気疲れって意外と引きずる。
「…気が付いたらあそこに一人、ねぇ。」
「信じてもらえるか?」
「まぁ盗賊じゃないだけ平気さ。」
見知らぬ森の中、先程の男の馬車?に
乗りガタゴトと揺られていた。あの狼もどきを倒した事と、盗賊じゃないのが大丈夫の基準だったらしい。
「にしてもよくウルフを倒したな。ベテランの探索者でも手こずる相手だぞ。」
「ウルフ?」
「ああ、その首無しになってるソイツだ。見た感じ武器持ってないじゃねぇか。」
そう言って俺の事を興味津々に見てくる。
「あ、いや蹴ったらこうなっただけで…」
何となく恥ずかしくなって頭をかきながらそう返した。
「ふーん。というと脚部強化系か?」
「『強化系』?それ詳しくお願いできるか?…ええと……」
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はノッチ。ついでに前の牛がボーダーカウのモー。宜しくな。」
そう言った男─ノッチ─はこちらに手を差し出してきた。握手だろう。だが問題はそうじゃない。デカイ。
ノッチは身長が2メートルはあり、ボディービルみたいな魅せる為ではない完全に戦闘の為の筋肉で全身を覆っている。髪の毛は赤銅色の長髪を後ろで束ねて、それを肩まで自然に下ろしている。。その身体にランニング、長ズボンを着て、足にはサンダル。先程ウルフは強い的なことを言っていたがもしかしてノッチにとっては気にならない程度なのだろう。だって手1つとっても平均の成人男性のそれより明らかに大きい。
「こちらこそ宜しく。俺は…悠だ。」
握手しながら恐らくここでは苗字が無い…またはあったとしても上級階級の者だけだろうと思った。大体フルネームは少し長い。
「ユウか。で、ええと何の話だっけ?」
「『強化系』っていう…」
「あ!そうだ。俺らは産まれたときに大体1つ能力を授かるものなんだ。まぁ大抵が身体能力の向上程度なんだがな。」
「でも例外もある?」
俺が知りたいのはむしろそっちだった。
「うーん。たまに二つ持って産まれたり、身体能力じゃなく、動物とかと喋れたりチョーノーリョク?だか何だかを使えたりするのが産まれるらしいが…」
「なるほど…」
どうやら強化系の能力というのはあくまで身体能力の延長らしい。ということは俺の性質はあくまで性質な訳で…
「急に項垂れてどうした?酔ったか。」
「いや…軽く絶望しただけだ。」
俺の性質は能力とは無関係らしい。
「よく分からんが…何だって(外れの森)にいたんだ?」
「それは俺もわからない。気付いたらこの森に転がって…」
その時、電撃走る。いや実際流れた訳じゃないけども。
「なぁノッチ!これ何か分かるか?」
首から下がっていた水晶体をノッチに見せながら訪ねる。
ここはかなり大事な所だ。
もし、『それは何々のカギだな。』という返答なら全力で投げ捨てる。待っているのはカギを使った面倒ごとだからだ。
『いや?知らん。』この場合も投げ捨てる。後に絶対これを狙ったアドベンチャーが開幕してしまう。
「知ってるもなにもそれはだな…」
この世界の住人なら誰でも知っているものらしい。それほど有名なものなら直ぐに投げ捨ててやる。
そう思い、握った手に力を入れたとき、頭の中からまた例のキィーンという音が聞こえてきた。
(これは何だ?握力…いや腕まで?)
気付いたら握っている右腕全体に力が籠っている。
だがこれはこれでいい。これならより遠くに投げられる。
「産まれたときにみんな持ってるぞ?」
「( ; ゜Д゜)」
「いや、何だその顔。」
「え、これ…みんな?」
ノッチはランニングの中に手を入れると赤い水晶体を取り出し見せてきた。
「ほらな?こいつの色で大体持ち主がどんな能力か分かるようになってるんだ。だがユウの色は見たこと無い……どうした?」
「いや…何か…どっと疲れた。」
世界のカギとかそんなんではなく、
みんな持ってるものらしい。
ふと空を仰ぐとどこまでも広がっていて、白い雲がいくつか浮き、そこを我が物顔で飛ぶ─アヒル。
「あ。ノッチ。」
「どうした?さっきから変だが。」
「こっちも空って青いんだな。」
「…基本毎日青いぞ?」
ノッチに本気で心配されたのは
言うまでもない。