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ため息をつくと幸せが逃げていきます。

前から二人の兵士がまた迫ってくる。片方を隣のティリアに任せて、突き出される棒を弾いて柄頭で一撃。流石にメイスで殴ったら良くて重症になってしまうので少し手加減をしながら次々と倒しながら前進していく。


「ほぼ無限に来ますね…」


「その割に息があがってないじゃない。」


「こう見えて意外と苦戦してるんですよ。」


そうぼやきながら降り下ろされた棒を左手の刀で反らし、素早く胴、面に叩き込み昏倒させる。その隙に両サイドからきた兵士の左側に刀を向け、受ける途中で何かに気付いたらしく素早く反して刃のないほうで受けとめ、圧されるように下がる勢いで右の兵士の喉元にカウンターの突きで倒し、押し潰される寸前、自らカクン。と膝を折ってしゃがみこみ、体制を崩した兵士の顎に捻りを加えながら延び上がり鞘での突き。


自身より大柄な相手を吹き飛ばしてふぅ。と溜め息をつく白髪の剣士。


「斬らないように。」


「ああ…そう。」


前にちょっとしたことで戦っていたから分かってはいたけれど、この娘は心配するほど弱くはないのだ。それにしても戦いかたがどことなくご主人とやらに似てるというか…


「で、このメモ通りなら正面口で合流って言ってるけど…」


最後の兵士を倒してからこちらに合流してきたノッチが大きな扉を見ながらドモっている。


「明らかに…いますね。」


システィの言葉通り確かに、いる。


「いるか?ああ…いたな。」


ジッと目を凝らして宮殿内を確認していたノッチが窓を突き破って外に放り出された兵士を見て納得したように溜め息をつく。


「では開けますね。」


ティリアが扉に手をかけた瞬間、何かが扉に勢い良くぶつかった。


「…開けますね。」


仕切り直して扉を開け放つとやっぱりいた。


午前中に来たはずだけど改めて来ると立派な正面玄関口。本来来客をもてなすはずのそこでは今、黒いコートを翻しながら踊るように兵士を蹂躙している男。


あらかた倒した後らしく先程扉にぶつけられたであろう兵士を跨いで中に入る。


「うおおおお!」


どうやら殿役らしい兵士の攻撃を避けて左手で胸ぐらをつかみあげる真っ黒黒助。


「よい…しょっ!」


引き寄せながらの右肘打ちで昏倒させ、回りを見渡したところで私達に気付いたらしい、よぉ。と声をかけてくるアイツに軽く脱力してからとりあえず返事する。


「元気そうで。」


「あ、お前がくれた軟膏。あれで縄脱け出来たから助かった。」


「…はぁ?」


何故軟膏で縄脱けする必要があったのか、呆気にとられているとティリアが倒された兵士を上を飛び越え、ユウの側に近づいていった。


「ご主人。平気ですか?」


「ん?全然平気だけど?」


「それなら…良かったです。」


ペタペタ身体を触って確認していたがユウの言葉で、とたんにホッとした表情になるティリア。


「ユウ、ヘンリはどこ言ったんだ?一緒の筈じゃ?」


「それが途中から『僕は少し用があるからね。』とか言ってどっか行った。」


「自由人ですね…」


「まぁ…そんなのどうでもいいだろ。」


ユウの言葉通り今まさに問題の建物から現れた今回の目標を見据える。


「こんなに暴れて…これは問題よ。」


「そうだな。お前のは立派な誘拐だしな。」


時間ではもう昨日見たはずの傍らに確かボリスという側近を連れたジェリー王女はいつ見ても綺麗な姿形をしていて…それが妙に違和感を感じさせた。


「悪いのだけれど…そのまま帰ってくれないかしら?この事は問題にはしないから。」


「おいおい、人拐っといてそれは無いだろ。」


ノッチの反論にジェリー王女は困ったように首を呆れたように軽く振り、


「彼らには協力してもらってるだけよ。そこの少年にも何の影響も無いでしょう?そもそも、私はそっちが思ってるような非道な実験なんてしてないわ。」


と、物分かりの悪い子供を諭すような口調で語りかけてきた。


「この扉の向こうに…私の恋人がいるの。その彼の能力は『不老』。」


ゆっくりと右に左に歩きながら歌うように語っていくジェリー王女。


「幼馴染みだったけれど彼は成人の時から一切歳をとらなくなった。悩み、苦しんでいる彼をみるのはとても辛かった…。そしてついにある日彼はこれ以上無為に時を重ねないように自身に魔法をかけて眠りについたわ。だからその日から私は誓ったわ。いつか彼の能力を上書きできるような何かを見つけて共に老いて行くと。」


そこまで語るとピタリと歩みを止め


「例えどんなことをしてでも。」


自身の決心を再確認するようにこちらに宣言した。


「なるほど?その目的の為にこの国をつかったって訳か。」


何て言っていいか黙っているとユウが質問をした。


「そうよ。ちょうどその時、前の国王が投げ出したから。」


「で?面変えたのもその時か。」


一瞬ピクッとひきつらせたジェリー王女だったが直ぐに立て直し、


「彼だけが昔のまま。なんて再会したときに虚しいでしょう?だからよ。」


今度はユウが僅かに震えて一歩前に進みつつ


「いやぁ…それにしてもその…何だっけ?彼?そんな方法で蘇って嬉しいんかね。」


場の空気を考えない発言にユウ!と叫んで止めるより前に


「貴方に何が分かるっ!!」


その細い身体の何処から出たのかと驚愕する程のジェリー王女の激昂が広間に響いた。


「愛を知らないガキが…私の……夢を汚すな!」


「汚す気なんて更々ねぇよ。」


踏み出した歩みをゆっくり早めながら近寄っていくユウ。隣で黙っていたティリアも同じように歩き出す。


「これだけははっきり言ってやるよ。」


慌てて駆け寄ってユウを制止しようとして気付く。─怒っている。それも激しく。


「そんなもん愛なんて言わねぇよ。」


そう言うと手甲を打ちならし、


「今からぶっ壊して目ぇ覚まさせてやる」


戦いが愉しくて仕方ないというような笑みを浮かべて歩いて行くユウは─


「あんた今どうみても悪役よ。」


「この滲み出るSっぷりがご主人ですから。」


フフン。と得意げに笑い胸を張るティリアに呆れていると


「まぁ仕方ないだろ。」


「ユウさんはもう暴れる気ですし。」


「順応早すぎない?」


同じく戦闘体制のノッチ、システィも並んできた。何でこうなったか…


「ユウ!」


先立って歩いて行くユウの背中に声をかける。


「殺すんじゃないわよ!」


こちらを振り向いてニッと笑うユウ。


「あのな。俺だってこっちに来てから大分戦ったりしてるんだからな?そりゃ見よう見まねの戦闘法だけど…」


そこまで言って弾かれるように振り向きつつの裏拳。よろめいた兵士の首を抱えて腹に膝蹴り。ガハッとよろめいた兵士を掴みあげて遠くに蹴り飛ばす。


そして両手を大きく広げまた歩き出す。


「俺が手加減できないとでも?」


顔は見えない。隣に立っていたティリアが親になついている子供の様にタタタと足取り軽やかに駆け寄っていく。


「…………ノッチ、ものすごく止めたいんだけど。」


「止めたら巻き込まれるぞ?」


とりあえず今私に出来ることは深いため息をつくくらい。

…ついたところで何も変わらないけど。


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