晶は後ろの金具と一緒に外からは見えないように台座に填めたあと、上から同パーツでカッチリと固定して決して取れないようにしましたよ。」


「うん…いい感じ。で、代金は?」


「あ、今回は助けていただいたお礼もあるので持っていっちゃっていいですよ。」


前回といい、ここの値段設定はどうなっているのだろうか。


「まぁ貰えるなら貰っていくけど…!」


後ろに手を回し首輪を外してもって帰ろうとしてハッとする。



─こいつ、外れないぞ─



金具があった位置に手を持っていくけれど全く引っ掛かるところなんてない、ツルツルした金属の手応えしか帰ってこない。


「何やってんのよ。」


「アニエス!ちょっと後ろ見てくれ!これ外れない!」


「…はぁ?ちょっと待って。」


後ろに回り込んで俺の首輪をクイクイと引っ張ったり叩いたり。


「…無理ね。」


「あ、私が作ったそれ専用の工具があれば開きますよ。」


そう言ってツェナが取り出したのは現代芸術も真っ青な複雑過ぎる曲線を描く針金。


「今すぐ開けろ!」


思わず大声で怒鳴ってしまった。


……それがいけなかったのだろう。


ひぃ。と驚いたツェナの手からこぼれた針金がそのまま床に当たり……


あろうことか天井高くまで積まれていた商品の隙間のすり抜け、小さくチャリンと音を残して消え去った。つまり、そう。


「回収は無理ね…」











「ただいま……」


「おかえりなさいです。」


「おお…さすがに起きてたかティリア…」


「ご主人、首。」


「ああ…笑えるだろ?取れねぇんだよ。」


「私はかっこいいと思いますよ?」


「……ティリア。」


「はい。」


「正直、助かる。」


「側近ですから。」


フンス。と偉そうに胸を張って得意気な側近に言いたい。

街中でクスクス笑われながらここまで帰ってきた苦労も消してくれないだろうか。



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