良かれと思っても確認をとってからやるべき。
「いい?どちらかの手から木刀が離れるか、参った。って言うまでだから。」
「はい。分かりました。」
場所は宮殿近くの国営公園。アニエスとティリアはどうやらお年寄りや小さなお子さまが遊ぶこの憩いの場で決着をつける気らしい。
「ノッチ!審判は平等にしなさいよ!」
「分かってるよ。」
アニエスの手には木刀。いつものメイスではない。心配になって駆け寄って一声。
「お前平気か?いつものメイスじゃないけど…」
「問題ないわよ。それにサーベルの使い方なんて誰でも学ぶわ。」
「学ばねぇよ。」
一体どんな軍事国家だ。
とりあえずアニエスは大丈夫そうなので、無茶すんなよ。と言い残しティリアの元に。
「ティリア。アニエスはなんか知らんがサーベル位は使えるとか言ってるからとりあえず注意な。」
ティリアは俺の忠告を聞いているのか木刀に目を落として黙っている。
「おーい。」
「ご主人。」
スッと顔をあげ、真紅の目を俺に合わせ
「…頂いた刀が使えません。」
「使わんで宜しい。」
そもそも何故斬る気マンマンなのか。
Noを出されたからかどこかシュンとするティリア。
「まぁ…あんまり怪我させるなよ?」
そう注意して離れる。
「じゃぁ…始め!」
ノッチの号令と共に駆け出すアニエス。そのまま腹部に鋭い突きを放つが木刀で払いかわす。素早く引き今度は足に突き。バックステップでかわしたティリアにクルッと返し
「はっ!」
足ごと斬るように跳ね上げられた木刀を少し驚いたように木刀で受け、素早く後ろに下がるティリア。
「ふふん♪どうよ。」
ドヤ顔で構え直したアニエス。
「私は強いの…よっ!」
またしても肉薄し次々にラッシュをかけていく。
「あ、そうか。アイツギルドのエースだっけ。」
「俺も忘れてたけどな。」
審判をしているノッチと決闘を見届けながらそんなことを言い合う。
「ユウさん、ティリアさんは強いんですか?」
「強いと思うけどな…俺も腹捌かれかけたし。あ、そうか。」
「何か気づいたのか?」
ノッチが聞いてきたので少し推理したことを正直に言ってみる。
「さっきあんまり怪我させるなよ。って言ったから怪我させずに勝とうとしてるのかも。」
「まさか…でも確かに防戦一方だしな…」
「ユウさんを捌きかけたほどなら強いはずですしね……」
「どうよ!私は強いって分かった?」
アニエスはラッシュを少し止め、呼吸を整える為少し距離を取った。
「攻めて来なくちゃ私には勝てないわよ!」
「そう…ですね。」
ティリアはそう呟くと木刀を腰に居合の様に構え
「なら覚えておくといいですよ。…勝ち方にも色々あると。」
あ、本気だ。と思った瞬間ティリアは先程の雪辱を返すかのように一気に肉薄。
「はっ!」
神速とも呼べる居合をアニエスは木刀で受けるが咄嗟だったため上体が少し浮いてしまう。足元を薙ぐような一閃をアニエスが飛んでかわすとティリアは振りきった勢いを利用しての体当たりを浴びせ、アニエスを後退させた。
「やればできるじゃないのよ!!」
「はぁぁああ!!」
二人は気合いを叫ぶとそのまま激しい剣劇を始めた。互いの攻撃をかわし、逸らし、弾き木刀が耐えられるのか心配になるほどの戦闘を公園でしている。
「…俺のいた世界だったら普通に捕まるな。」
「しかしユウのいった通り強いなあの娘。」
「そうですね。アニエスさんと競ってますよ。」
「あ~何だろうな…何か違和感があんだよ…」
「アニエスが木刀でも剣を使ってるからじゃないのか?」
ノッチはそう言うが違和感を感じるのはティリアの方だ。俺が闘った時、確かティリアは斬撃が主体だったはずなのに今は突きが多い。それに俺の発言には基本的に服従するティリアが突きで決着は考えにくい。突きは一歩間違えたら相手を殺しかねないから。考えがいまいち読めずジッと見ているとティリアの突きに不自然さを感じた。あれは…突きというよりは引っかけようとしている?
─まさか。
「セイッ!」
アニエスの斬り払いをかわしたティリアが俺が思い至った考えを裏付けるように動き出す。
─おい、待て。
アニエスの斬り払いのために開かれた足の間、戦闘服を兼ねたワンピースのスカートをこれまでとは比べ物にならない速度の突きが貫いた。
─止めろ。
突きを外したと感じたアニエスは上段に振りかぶりティリアの頭に寸止めをいれようとしている。
─それはダメだ。
ティリアは俺の願いを無視するように突きを放ったその姿勢のまま体を動かし始めた。
─ギャラリーだって集まってるんだぞ?
