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多少情けない位じゃないとHEROなんて言えない。

「さてと…」


エステをひととおり受けた体にいつもの戦闘服の改造ドレスワンピースを着て、同じくそれぞれの本来の服に着替えたシスティ、ティリアに振り向き返り、


「ユウ達を探しに行きましょうか。」


すっかり舞い上がって置いてきてしまった男性勢の捜索に乗り出した。



「うっかりしてしまいましたね…」


「多分ご主人のことです。さっきの食堂にいないはず……」


大通りの店先をキョロキョロ見回しながら皆で見当をつけていく。


「ユウのことだから多分一番大きい病院でも見てるんじゃないかしら…。」


「「確かに。」」


さっきのエステで貰った目玉スポットが書いてあるパンフを頼りに歩いていく。


「そういえばティリア。気になったんだけど手甲?に付いてる水晶。何の能力なの?」


「これですか?」


ティリアは左の袖口を軽く捲り、装備している手甲らしきものを出した。見た感じガントレットに近いけれどそれに比べて薄い。しかも手の甲までしか寸がなく、ガントレットで覆われる指先は完全に露出している。


「私の能力は『魔法─風─』です。それ以外の基本的な魔法も使えますけど…一番勝手が効くのが風です。」


そういいながら左手の甲に嵌められている水晶を軽く撫でながら答えてくれた。


「そういえばティリアさんのその服装、以前の物とは違いますよね?」


「これはご主人にデザインして貰ったもので。」


どことなく嬉しそうにクルクルと回るティリア。…一瞬イラッとした。


「ん?あ、ノッチ。」


「本当ですね。読み通り大きい病院の前にいましたね。」


いつの間にか目的地に到達していたのか、病院の前で立っているノッチ。ノッチがいると言うことはユウも一緒だろう。


「ノッチ。あんた何でこんなとこにいるのよ。」


「あ、ああ…アニエスか…いや、実は……」


「?何よ。」


歯切れが悪そうに顔を歪めながら言葉を探るように視線を右往左往させ明らかに狼狽えるノッチ。


「ノッチさん?隠し事が絶対に出来ないのは分かっていますから早く教えて下さい?」


システィがしれっと酷いことを言っているけど事実そうだからしょうがない。問題は自分でも嘘がつけないことを知っているはずなのに今、嘘をつこうとしていることだ。


「ノッチ君。やっぱりいなかったよどこにも。」


「やっぱりか…」


病院から出てきた見るからにチャラそうな男まで加わって、ユウの話題を取り出している。呆気にとられて呆然としている私達にノッチがゆっくりと振り向き…


「あーー…ユウがな……」


また何かやらかしたか、巻き込まれたか。どっちみちあとで殴ってやろう。


「拐われた。」


「「「は?」」」


何がどうなってそうなったのか。





「んぐぐぐぐぐ…!はぁー!……やっぱり無理か…。」


必死にもがき、石づくりの床に突っ伏す。


「くそ…マジでアイツ今度合ったら殴ってやろう…。それにしてもいきなりこうするとはな……」


病院に潜入したあと、患者を装って診察を受けていたら後ろから何かを嗅がされ、気づいたら縛られて転がされていた。以上回想。


「多分…ここは牢屋だろうな。」


手を後ろ手に縛られ足までしっかり縛られているため芋虫みたいにモゾモゾ動きながら部屋を確認する。四方を石づくりの壁で囲まれているが一方のみに木の扉が備え付けられている。部屋の中には何もない。


「捕らえておく為だけの部屋っぽいな…」


捕らえておく為だけということは俺に何かする場合、日を跨がず直ぐに何かされるだろう。


「くそ…投げナイフだけじゃなくて水晶まで無いか……」


最初に縄を引きちぎろうとしたときに気づいてはいたが今俺は能力が使えないらしい。


「というかアレ、離れたら使えないのか…それに関しては収穫だな。」


「随分元気だな。」


声がかけられた扉の方に勢いよくむこうとしたが、縛られているためどうしてもモゾモゾ動くしかないのがどうにも悲しい。


「で、芋虫みたいな俺に何か用か?ボリスさんよ。」


「ほぉ…よくわかったな。」


「生憎人の声は直ぐ覚えるからな。あんたがいるってことはここは宮殿か。」


精一杯カッコつけてみるが端から見たらカッコ悪いことこの上無いだろう。


「…知ったところで何も出来ないだろう。大人しくしていてくれ。」


立ち去る足音を聞いてふと不思議に思う。


「『していてくれ』ってことはアイツが何かする訳ではないか…」


だとすれば残りは二人。


「…その前にこれほどかねぇと!何かないか?」


幸い腰のバックは取られていなかったので必死に身をよじって中身を出してみる。


「つっても水筒とか財布しかないしな……ん?これ…」


まだどうにかなるかもしれない。ただ…


「使うとなるとイラつく顔が頭に浮かぶんだよな…」







「─いっきし。」


「そのクシャミって女子としてどうかと思うんだが…」


ツッコんできたノッチを睨んで黙らせる。


何故か今ここにいない全身黒色挽肉生産機が頭に浮かんだ。


「ということはつまりご主人は、」


「うん。僕の仕事に協力してもらったら拉致られちゃった。ってこと。」


てへ。というような表現がピッタリくる態度のヘンリというらしい目の前にふてぶてしく座る男が元凶。


「ということはユウさんは今行方不明ということですか?」


「いや…居場所も更にはその理由も知っているんだけどね。」


「どこですかそこは!」


「落ち着きなさいよ。」


ダン!と手をテーブルに打ち付けて立ち上がるティリアを制してから睨むようにしてヘンリの話の続きを急かすと、諦めたように溜め息をついて


「拐ったのは宮殿…というよりはジェリー…ああジェリー様だった。とりあえずはその人。」


「トップが…何でまた他所の国の人間を?」


「ジェリー様は元々ここの前の方針を自分の為に使えないかと考えていてね。以前から少しずつ同じようなことを繰り返していたんだよ。まぁ…王座を手に入れてから宮殿内でおおっぴらにやってたみたいなんだけど。」


「自分の為?」


「うん。でその為にはどうしても能力者が必要になったらしくて、それも肉体関係の。」


「ちょっと待て。だったら俺でも良かったのか?」


シレッと自分も対象になっていたらしいノッチが慌ててヘンリに問い詰めた。


「まぁそうなるかな?全身強化なんてレア能力見逃さないだろうし。あるなら多分一番欲しかった能力だろうしね。」


「でもそれすらどうでもいいと感じる程の能力が見つかった。ってことね。」


先読みして補足するとヘンリは嬉しそうにお茶を飲みながら


「そうなるかな。しかも向こうから飛び込んできたからね。それは捕まるさ。」


などと宣った。ところでコイツ、ティリアがさっきから殺気を滲ませているのに気づいていないのだろうか。


「でも…どこで気づいたんですかね?ユウさんの能力に。」


「簡単さ。自分から教えてくれるんだから。ここに来たときに。」


「もしかして…入国審査。」


「お。その通りだよ。」


ティリアの読みも当たっていたらしい。つまりアイツは今回物凄いタイミングの悪さで入国してしまったということか。



─どうしてそうなるのか。


まぁ仕方ない。




「おや?どこに行くんだい?」


他人事の様に尋ねてくるヘンリからアイツのコートを取り返して玄関のドアに手をかける。


「何言ってんのよ。アンタも来なさい。知ってるんでしょ?ユウの居場所も。」


「…流石だね。」


「ほら!全員起立!」


仕方ないから助けてあげよう。前にオークから助けてもらった恩もあるし。


「─助けに行くわよ。」



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