刀と太刀って実は違う。
「ふぅ…これどうしようかな…。」
場所は自室。ティリアに食材の買い出しに行かせ、一息ついたタイミングで郵便屋が到着して雑貨屋ザイフからの贈り物を置いていった。
「いや、向こうに任せるって言ったんだけど…まさかこれになるか…」
幾つかめぼしいデザインは出来たのだがきめることが出来なかったので、纏めて送って任せた俺が悪いのだが予期せぬ物が採用されたらしく、それが今手元にある。
「どうもこうも…見つからないようにしないとな…見つかったら何て言われるか…」
「普通に可愛いから私は好きですよ。」
「うわぁぁ!」
いつの間に帰っていたティリアが後ろから声をかけてきた。
「いつ戻ったんだ?」
俺が問いかけるとしれっと座り、戦闘服を見て、
「デザイン通りですね。見たとおりです。流石ご主人。」
うんうん。と嬉しそうに頷いて新しい戦闘服を持ち上げ誇らしげなティリア。
「デザイン通り?」
「ええ。ご主人が描いて置いてあった中から私がこれ以外を抜き取っておいたので。」
「俺が持っていく前…だと…。」
いつの間に抜き取ったんだコイツは。俺が家にいる間は常に俺の視界にいたというのに。
「ご主人。これは頂いていいですか?」
「ああ、いいよ。」
過程はどうあれ喜んでもらうのは嬉しい。戦闘服なのだからティリア自身が気に入ったデザインがいいだろぉぉおおぉおお!
「待て待て待て!!ここで脱ぐな!」
いきなり目の前で着ていたシャツを捲りあげ始めたティリアを阻止。
「他に空いてる部屋はご主人の寝室なので。」
「そこでいい!そこで着替えろ!というか今はお前の部屋にしただろ!」
なお捲りあげようとするティリアのシャツの裾を抑えながら反撃するとムッとした顔になったのを感じたので
「ティリア。いいから向こうで着替えてきてくれ…」
「ご主人がそう言うのであれば。」
そう言うと戦闘服一式を抱えて消えていってくれた。
「…忘れてた。ティリアって呼ばないとああなるんだった…」
ティリアが家に住みついて『これからは名前で呼んでください。』と言われてから、ティリアを呼ぶときに名前以外で呼ぶと何故か頑なに俺が名前を呼ぶまで意固地になる。何でなんだ?と聞くといつも『側近ですから。』としか返して来ない。
意固地になったティリアはいつもの気遣いを完全に忘れ手がつけられないほど面倒くさくなるので今ではすぐに名前を呼び直すことにしている。
『ご主人。』
水を汲んでソファに戻るとドアの向こうから声がかかった。
「どうした?」
『包帯が買い物袋の中にあるので取って頂けませんか?』
「怪我でもしたのか?」
木箱の釘で指でも切ったのかと思って救急箱を持ち出そうとしたのだが、
『いいえ。サラシです。』
「…は?」
『今までボディースーツだったので必要がありませんでしたが、今回の戦闘服は必要そうなので。』
「あのさ、ティリア。」
『はい。』
「恥じらいって知ってる?」
『羞恥の感情。…ですよね?』
どうやら俺とティリアの間には深い深い常識という溝があるらしい。買い物袋から包帯を取り出してドアに転がし置くと少しドアが開き、白い腕だけが姿を表し包帯を掴んで消えていった。
「…流石にそのまま出ては来ないか。」
ホッとして呟くとコンコンとドアがノックされ、
『ご覧になりますか?』
「ならん。」
どうやらティリアは耳がいいらしい。
暫く時間がかかると言っていたのでもうひとつの依頼品を受け取りにトワフの元に行き、物を受け取って帰宅。ドアを開けて入ると自分の立ち姿を見回しているティリアがいた。
「ご主人。如何でしょうか?」
「…まぁ…何だ。自分でデザインしといてなんだけど…それでいいのか?」
「私は気に入りましたよ?可愛らしくて。」
クルクルと回って自分の姿を確認するティリアは急ごしらえのシャツ姿ではなく、上は赤白い着物の裾を少し短くしたもの、着物の下に赤の襦袢を着て防御力の上昇を計り、本来袴を履くはずだが代わりに赤のミニスカート。少し短い茶色のブーツを履き、生足だと脚部の防御が薄いので白のハイソックスを履きカバー。
…色々言ってるけども一行にまとめると
『ゲームとかでよく見る巫女衣装。』
「自分でデザインして『これってどうよ。』って思ってたんだけどなぁ…。」
「私は好きですよ♪ご主人は気に入りませんか?」
首をかしげながら訪ねてくるティリアは似合っている。似合っているけども…
「まぁ…いいか。それよりもほら。」
手に持っていた細長い包みを軽く放って渡すと大事そうにしっかりと抱えてキャッチしてくれた。
「…これは?」
「ほら。俺が前に剣へし折っちゃっただろ。その代わり。」
恐る恐る包みをほどいて中を確認。包みの中にはトワフに頼んだ一振りの長剣─太刀が納められていた。
「ご主人…」
「まぁ…何だ。うろ覚えの製法で作ったからボロっちいかもだけどな。」
ティリアは太刀を手に取ると抜き放ち、刀身から何かを聞き取るかのようにジッと見いっている。
「…ありがとうございます。大切に使わせていただきます。」
白の鞘に納めてこちらを向き、お礼を言ったティリアはよほど嬉しかったのか目にうっすらと涙を浮かべていた。
「銘は好きに決めていいぞ。」
気恥ずかしくなって顔を反らし、水を飲んで誤魔化す。
「そうですね…銘ですか…」
太刀に語りかけるように指先で軽く撫でながら考えるティリア。
「今はまだいいです。」
「良いのか?」
てっきり決めるかと思っていたので意外そうに聞くと腰に太刀を装着しながら
「まだいいんです。ご主人の側近として活躍してから、その時にしっかり名前をつけてあげます。」
そう言うと俺の少し前まで歩き、スッと片膝を立て、
「改めて宜しくお願いします。ご主人。」
再度確認するように遣える宣言をしたティリアは少し傾き始めた日の光を受け、少し輝いて見えた。




