ゲームの時と通常時で性格が変わる奴は必ずいる。
私は一回スマブラの対戦中握りすぎて薬指と小指を軽く捻挫させたことがあります。
「なぁ…ユウ。ちょっと思ったんだが。」
「何だよ…」
倒したばかりのウルフを放り投げつつ、ムスッとした顔を向けるユウ。
「大分荒々しいというか…」
「変身してるとアンタ狂暴なんだけど。」
ノッチとユウにウルフ狩りの依頼を任せて
倒木に座って溜め息をついている私、ティリアとシスティ。倒すのを一任しておいてそれは無いだろうと思ったけどここはつついてみよう。
「そんなことないだろ……」
とユウは抗議したが
「頭部を果物みたいに爆散させておいてよくいうわよ。」
「仕方ないだろ。死角から来たから肘入れたらこうなったんだから。」
「そのわりにイキイキしてましたよー。」
「ご主人のいいところですからねー。」
私達が畳み掛けるように喋りかけると、困ったようで、ウロウロとしたあと
「あのなぁ…」
「─そこまで戦闘狂じゃないからな?」
「……絶対嘘だわ。」
最近の依頼での一幕が無意識にプレイバックするほど、目の前の光景は壮絶だった。
正面の兵士に正拳突きをいれ、その横から振り下ろされた警棒を今まさに倒れようとしている兵士をインパクトした正拳を開き掴みあげるとあろうことか盾に使い警棒をガード。左から突きだされた警棒はかわして兵士の頭を掴んで、盾にした兵士の頭と勢い良く打ち付けもう一度両手を横に大きく広げ、怯んでいる兵士の一人の頭を両手に持った頭で両サイドから打ち付け3人重なったところで蹴り飛ばし、後ろからの横凪ぎの一撃をしゃがんでいなし、立ち上がりつつ、殴るかと思いきや足を掴みその場に転がし、あろうことかその兵士を跨ぎながら両サイドからの攻撃を防ぎ始めた。焦れて大振りになった攻撃を下に追いやった兵士を潰すようにしゃがんでかわすと下から思いっきり踏み込んでの左の正拳突きで一人を吹き飛ばし、もう一人も警棒一本分だけ動いて避け、後ろ回し蹴りで遥か彼方まで吹き飛ばす。
「どぉしたよ…かかってこいよぉ!!」
あげくのはてに戦闘大好き人間の代表台詞を叫んで新たな一団に突っ込んで行く。
「……イキイキしてますねー。」
前線ではティリアと戦闘狂のツートップが大暴れしている為、私達は後方で逃げてきた敵の相手。といっても大抵軽く一撃で終わるのでほぼ流れ作業。
「今ほどアイツに武器持たせなくていい。って思ったことはないわ。」
呟いている間にも次々と薙ぎ倒していくユウ。正にちぎっては投げちぎっては投げを繰り返していたが最後の一人を下からの右アッパー、左右のワンツー、顎へマッハブロー、トドメに振りかぶりからの拳槌打ちで床に叩きつけてついに終わったらしい。
「……終った?」
嫌味たっぷりで聞いてやると
「まぁな。」
「戦闘経験があまり無いようで加減が難しかったです…。」
と、的はずれもいいとこの返答が返ってきた。
「さて…じゃあ残りは、」
扉の前に視線を向けるとそこには相変わらずジェリー王女とどうやら戦闘に参加していなかったらしいボリスが立っていた。
「どうあっても邪魔したいみたいね。」
「邪魔する気はねぇよ。ただもう一個聞きたいんんだがいつからやってんだ?これを。」
これだけ暴れておいて邪魔も何もないでしょ!とツッコミたかったけど何故かユウの背中に鬼気迫るものを感じて押し黙った。
「もう半年間…もうすぐ終わるの。」
「すでに終わってるだろうが。」
「終わっている?いいえ。もうすぐなのよ。」
確かにまだ実験を続けているならばまだ終わっていないだろう。ならユウは何をもって終わっているって…
「もうすぐ…もうすぐなのよ!」
私が考えていると急に声を荒げてジェリー王女が叫びだした。