アニエスはその動きに不自然さを感じたらしく事故が起きないように少し斬り下ろす速度を下げている。
─止めろ…ティリア!
キッと視線を険しくしたティリアは突きの右手に左手を添え
─俺に後で来る、とばっちりを考えろ!!
一切の躊躇なく思いっきり一回転した。
……アニエスのスカートを勢いよく引き裂きながら。
「─きゃぁああああああ?!」
持っていかれた布の量からもはや戦闘どころではないと感じたアニエスは攻撃をキャンセルしそのまましゃがみこみ、スカートが隠していた箇所の隠蔽を図るがティリアが持っていった量から今ロングから一気に超ミニまで引き裂いていっただろう。とてもカバーなんて出来はしない。ティリアは木刀にぶら下がる布をアニエスの前に持っていったが、俺が(直視していたら後で怒られるので)横目で見たティリアの表情から返す気はないらしい。布の奪還の為伸ばしたアニエスを嘲笑うように上段に振りかぶりつつ自分の後ろにスカートだったものを放り投げたティリアはそのまま今度は振り被った勢いで縦に一閃。ちょうど胸のまん中、そこの生地のみを引き裂いた。
「きゃぁああああああ!あんた!ちょっと!待ちなさい!!」
上まで軽く剥かれたアニエスの悲痛な叫びも聞く気はないらしいティリアは残った布地まで切り裂きにかかる。
「ちょ!待ちなさい!本気で!待ちなさいって!!」
左手でミニを精一杯伸ばしつつ後退りしながら右手の木刀で防御するアニエスだが、ティリアは一切容赦せず残りの布も引き裂くつもりらしい。ラッシュは止まない。
片手で後退しながら防ぐことはできないらしく次々と腕や脇腹辺りの布地が引っかけられては宙を舞っていく。
「アニエス!参った!参ったって言わない限り多分ティリアは止まらない!!」
「ま、参った!参ったから止めてぇ!」
その言葉を聞いたティリアは本当にピタッと止め木刀を仕舞った。
アニエスの元に駆け寄ると元々着ていた物の原形が分からないほどにボロボロになった布を身に纏ったアニエスが小さく縮こまっていた。
「あー。アニエス。俺の指示じゃないから。な?」
引き裂かれ隠すものが少なくなったアニエスにコートを貸すと、あっという間に俺の手からもぎ取り素早く着た時コートと入れ替わるように裾からワンピースの成れの果てが投げ込まれたタオルの様にパサリと落ちた。そして
「死ねぇ!!」
という感謝していない言葉と共に俺の顔面に木刀が叩き込まれた。
「ティリア。」
「はい?」
「何であんなことをしたか、説明してくれるかな?」
あのあとコートを持っていったアニエスはノッチとシスティに宥められながら一時的に目が腫れて開かなくなっていた俺を流石に悪いと思ったらしく俺の家に連れていってくれた。アニエス達はそのまま服屋に直行し、ティリアは俺に治癒魔法が効かないことに困惑したのでとりあえず宥め顔を能力で鏡を見ながら再生させたのだが、明日無事にコートが戻ってくるかは五分五分だろう。喉が渇いたのでティリアにお茶を要求して、先程の戦闘の疑問を尋ねた。
「ああでもしないと参ったって言わないと思ったので。」
と何か私悪いことしましたか?みたいなキョトン顔で二杯淹れたお茶の内片方を渡しながら答える。
カウチソファに座ってお茶の受け取って口を直ぐ飲めるよう、ぬるめに淹れてあるお茶で口を湿らせ
「ティリアなら木刀を撥ね飛ばすくらい出来るだろ?」
と聞くと、ティリアは失礼します。といいソファの空いている場所に座ると
「出来ましたけど…その程度なら直ぐに拾って『まだ負けてない!』と言うかと。」
と、当然のように答えた。…確かにその程度でアニエスが負けを認めるなんて場面が想像できない。
「ですからあのような手段に。」
エヘン。と胸をはるティリアだが、何でだろう。誉めたくない。
「もし、参ったって言ってなかったらどうしていたんだ?」
「全部剥いでも尚。ですか?」
「OK。分かった。」
どうやらマジで剥ぐ気だったらしい。
「そういえばこの前薪が無くなったとき躊躇なく使ってないタンス火にくべたよな……」
結果を出すためなら課程はどうでも良いらしい。ティリアの扱いを学んだところで疲れが押し寄せてきたのでカウチソファの伸びている部分に寝転ぶと直ぐにティリアが掛布をかけてくれた。軽く礼を言った後直ぐに眠くなって来たので最後に気になっていた疑問を尋ねた。
「そういえば、ティリアは何であの決闘?を受けたんだよ…」
「そうですね…強いていうなれば退いてはいけない。と感じたから。ですかね。」
そのティリアの言葉は睡魔に掛せれてほぼ聞き取れなかった。




