トラウマは唐突に。
祝(?)50話!長かったような短かったような、(絶対短い)感じですがまだまだこれから!
だって…書きたいネタが……多いんですから。
力がたまっている。変身するとそう感じていたこの感覚も何度か経験すると段々と麻痺してくる。というかこれはたまっているというよりかは…むしろこれを元に何かになっているような気さえしてくる。
「ゆっくり検証するのは後回しにしておくか。」
呟いて先程まで四肢と頭部の少しを変身させていた部分を少し拡大。腕から肩、そこから上は首を覆うように伸ばして狼耳と接続。下に向かわせた部分は脇腹をスルスルと下り、腰の始まり辺りまで伸ばしたところでピタッと止まった。たまっている分を腕に回す。腕全体をもう少し厚く、手というよりかは爪を切り裂けるように鋭く。
粗方イメージ通りに歩きながら変身してみて前を見るとマンティコアがその場で床を踏みしめ雄叫びをあげていた。
「…よぉーし。かかってこい?」
立ち止まって手招きをする。それを合図に飛びかかってきたマンティコアをまずは…軽く右の突きで!
バキィ!と後ろで何かが折れた音を聞き流し部屋の中へ向かう。多分…いや絶対折れたのはユウではなくあのライオンもどきの方だろうし、今振り向いてグロテスクな光景を目に焼き付けたくない。部屋に入るまでに生々しい音を数回聞かされ、その音から逃げるように入った中では……
予想外の光景があった。
踞り嗚咽をあげ続けるジェリー王女。
ノッチやシスティ、いつも冷静なティリアまで目の前のものが信じられないとばかりに茫然としている。
一人だけ平然と、どこか悲しそうに部屋の真ん中にあったベッド…というよりかは寝台の上に腰掛け全体を眺めているヘンリも、
この部屋にいる全員が見つめる先にあったのは高さとしては5m程のガラスの筒。薄緑の謎の液体に満たされたそこに浮かぶ…
「何…あれ。」
「木じゃ…ないよな。」
「人ですね、人ですけど…」
「生きて…ませんね。」
依然お父様の持っていた書籍を盗み見たときはるか東に王族の亡骸を乾燥させ保存する埋葬する風習があると挿絵付きのものを見たことがあったけど─その時はビックリして大声をあげてしまい盗み見たことも合わせて怒られたけれど─それとは違う。
「─『超高度治療術』。それがこの研究…いや治療の名前だよ。」
ヘンリが腰掛けたまま呟くように語り出した。
「アンタ知ってたの?これ……」
「大元は。ね。だけど机上の空論もいいとこだった。」
ハハハ、と力なく笑い言葉を紡いでいく。
「本来はどうしようもない患者をせめて楽にしようと設計したものだったんだ。でもそれすら実現は不可能だった。」
寝台から下り装置の前まで歩いていくヘンリの顔は悲しみなのか何なのかは分からなかったけどとても悲痛な表情だった。
「秘密裏に作られたものだから、秘密裏に葬ってそれで終わらせるつもりだったんだけどね…」
ソッと装置に手を伸ばし労るように撫でながら
「…痛みさえとれないというのに、目覚めさせるなんて、不可能だと分かるのに。」
そう呟いた。
「詳しいんですね…この機械に。」
「まさか、僕は聞いただけさ。」
システィが問いかけるといつも通りヘラヘラと笑いながら返し
「それよりも、だ。アニエスちゃん。ユウ君から頼まれることがあるんじゃないかい?」
「その『ちゃん』って止めなさいよ…」
はぁーとため息をついてからノッチ達に向き直り
「ユウからの伝言。『目ぇ醒まさせてやれ。』だって。」
物真似をしながら大まかなニュアンスを伝え「似てないな。」「物真似はやめたほうがいいんじゃない?」「ご主人はもっと…色々違います。」伝わりはしたようだ。
「そうは言いますけどね…。」
システィが困ったように今だ嗚咽をあげ続けるジェリー王女を見ている。
確かに私も分からない。親しい人がいなくなったことも無いしそれがさらに恋人なんて、どう声をかけていいのやら……
「…アニエスちゃん。」
「止めてって言わなかったっけ?」
全員で頭を捻っているとヘンリが声をかけてきた。どうでもいいけどアニエスちゃんで固定なのか。
「任せてもらっていいかな?」
「「「え?」」」
そう言うとどこからか服を一式取り出したヘンリ。服の系統は明らかにヘンリのようなチャラチャラしたものではない。
「それを着て物真似でもするんですか?」
疑問2割警戒8割でティリアが聞くと、まさかぁ。と一蹴して
「そんなに会いたいんなら、会わせてあげようかと思ってね。」
水晶を輝かせ、ニヤリと笑った。




