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寝起きの扱いは時に繊細。

窓を開け家の換気をするついでに自分も深呼吸をしてリフレッシュに努める。


あのメディオールの件から数日経ち、今日は昨日の段階で仕事が無いことが決まっているためのびのびと過ごせる。


深呼吸が終わると外から聞こえていた紙芝居もちょうど終わったようだ。やっぱりこっちにはこっちのお話があるらしく、主人公が味方に陥れられた後、敵を率いていた主人公の側近が窮地の主人公を救いそのまま敵を主人公と壊滅させるというよくわからないものだったけれど、鉄板らしくワイワイと楽しそうな声が聞こえてくる。それに混じって聞こえるのは我が子を呼ぶ親の声。時刻もちょうど昼に近いしあの子供達は恐らく各々の家で昼飯を食べたあと、また集合して夕暮れまで遊ぶのだろう。


どこか和やかな気持ちになって窓を閉め、寝床にしていたソファの上を整え、ベットの横に立つ。


「……いい加減に起きろ。」


俺の側近は枕に顔を埋め幸せそうに寝ていた。





まずティエルフールから最初に来たとき寝床は床でいい。と言い出したのでベットを貸してやるからそこで寝ろ。と言ったのが運のつきだったのか。段々と睡眠時間を伸ばし続け今となっては昼飯頃にやっと目覚めの兆候が見えるまでに退化した。ナマケモノでもここまでは寝ないだろう。



「ティリア。起きろ、昼飯。」


元々俺にピッタリのサイズだったので俺の肩に視線が来るティリアは肩までしっかり布団に潜りうつ伏せで幸せそうにすぴー…などと寝息をたてている。初めは外見の美少女要素に心揺らいで寝かせてあげたら本気で一日ずっと寝ていた。


なので意地でも起こさなくてはいけない。


しばらく揺すっていると身動ぎが返ってきた。ここでさらに揺すると不満げに唸り布団に完全に頭まで潜り出す。そうなるともう魚を近くで焼いて香りで釣るかしか今のところ方法がない。それで済めばいいが埋まったあと風魔法でバリアを張られたらもうどうしようもない。


身動ぎから少し待っているとうつ伏せの姿勢から背筋だけでゆっくりと上体を起こすとかけ布団を身に纏うように抱え込みながら座る。


「…………あさ?」


「昼。」


「ううぅぅ…」


未だ眠たそうに頭をゆっくり振るティリア。ここで自慢の髪はサラサラと動くことはあまりない。寝起きだというのに全く乱れていないのはもう気にしない。


「…ご主人?」


「それ以外に誰が俺の家にいるんだ…違うそっちじゃない。」


あらぬ方向を向いて被った布団から両腕をユラユラと動かすナマケモノ(進化体)。


自分の回りを腕をユラユラ動かしながらサーチを続けるとやっと手の先が俺に触れた。そのままよじ登るように緩慢な動きで起き上がってくる。ここで大事なのは決して動かないこと。下手に動いて布団に墜落するとそのまま最初からになってしまう。


仕方なくそのまま立っていると腰まで登ってきたところで体を離し、座ったままユラユラと体をふらつかせている。当然目は開いていない。それでも差し出した牛乳の場所は分かるらしく両手で持つとゆっくり飲み出した。それを見届けベットから離れテーブルに座ると飲み終わったコップを持って布団を被ったままベットから転げ落ちるように床に着陸。そのままゆっくりと立ち上がる(恐らく)と顔だけを被った布団から出しズルズルと移動してくる。何処かで見たことがあると思ったらジブリの全身真っ黒でお面の顔のアレが思い浮かんだ。


ティリア改めカオアリはテーブルの向かいにゆっくりと座ると布団から手を出した。金の粒でも次から次へと出すこともなくフォークを掴むと何回か揺れてから


「……ひららきましゅ…」


「うん、しっかり言葉を喋れ?」


朝食兼昼飯をゆっくり食べ始めた。




昼飯を食べ終わり完全に目が醒めたティリアと買い物にいった後(正確には付いてきた)は特にすることもなくそのまま夕暮れを向かえティリアは何処からか調達してきた着物を着て刀を研いでいた。


「それにしてもあれですね。」


「なんだ?」


「一日って早いですよね。」


「その半分を寝てるんだからそりゃそうだろうよ。」


しかもティリアは夜が長いわけでもなく割りと早く布団に潜り出す。だから睡眠時間だけが日に日に延びていくだけだ。


「前回の事件からも感じたのですが…もっと今ある時間を大切にしないと。ですね。」


「俺は一体何処からツッコめばいいんだ?」


「大切にしないと。ですね。」


シャーコシャーコと刀を研ぎながらしみじみとそんな正論を垂れる側近を軽く諌めるがそもそも反論は聞かないらしい。


もうツッコむのを諦めて手元の情報紙に目を落とす。


暫くして研ぎ終わったのか刀を砥石から離すとそのまま庭先に積まれた砂山に研いだばかりの刀を数回突き刺し、満足したように鞘に仕舞い刀をいつも立て掛けている場所に戻しクッションに倒れるように雪崩れ込み足をパタパタさせるとそのまま動かなくなる。


「なぁ、ティリア。」


「はい?」


情報紙を畳んで声をかけるとその体勢のまま首だけをこちらに向けるティリア。


「……研いだ刀、砂に突っ込んでよかったのか?」


「ああすることでより斬れやすくなるんですよ。ご主人を守るため手入れは欠かせませんので。」


キリッとした表情で俺に語ってくる側近。


…クッションを抱えてゴロゴロ転がっていなければ締まった空気になったろうに。


はぁー…とため息をついて立ち上がり空になったお茶を足すために調理場へと向かう。


「ご主人、私もおかわりを。」


……一回主従関係を見直した方が良いのだろうか。


結局その日はティリアが夕飯を作り食べ終わったところで流れるように風呂に入り体からホコホコとした空気が逃げないままベットに潜っていった。せめて髪を乾かせ。と親みたいな説教をすると目を閉じたまま得意の風魔法で乾かしそのまま寝た。


「……」


少し魔がさして真っ白なおでこにデコピンしたところ翌日布団を団子状にして出てこなかった。


仕方なく枕元で魚を焼くと香ばしい香りに負けたのか、涎を口の端から垂らしながら顔をヒョコッと出したところを引っこ抜くことで無理矢理起こした。



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