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絵心。それはまるで世界の神秘

これは難しい。


ギルドの一角、俺達が集合場所に使い続けすでに定番の場所となったテーブルの上に並べられた紙の数々を見回して唸る。


側近も無表情でストローから飲み物を吸い上げることに没頭しているが真剣に見聞している。主人がデザインした紙を一枚一枚風魔法で掬い上げては、そのまま空中できりもみにして、屑籠に放り込んでいる。これが本デザインだったら飯抜きの刑に処すところだがまだ原案なのでスルー。


「あんたはまた何してるのよ…」


「あ、アニエス。」


いつのまにか来ていたらしいアニエスが飲み物を持って立っていた。


「今度は…コレ何のデザイン?」


「ああ…俺の水晶の保管を、と思ってさ。」


戦っていて首から細い革紐で下げているだけではいずれ千切れたり最悪バク転をしたときに滑り落ちました。なんて洒落にならない。そんなことが起きないように新しいデザインというか保持用のアクセサリの図案を考えていた。


「それにしても…相変わらず凄い腕よね…」


アニエスが飲み物を机の上に置き一枚一枚見聞していく。以前飲み物を全部飲み干されたのでまだたくさん入っている俺の飲み物を自然な動きで左隣に座ってストローで飲み続けているティリアにそちらを向かずに渡しておく。


「で、今の候補がここに残ってるやつって訳ね。」


そう呟いて手を伸ばした先に飲み物が無いことに気づいたらしく改めて自分の物をとり飲んでいく。


「最終案としては体からあんまり離れない方がいいんだよ。結構俺動くからさ。」


「あんたほど動く奴の方が珍しいわ。」


冷静なツッコミに居心地が悪くなったのでティリアの方に手を伸ばして飲み物を戻してもらおうとしたけれど返ってこない。不思議に思って視線を向けるとキョトンとしてストローから吸い続ける側近。ストローが刺さっているのはまさかの俺の飲み物。


「………つい。」


「そうか。」


ちっちゃい舌を出してうっかりをアピールしてくる側近に新しいのを貰ってくるように指示して再度図案に目を落とす。…つい、の割には凄い勢いで飲んでいたのは帰ったら言及しよう。


「あんたの場合は近接というよりかゼロ距離だから…ええと。」


そう言い図案に手を伸ばし次々と見聞していく。


「耳はダメ。首から下げるのもダメ。素材変えても一緒だから。手首とかも厳しいわね。腕にノッチみたいに巻いてもあんたは腕ほっそいから無駄。」


「無駄?」


ツッコミを無視してバサバサと横に捌けていく。俺に対する配慮なのか捨てることはしないらしい。その後もああでもない、こうでもないと横に捌けていくアニエス。量が量なだけに時間がかかるようで、特にすることも無いので退屈にしているとティリアが飲み物を二つもって戻ってきた。しかし何故か頼んでいないトルティーヤの山を左手のお盆で携えているので飲み物は右手のお盆の上に俺とティリアの二人分が乗っている。さらにその口にはトルティーヤみたいな物をくわえ…食べている。その証拠に口がリスもかくやの勢いで膨れていく。茫然と変貌を遂げ続ける側近を眺めていると右手に持った飲み物を切羽詰まったように俺に差し出してくる。とりあえず受けとると半分ほど消えていたトルティーヤを掴んでモクモクと咀嚼を始めた。


「…単純に口に送りづらくなっただけか。」


隣にストンと座ってもなお食事を続ける側近を軽く流すと


「こんなものかしらね。」


ふぅ。とやりきった表情のアニエス。


厳選が終わった机の上に残っていた紙はゼロ。


「お前…」


「まぁ落ち着きなさいよ。」


仮にも人が考えたアイデアを批評ばかりで全ボツ。どこのダメ上司だこいつは。


「私が良さそうなデザインを書いてあげるわ。」


そう言いペンをもって白紙の紙に軽快に書き進めていくアニエス。


ティリアもトルティーヤの処理に成功したのか俺の横から覗き込むように眺めている。


「どうよ!いいでしょ!」


書き終わったらしく自信たっぷりに差し出してきた紙には…黒々としたドーナツが書かれていた。


「ドーナt…ムグゥ。」


余計なことを口走る側近の口を封じ、どうコメントしようか考えていると


「何よ。」


剣で刺し貫くかのような鋭い視線を感じた。


「何か言いなさいよ。」


主武器がメイスなのに鋭い視線を送ってくる金髪。


「いいデザインだったから言葉が出なかったんだ。」


「こっち見て言いなさいよ。」


視線から逃れるように後ろを向くとティリアが俺に小さくジェスチャーを送っていた。解読すると『ご主人 も 一本 食べて ますか ?』


無性に腹パンしたくなったけれどここはグッと堪えて側近の頬を片手でムニュと潰してから


「あっちにアルドがいるから聞いてきたらどうだ?」


「…見てなさいよ。」


そう言い残しアルドに向かって歩いていく金髪。想像以上に柔らかかった側近の頬を虐め終わって手を離すとちょうどアニエスがアルドのところに到着。


頬を解放された側近と実況しながら見てみる。


「見せましたね。」


「あ、ひったくられた。」


「届かないんですかね…あ、諦めた。」


「お、自慢してる…してるな。」


「アニエスのああいう切り替えの早さは良いとこだと思います。」


「まぁそうだけど…あー、笑われてるな。」


「ドーナツですからね。」


「多分本人アレ首輪か何かを真剣に書いたんだと思うんだよな…」


「あ。メイス抜いた。」


「あーあ、暴れてるな…」


「止まった。こっちに戻ってきますね。」


トルティーヤを口に運びながら何も見てませんでしたよー的な空気を醸しつつ横目にアニエスを確認すると、目にうっすら涙を浮かべ肩を怒らせまるで子供のようにキレている。


俺の隣まで歩いてくると俺の手元からトルティーヤをひったくると、代わりにペンを持たせ真新しい紙を一枚目の前に置いた。


「……書きなさい。」


顔を伏せて唸るかの如く喋るアニエス。


「……何をだよ。」


ほんとに分からないから聞いてみたところ、俺から奪ったトルティーヤを勢いよく喰い千切り


「私が今から言う内容をここに書き出せ!って言ってんのよ!!」


理不尽に怒鳴り始めた。


ここで逆らってもいいのだが後々が非常にめんどくさい。それに考えること自体に問題はない。


「分かったから座れ。」


「…ん。」


そこから指示通りに書き進め、その他の図案と一緒にツェナの雑貨屋に預け完成を待つことになった。


…ちなみにほんとにデザインは首輪だった



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