「もうすぐであの頃に戻れる!彼と笑い、語らった…あの日々に!邪魔はさせない…!もう、誰にも!」
何かがとり憑いたかのようにこちらを睨みながら叫ぶジェリー王女の両目には光をみることが出来なくて…明らかに狂っていた。
「…どうしようもないですね。」
隣のティリアが俺に喋りかけてきている。だけど今は…怒りでそれどころではない。確かにメディオールの医療技術は素晴らしい。だけど俺のいた世界には当たり前と言ってしまえばそれまでだが及ばない。
だからこそ、怒りが止まらない。
すでに王女もそして恐らくボリスも、知っていて尚、それを愛と言っているのだ。
「ボリス。頼めるかしら。私は彼を安全なところに移すわ。」
「させるか!」
この場から王女を逃がすまいとダッシュで接近しようとした俺の目の前をサーベルの一閃が阻んだ。後ろに避けた俺をより離そうとボリスが隙が出来ないように突き気味のラッシュで追いたてる。視界の端ではこちらに目もくれずどこかにいこうといている王女が映った。
「…このっ!」
視力を跳ね上げ突きの手を払い、王女を追おうとした俺を素早く回り込んだボリスが上段の構えで待ち構えている。
「上等だ…」
退かないのならば…ぶっ飛ばしてやる。
駆けながら手甲を脱ぎ捨て一気にバフォメット戦の経験を生かし身体の隅々まで狼のように変化させる。流石というべきか一切怯まずに迎撃の為の一閃に集中しているボリス。あと少しで接触する直前、不意に横から何かが割り込んできた。
「「?!」」
先ず俺がダッシュの勢いを無理矢理そのまま後ろに変換させて距離をとり、それに僅かに遅れてボリスが乱入者に払うように斬撃を放つが乱入者は白髪をたなびかせながらそれらを払い俺の前まで下がってきたのは
「ティリア?」
「ご主人。少し冷静になってください。」
切り結びながら下がってきたティリアはボリスとつばぜり合いの姿勢になりながら器用に話しかけてくる。
「私にはご主人が何に怒っているのか分かりませんし…この説得が失敗したら血が上ったご主人の頭の冷まし方なんて首を浅く斬ることしか思いつきません。」
「うん他にも冷める方法あるし実際に上る訳じゃないからな?」
俺のツッコミをスルーしながらティリアは持論を続ける。
「今のご主人は…あまりにも熱くなりすぎです。私のご主人はそうではありませんし…っ!」
いきなり左手をボリスに突きだし、籠手に填めている水晶を光らせる。
ボリスは咄嗟の判断力で片腕で目を、サーベルで胴を庇いながら後ろに大きく飛んだ
「これくらいなら私で二充分です。」
創作した言葉を呟いて滑るように距離を縮めるとそのまま左足で胴に蹴りを放った。それがボリスのサーベルに阻まれた瞬間、空中で身を翻し今度は両足でのドロップキック。
サーベルを犠牲にしてかわしたボリスに剣を構えると
「だからご主人はツッコミに徹して下さい。」
半分以上今ここで言うことではないし、ツッコミ役になったわけでもないが恐らく…俺を落ち着かせようとしていたのだろう。確かにさっきぶっ飛ばそうとさえ考えてしまった。バフォメットなんて化け物すら吹っ飛ぶ力で。思いっきり。
「あ、ついでに言いますと。」
「なんだ?」
凄く大事なことを思い出したかのように振り向くと自分の目を指差し、
「ご主人の目、狼化すると右だけ黄色くなるんですね。」
「?!マジか!」
「嘘です。」
無意味なキャラ付けに怯える俺を他所にいきなり真顔になって戦闘に集中する自称側近。
一回深呼吸。
ボリスはティリアが相手してくれる。
回りの兵士はさっき完璧にコントロールできた能力で俺が倒した。
意識から抜け落ちていたジェリー王女様はこの戦闘を立ち止まって見ている。
