美容って……何だっけ?
「…美味しい。」
「それは良かったな。」
「テンション低いわね…ユウも食べなさいよ。この…ううんと…」
「『季節外れ野菜の美容炒め』。です。」
「そう。それ。」
「俺はいいや…」
アニエスは自分の薦めた料理を食べないのが気にくわないのかムッとしたものの、すぐに食事を再会させた。
「季節外れの野菜だと栄養価が高いのか…?」
差し出された皿に盛られたどうみても普通の野菜炒めの皿の端をフォークでつつきながら愚痴をこぼす。
「…少なくともアキュリス王国にそんな記録はない。」
人数の関係で丸テーブルのちょうど反対側に座っているノッチも俺と同様、疲れきっている。
「もう…どうしたんですか二人とも。」
「エステの前に俺たちを四時間も待たせたあなた方がそれを言いますか……」
エステの店に入るとき『すぐにでてくる。』という言葉を信用してノッチと店の前にあったベンチに座って待っていたのは間違いだった。すっかり満足顔ででてくる頃にはもう昼過ぎになってしまっていた。
「それで?何でこんな大衆食堂で飯食っていこうなんて言ったんだよ。」
「店の人にここに出るって聞いたからね。」
先程から店をキョロキョロと見回していたアニエスは俺をしっかり見つめ
「国王がね。」
などと仰った。
「自分の国をほっぽりだしているなんて、どうしても許せなくてね。ガツンと言ってやらないと。」
「前から思ってたけど、お前は何様だよ。」
確かに自分の国を放っているのはどうかと思うが、説教するまで偉そうになれない。
「でも興味はありますね。どんな方なんでしょう?」
システィが的外れなことを呟いた時、不意に店のあちこちから黄色い歓声があがった。
「何だ?」
「分かりませんが…店の入り口辺りからですね。」
ティリアの言葉の通り、どうやら店に入ってきた一人の男性客に対しての盛り上がりらしい。能力で視覚、聴覚を強化して女性にもみくちゃにされながらも、にこやかに笑いかけている男を観察してみる。
年齢は恐らく20代後半位。女性受けが良さそうな二枚目の見本みたいな整った顔、茶の長髪を流し腰にサーベルに似た剣を提げ、ワイシャツみたいなシャツのボタンは何と上4つまで外し、ネックレスの先に水色の水晶体を付けていることから何らかの能力があるらしい。その上から深緑のマントを羽織り……ざっくりいうと『ホスト、冒険に出る。』がピッタリ来るサブタイトル。
「ご主人?」
「いや…アイツじゃないな。」
少なくともアレが国王な訳がない。
視線を外して遅めの昼食を処分しにかかる。料理が冷めてしまっては美味しく食べることもきっと難しくなる。
「何だったのよ結局。」
「気にすんな。」
「そう言われると気になるんだけど。」
「それよりこのあとどうするんだ?直ぐ帰るのか?」
「何寝ぼけてるんですかユウさん。このあとは後回しにしていたお店に行くんですよ?」
システィが有り得ないと言わんばかりに疑いの視線を向けてきた。
「そうよね。じゃあまずは…」
「今のところ良さそうな感じがしたのですが…」
アニエスが何処からか貰ってきたパンフを取り出し、女性勢は早くもこのあとの予定の見当に入ってしまった。どうでもいいけど聞こえてきたヘアサロンとヘアエステって何がどう違うのだろうか。
「…俺らはどうするか。」
「どうする…って言ってもな…」
ノッチと相談を開始してみたけれどもそもそも健康体どころか腹を捌かれかけてもピンピンしている男が医療大国に訪れるのが間違いではなかろうか。
「武器屋も無いだろうし…ん?」
アニエスが机にぶちまけたパンフの中に一枚気になったものを見つけ、拾い上げて確認してみる。
「『ガーネット探偵事務所』…」
「探偵事務所?大丈夫かそこ?」
「まぁ…暇潰しにはなるんじゃないか?」
冷やかしという訳ではないけれども、少し話を聞くだけでも時間は潰せるだろう。
「なあ、俺たちここに」
行ってくる。というより早く、というよりかその前に席を立っていた女性勢の姿はもう無かった。
「ここか。」
金だけは置いていった食堂で会計を済ませ、件の探偵事務所の前。
「なあユウ。そういえば話って何を聞くんだ?」
「…何か仕事のコツとか?役立つかも知れないし。あれ?」
「ん?開いてないのか?」
ノブを回してみても固い抵抗しか返ってこない。よく見ると入り口の前に置いてある看板には『基本外出中』とやる気があるのかないのか分からない文字。
「おや?僕に依頼ですか?」
どうしたものか立ち尽くしていると後ろから声がかけられた。
「ああ、すいません。少し話を…」
ここの探偵が帰ってきたかと思って振り返ったのだがどうやら間違いだろう。
「?ユウ、知り合いか?」
どう考えても先程食堂でみたこのホストが探偵な訳がない。




