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一人の楽しみも大勢の楽しみもどっちも大事。

カリカリ。沸き上がってくるイメージを書いては消してを繰り返し書き上がった出来の良いものを残しておく。仕事が無いので手甲とコートは家に置き、最近落ち着く場所になってしまったギルドのカウンター席でデザインを繰り返していく。


「何書いてんだ?」


「アルド。あれ?ドロイはどした?」


「ん?アイツは今日違う仕事だ。それなんだ?デザインの仕事か?」


アルドはカウンターの上のデザインを指差し、聞いてくる。


「違う違う。ティリアの戦闘服のデザインだよ。」


「ああ…こないだ連れてきた愛人?」


書き続けて短くなった鉛筆を腕を変化させて一気に握りつぶす。バキバキにおれるくらいかな?と思っていたらパァンと炸裂音とともに芯の部分と枠木の部分が混ざりあった鉛筆だったものが出来上がった。


「「…おおぉ。」」


怒る側と怒られる側で揃って感動。


「相変わらず凄いのう。」


いつの間にか俺の左隣に座っていたチョウガが感嘆の声をあげる。


「『身体強化』…いや『身体変化』かのう。」


「どう違うんだよ。」


「『身体強化』はあくまで身体の強化…って前におしえたでしょ。」


いつの間にか俺の後ろにいたアニエスにいきなり怒られる。アニエスはアルドを押し退けて手に持っていた飲み物を机の上に置いて俺の右隣に座ると説教を続けてくる。


「『身体変化』はあんまり知られてないから詳しく知られてないけど、決められた生物と融合?した姿になってその生物の能力が使えるとか。」


「ついでに泳げなくなったりすんのか…?」


「それは知らないわよ。」


吐き捨てながら俺のスケッチを手に取り、パラパラと捲りながら


「相変わらず凄いわね。もういっそデザイナーとして生きれば?」


ごく自然と俺の飲み物を奪い去って一息で全て飲み干した。


「あれ?無くなった…」


「俺のだったからな。元々量少なかったしな。」


仕方ないのでもう一杯注文し


「そういえばティリアは?一緒にトワフに行ったんじゃなかったのか?」


アニエスは今度はしっかり自分の飲み物を手繰り寄せコクリと飲んで


「結構こだわりがあるみたいで、まだ選んでるわ。」


「こだわり?」


「ええ…何でも『片刃直剣、軽量で折れにくい』…何だっけ。カタナ?ないですか?って。」


「カタナ…?あんのか?」


「ワシは聞いたことがあるのう。何でも東の島国の方で使われてる剣だとか。」


「…ちょっと行くか。トワフんとこ。」


幾つか書いたデザインの中で出来が良かったものをクルクルと丸めて立ち上がる。


「ティリアは今どこ?」


「あの娘なら今服屋よ。いつまでもボディースーツ姿じゃいられないでしょ。」


「なら素早く終わらせるか。」


アニエスも立ち上がってついてくる。


「ちょ、ちょっと…待ちなさいよ!」


太陽が頭の上からサンサンと差し込む外に踏み出していった。





『なぁ…チョウガさん。』


『なんじゃ。』


『あの二人…気付いてやってるのか?』


『片っぽは気付いてないが、もう片っぽは……』


『片っぽは?』


『…どうじゃろうなぁぁぁぁあ。』


『確かに。』


『『ハハハハハハハハハ。』』


『ハハハ…あーじれってぇ……。』


『それが端から見た青春なんじゃろ。』






「いらっしゃいませ。おや。ご夫」


「「お客様ですよね?」」


二人揃って脅迫(お願い)。


「して、二人は今日はどのような?」


お願いはしっかり伝わったようで嘲りモードからいつも通りに戻ってくれた。


「私はついでよ。メイス、キレイにしといてもらおうと思って。で、メインがあっち。」


壁に掛けてあった剣の一本を手にとって抜き放ってみる。始めに僅かな抵抗感のあとにシャラァァと金属質の音をたてて抜けた。窓際に掲げてまじまじと見てみる。


「ユウ様も剣を?」


「ああ…いや俺じゃなくて。ティリアの。今日来ただろ?」


「ああ…あの白髪で黒い上下の服装の。ユウ様の愛j『ギシッ』知り合いの方ですか?」


最近身内のお陰で腕部の変化なら一瞬で出来るようになった自分が怖い。


「…重いかな?」


軽く振りながら呟くとそこら辺にあった木箱に座ったアニエスが同じようなものを手に取り


「そう?まぁユウはそう感じるのかも。一般的な重さよ。因みに今ユウが持ってるのがこの国の兵士が使ってる一般的な剣。」


「ああ…道理で。見たことあると思った。」


「カタナ?というのをお探しでしたが。ユウ様はご存じですか?」


「それについての話をしに来たんだけど…のるか?」


剣を鞘に納め壁に戻しニヤッと笑いかける。


「面白いですね。して、必要な物は?」


「ああ、先ずは……」


紙を広げて図解しながら次々と書き進め、説明をしていく。






「長かったわねぇ。」


「先に帰ってれば良かっただろ。」


「長かったわねぇぇぇぇぇぇ。」


「…悪かったよ。」


トワフを出て帰り道、石畳で舗装された夕焼けに染まった街道を並んで歩く。アニエスはどうやら自分が


「で、どのくらいかかるの?」


「うーん…二週間、かな?」


「長くない?」


そう言われてもかかるものはかかる。


「まぁいいわ。じゃ、また明日。」


「じゃーな。」



アニエスと別れたあと少し歩きすっかり馴染んでしまった家の戸を開ける。


「お帰りなさいご主人。私にしますよね?」


「選択肢を持たせてくれ。」


ツッコミをいれて家に入る。アキュリス王国に来てからティリアは俺の家に住むつもりらしく、試しに昼間に外に出し、『朝まで正座で微動だにしなかったら許可する。』と提案して窓から伺っていると夕方になり街灯に火が点りはじめても本当に微動だにせず正座で固まるティリアの前にお婆さんがお供えものを備え始めたので流石に家にいれた。


「それにしてもいつの間に買ったんだ?それ。」


ソファに座りながらティリアが来ている黒のシャツと同色の長ズボンを指差す。


「買ってませんよ?」


「…俺のか?」


「はい。」


はぁー、と溜め息。何をしれっと着ているのだろうか。恥じらいという単語はティリアの辞書にはないのか。そんな疑問が次々と沸いてくるが今更ツッコんだところで何も変わらないのは初日に分かっていることなのでもう無視。


「そういえば、ティリアの故郷ってどこだ?」


「私ですか。私は東の果て、倭国から来ました。」


「…東の果て?」


「ええ、ティエルフールより更に東にある国です。」


お茶を淹れて俺に渡しながら答えるティリア。


「何でそんなことろから?」


「そうですね…修行、もあるのですが…少し……」


項垂れ、コップの縁を指でなぞりながらいいよどむ姿を見て少し後悔した。


「家庭内でいざこざがありまして。」


「は?」


「両親ともにご主人のような黒髪なのですが私のこの容姿から父親が私を溺愛し始め、居づらくなってきたので。修行も兼ね


て飛び出したのです。」


ということはティリアの故郷が別に壊滅したとか、孤児になってしまいここまで流れ着いたとかそうではなく、向こうの世界でもよく聞くこれは


「…つまり?」


「家出ですね。」


俺の心配を返せ。


体の力が抜け真っ白になってドーンと後ろに文字が踊りそうな勢いで項垂れる。


「ご主人、お疲れでしたらマッサージしますが?」


抵抗を止め素直にうけたマッサージはプロ級の上手さだった事を特筆しておく。



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