つまりは今、
「任せていいか?」
「全然大丈夫です。」
俺はジッとしていれば言い訳だ。
「させん。あの方の邪魔だけは、決して」
誓うかのように呟いたボリスは折れたサーベルを放り捨てるとどこからか鉄球を取り出した。あんなものでどうする気かと思っているとその一部に鎖が付いていた。それはどうやらボリスが新たに握っている長めのグリップに繋がっている
「…フレイルか。」
どうやらあれが真の武器らしい。
「ボリス…とか言ったか?もう知ってんだろ?あの王女様が言ってる彼とやらは」
「そうだとしても、守り抜くのが私の使命…!」
ダメだこれは。と思って頭を振るとティリアが一歩踏み出し
「貴方は…側近として間違えています。どこが間違えているのか…多すぎるので倒れふした後、床にゆっくり─」
刀を軽く身体の前でヒュヒュンと振ると自然体のままスッと構え
「─教えて貰ってください。」
などとよく意味の解らない(恐らく)決め台詞を決めた。
「……覚悟っ!」
猛然と打ち出される鉄球。
「さてと。」
スッと自然に左手を突き出すティリア。その手のひらにはピンポン玉位の大きさの風の玉。それをクルッと表面を撫でるように回し回転を加えると、ピンッと鉄球に向け弾いた。
「おい、ティリア……」
ハッと気づいて制止をかけたのは唸りをあげて迫る鉄球ではなく、フヨフヨと漂う小さな風の玉。いかにも消えてなくなりそうな勢いと裏腹に内部は物凄い風が巡っているのが強化してる聴力ではっきりと分かった。いや…依然俺はあれを何処かで聞いたような…いや喰らった。モロではないがティエルフール、身を隠していた玉座に。とすると……ヤバイ。
「アニエス!皆!!」
俺の後ろで待機している皆に簡潔に正しく伝わるように─
「急いで耳ふさげ!」
皆が慌てて塞ぐのとほぼ同時に先ず鉄球に風の玉が当たり、押し潰されるように風が鉄球を包み、ボリスがこのすぐあとの光景に期待しニヤリと笑い、そして俺が耳を塞ぎ終わると
勢いよく風が息を吹き返し鉄球を包み込んだまま─
バガアァァン!!
と、爆音をたてて木っ端微塵になった。
「な……」
目の前の現象が信じられないと言ったように唖然とするボリスの眼前に一気に肉薄していたティリアの左手が添えられ─
「それでは、おやすみなさい。」
呟き顔の表面を撫でるように掠めた。ただそれだけでボリスはまるで糸の切れた操り人形のように膝から崩れ落ち、動かなかった。
「ご主人、終わりましたよ!」
「いや待て今なにやった。」
パァァァと輝く笑顔を向けて自慢してくる側近を諫めながら問いかけると
「え?『気苺』ですが?」
「ん?何て?」
さも当然、いや寧ろ『何言ってんの?』みたいな疑問MAXの口調で聞き返してきた。
「ああ…最初に撃ったのが私の超得意技『風輪』です。風の玉が対象に当たるとぐわっと包んでミンチにするんです。」
「……それで?」
超得意技って何だとか、そんな威力の物をティエルフールで(玉座越しとは)いえよく撃ったなとか色々ツッコミはあるけどもどうにか堪えて続きを促した。
「それでさっきのが『気苺』。これは地味です。」
人間一人瞬間的に気絶させる威力の何処が地味なのか小一時間問いただしたかったが、それで?と聞き返す。
「単純に手のひらに真空をつくって相手を酸素欠乏にして倒す…そんな技です。」
どうやらこの側近の技の地味、地味じゃないは技の派手さで決まるらしい。
「長く当てすぎると死に至ることもあるので結構デリケートな技なんですよ!」
フンス。と胸を張って誇らしそうにする側近を軽く労う。
「さて…終わりにするか。」
側近を倒され、唖然とする王女を見据えはっきりと告げた。




