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静電気は冬の代名詞

静電気防止グッズすら貫通してくるアレにイラッとするのは毎年のこと。

「先ず、機動力を削がせてもらおうか…なっと!」


グッと身を屈めて一息に駆け出す。いつも通りの力…じゃないことを完全に忘れていた。


「!っとお!」


懐に飛び込むだけのつもりがもう腕も突き出すのが遅いくらいにまで接近してしまった。


「こんの!」


やむ無く宙を思いっきり蹴り体を捻って一回転。出来た自分に呆れながらバフォメットの腹に左の肘で一撃。怯んだところに右の狼撃。そこから繋ぐつもりだったのだが黒い毛皮に包まれた俺の腕が上腕の半ばまでドンッ!と突き刺さってしまった。


「うっわ…加減なしかよ今回は!」


左腕を腹に当てて一息で引き抜くと今度は逆に左手が鋭く突きたち指が埋まってしまった。また添えて引き抜くといたちごっこになってしまうため、左腕を横に払う。狼が獲物を切り裂くようにバフォメットの腹に四本のラインが刻まれたのを確認して、軽くバックステップ。バフォメットの間合いから逃れ、攻撃をやり過ごして再度今度は調節して接近。


「やっぱり打撃はリスク高いよなぁ…」


さっきみたいに突き刺さったら冷静さを戻したバフォメットに多分捕まれてしまう。


「なら引き裂くか!!」


両手を鉤爪のように引き絞り、意識を集中して爪をより鋭く伸ばし開き直ってウォォォ!!と狼の様に吠えて再度接近。右の突きをかわすついでに左手を突き刺し皮膚を裂きながらさらに懐へ。左手を抜くと同時に右足の踏み潰しが来たので手を床に刺して逆立ちの体勢から一回転しかわす。着地と同時に右足をスルリとすり抜けて吹き飛ばしたあの一撃をイメージしてダッシュの姿勢からワンステップ。キィンと能力を更にブースト。完全に狼のように毛皮に包まれた全身の毛を置き去りにする勢いで全力で打ち出す。


「ぜぇ…らあぁぁぁ!!!」


再びの大音量の炸裂音。粉々に砕けた蹄の中を潜り抜け、腰をつき始めたバフォメットの背後に回り込み、尻尾をかけ登り


翼の根元に三歩で到着。両腕を背中に挿した剣を引き抜くような形に持っていき、


「有言……実行!!」


翼を両腕で一気に引きちぎる。グルォ!と吠え背中の俺ごと壁に叩きつけるつもりのようだ。頭の方まで駆け登り空中で回転して回避。


「ユウさん!!」


その声を聞き、バフォメットの頭を踏みつけてアニエス達の元に戻る。転がるように着地し、システィの後ろから度重なるダメージからまだ立ち直れていないバフォメットを見る。


すれ違った時にみた決意の表情のシスティの回りに浮かんでいたのはソフトボール大の電気の玉が六つ。


「これは私が放てる最大の魔法。せめて…苦しまずにいかせてあげます。」


左手をバッと前に突き出すと六つの玉が宙を滑りバフォメットの頭上でピタッと止まった。スッと開いた左手を掲げ下に降り下ろす。その合図を受けて六つの内の一つがピカッと瞬いた瞬間、腰が抜けるかと思うほどの轟音を響かせソフトボール大の玉からは有り得ない量の雷光が迸りバフォメットの全身をスッポリ飲み込むほどの極太の雷が襲った。しかしバフォメットは体の一部から煙をあげながらシスティに向け接近を始める。そこに更に左手を掲げ親指を折り畳んだ左手を降り下ろす。そして残りの一個が瞬き、再びの轟音。気丈にも向かっているバフォメットの全身を焼いていく。今指を曲げると一個が雷になった。そして伸びてる指も残ってる雷球も残り四つ…まさかあれ全てが。そう思ったときにコートの裾が軽く引かれる。


「…ちょっと隠れさせて。」


プルプルと子犬の様に震えているアニエスさん。


「何お前雷ダメ?」


コクッと弱々しく頷きながら


「……音と、光が。」


「致命的だな。」


いつもの感じになりそうだったが、バフォメットの怒りに満ちた咆哮に気を引き締め直す。


「もう…おやすみなさい。」


システィが呟く。そして止めることなく指を折り畳みながら連続で雷撃を浴びせる。


三発目。ぅやぁ!と悲鳴が後ろからあがる。


四発目。みぃいい!と悲鳴をあげながら蹲るアニエス


五発目。バフォメットの絶叫。──ッ!と無音の悲鳴と共にコートが下に強く引かれる。


六発目。耳が慣れてきたのか少し小さく感じる雷鳴と共に咆哮をあげようと口を開いたバフォメットの顎が舌ごと焼かれ、俺のコートがビッと悲鳴をあげる。


六発目の雷光が止みバフォメットは体の至るところが焼け焦げ、翼と尻尾はもう焼き落ちてしまっている。ピクピクと動いているのは果たしてバフォメット自身の動きか、はたまた雷撃の電気がそうさせているのかもう分からない。


「うう、お、終わったぁ……?」


「ああ…終わった…と……。」


ソロソロと俺のコートの影から覗くアニエスを安心させてあげようとして気付く。バフォメットの足元。その一点が不自然に輝いている。そして左手を降り下ろしたままのシスティ。…まさか。


「それでは─


ゆっくりと手を返し指を広げ


──おやすみなさい。」



バッと手を振り上げたと同時に輝く床の一点から今までの雷撃を集めて放たれたような、いや実際そうなのだろう。バフォメットから20m位離れている変化して伸びた前髪が直撃を食らうはずなどないのに少し焦げた。音はあまりの電量からか、何も聞こえない。一瞬目の前がホワイトアウトし、色彩が戻ったときにドサッ。と後ろから聞こえてきて鼓膜は無事だと安心した。アニエスは倒れたあとその衝撃で目を覚ましていた。ズズン。と沈んだバフォメットを確認したシスティはクルリと俺達に振り向いて


「どうでしょうか?」


などと仰った。アニエスは喋れそうにないのでノッチの方を見て、互いに目で会話。コクッと頷きシスティに向き合い、


「「…宜しいんじゃぁ…無いでしょうか。」」


良かったです!と元気な声に返せたのはハハハ…と乾いた笑いだけだった。


「あれ…アイツ……何処行ったの?」


アニエスの呟きに視線を巡らせると確かにイレウスの姿がなかった。


「ここから逃げるとしたら、北門から外に出るしかないです!」


システィの情報提供もあり、行くところもすることも決まった。


「アニエス!」


「…よし、お、追うわよ……。」


「うん。無理すんな?」


俺のコートにしがみつきながら絞り出された声に迫力は皆無だった。



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