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たまに頼まれる買い物って『それなくちゃダメ?』って思うものがある。

一回あったのが『きゅうり5本』。6本買って帰ったら多いと言われたことがありました。

これで何十回目だろうか。少しずつ成分や濃度を変えては試し、変えては試し。一向に進展がないように感じているのはきっと私だけではないはずだ。だがそれを口に出すようなことはしないし、監視しているこの医者どもも同じことだ。



「テストします。」


この治療を管理している医者の言葉で意識を戻し、始めろ。とだけ軽く返し隔離された一室の中に視線を送る。ガラスの筒の中、薄緑の液体が満ちたそこに一人の男が全裸で納められている。意識のない男に隔離室のなかの医者が注射器でなにかしらの液体を注入していく。医者が注射器を抜き離れるとガラス筒の装置が作動し、内部に一瞬電流が走る。しかしそれきり何も起きない。


「…失敗です。」


そんなことは言われなくても分かっている。そう言いたいが指揮が下がるのはあの方の夢の実現の遅延を意味する。


「時間をおいてもう一度だ。」


何十回目かになる指令を出し、医者どもがワラワラと集まってああだこうだと意見をかわしている。全くいつになるというのか…。飽き飽きしてきた頃後ろの扉が開き一人の女性が入ってきた。


「「ジェリー様!!」」


医者どもが作業を止め一斉に挨拶をする。


お前らごときが話しかけるな。と心の中で悪態をつき女性─ジェリー様に向き合い軽く会釈をする。


「ボリス。結果はどう?」


まるでペットに逃げられてしまった子供の様に悲しそうに問いかけてくる。─この結果をお伝えするのも何十回目か…。言葉にするのも身を裂かれるような痛みなので顔を伏せ、首を横に振る。


「…そう。」


御苦労様。と私の肩を叩き、まるで吸い込まれるように操作室と隔離室とを隔てるガラスに近づいていき、ガラスに手をつくと目に見えない何かを探すようにガラス筒の中を見つめる。


「もう少し…待っていてください。」


語りかけるように呟くとガラスから離れ、


「ボリス。分かっているとは思うけれど…」


「目覚め次第、すぐさま連絡致します。」


私の返答に安心したのか少しほころび、操作室から出ていってしまった。


「何をしている?休憩しろと誰が言った!」


手を止めヒソヒソ話している医者どもを叱り飛ばすと蜘蛛の子を散らすように慌ただしく作業に戻った。


「…今しばらくお待ちください。」


少しでも早い回復を願い、私もいつもの状態に戻る。





これで何十回目だろう。ガタガタと揺れる馬車の中で一冊の本を捲っては戻して、捲っては戻って。一向に読み終わる気配を感じるのはティリア以外の、ここにいる全員が思ってるだろう。ここらでビシッと一言いうべきか。


「ちょっと。ユウ。何してるのよ。」


先程から人の隣でバサバサしていた人物─ユウは顔をあげずに


「んー。これ?」


と素っ気なく答えた。何の本を見ているかユウが本を返して見せた表紙を覗き込むと『近隣国大図解』。


「…どんだけ悔しかったんだ。」


「ノッチ。違うんだ悔しかったんじゃない。…馬鹿にされたのがムカついたんだ。」


「要するに悔しかったんですね。」


システィのツッコミは聞こえないふりをするつもりらしく再び本に目を落とし始めるユウ。


「それよりアニエス。メディオールってどんなとこなんだ?」


「ああ…何でも医療に特化した国だとか…その前は普通の国だったらしいんだけどね。今の国王が近隣国の医者をかき集めて新しく作ったのがメディオール。」


「なるほど。医療の全て。ってか。」


呟いてまた没頭し始めるユウ。少し面白くない。


「それよりもうすぐよ。書状を出しといてね。」


「はいはい。分かりました……よ…」


本を腰のバックに仕舞ってそのままゴソゴソしていたユウがピタリと止まる。嫌な予感。


「あんた…まさか…」


「ユウ?おい?」


「ユウさん?」


「…ご主人?」


恐る恐る皆が問いかけるとユウは漁るのを止め、ふっ。と笑い


「引き返してくれ。」


狭い馬車の中で私が放ったショートフックは恐らくこれからの生涯二度と出せないであろう鋭いもの。




「お前さ、手加減って言葉知ってる?」


「する必要があるならするわよ。」


馬車から降りて国境門を通り、国の中に向けて歩きながら殴られ痛む頬をさすりながら愚痴ってみる。


「全く…ティリアが持っててくれなかったらどうするつもりだったのよ。」


「あれ?ティリアと仲直り?したのか。」


あの戦いがあったからてっきり根に持ってるかと思っていた。


「あのときは私もカッとしてたし、過ぎたことにいちいち固執したりしないわよ。」


心外だといわんばかりに頬を膨らませるアニエスさん。…ひんむかれてもそう言えるコイツの神経の太さが凄い。


「そういえば…さっき入国するときに水晶で撮られたのはいいとして、何で能力まで書かされたんだ?」


「ご主人。もしも入国したものが暴れたときに対処できるように今は殆どの国がそうしています。」


後ろからティリアが解説してくれたのはいいのだがまだ引っ掛かる。


「何難しい顔してるのよ。そんなことよりホラ。」


アニエスがつい、と前を指差すといつのまにか国に入っていたらしく、全部の国、共通の円形の大地の中に大小種別まで様々な薬局、診療所などが建ち並び、国の正門から正反対に巨大な塔状の恐らく宮殿がそびえる医療大国メディオールがそこにはあった。


「さて…今回は軟膏はスルーし、書状のみを届け、迅速に帰るぞ。」


「ユウ、軟膏はスルーしたらダメじゃないか?」


「どうやら一店舗だけらしいからな。売り切れでしたって言う。」


「…どれだけ早く帰りたんだよ。」


呆れたように首をふるノッチ。アニエス、システィも若干引いている。


「違う。俺はもう…」


そんな皆を諭すようにゆっくりと虚空を見上げて一番大切なことを宣言しておく。


「…何にも巻き込まれたくないんだ。」


「それは無理よ。」


即座に突っ込んできたアニエスとしばらくガンの飛ばしあい。


「まぁ…早く終わらせましょうか。まずはあそこの宮殿ですね。」


「それもそうね…」


システィの休戦宣言を受けて互いに距離を取り、一行は一路宮殿に向けて歩き始めた。



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