猫耳カチューシャってあれ、本来の耳と猫耳で四つ耳があることになる気がする。
「作戦はどうする?」
「私が下を攻めるからユウは上中段を!互いに危なそう、大きな一撃の前はサポート!」
「ハハッ、それ雑…っとお!」
横凪ぎに払われた尻尾をアニエスはスライディング、俺は飛び越えてかわし、さらに肉薄。
「ユウ!先ず尻尾をどうにかして!」
「無理言うな!変わりに羽もぐ!」
繰り出された右腕をオークの時のように上って回避。しかしグルォと短く吠えると俺ごと壁に体当たりしようとしたので飛び降りてかわす。壁に激突したバフォメットに追撃を仕掛けにいったアニエスは左足の蹴りをかわすために阻止される。体制を立て直したバフォメットは砕けた壁の一部を俺に投げつけてきた。
「何で私にこないのよぉぉぉ!!」
俺の前に躍り出て意味のわからない怒りと共にその両頭メイスで瓦礫を砕く。お前は後でも大丈夫だと思われたんだろ。と心で思い、砕かれた物陰に紛れ接近しようとしたが鋭く伸ばされた左足が瓦礫ごと先程まで俺たちがいたところを踏み抜いた。素早く足元に潜り込み
「足元に気を付けろ、よ!」
床についていた蹄の足、その蹄と肉の間に狼撃を打ち込む。ガァァン!とダメージをしっかり与えた感触と共に全力で待避し、右足での追撃を回避。足元から目の前に転がりでた俺を睨み付ける。
「だから無視するなぁぁぁ!!」
バギィン!とメイスの一撃。忘れそうになるがあれでも精鋭なので砕けはしないものの確実にヒビにはなっただろう。
バオォォォォォォ!!と怒りの咆哮をあげたが膝をかけ上がる俺をしっかりロックオンし左腕で思いっきり凪ぐ。思いっきりバフォメットの腹部を蹴って静止をかけさらにバク宙でギリギリかわす。しかし今度は右腕を大きく振りかぶり俺と足元のアニエスごと潰しに来る。
「かわしてください!!」
うおっぉ!とノッチの焦り声と、ちょ、ヤダ待って!とアニエスの叫び声からいち早く回避しないと死ぬ。と察知。目の前にあったバフォメットの左腕を追撃など気にせず思いっきり蹴って距離をとり、床に転がり落ちながらバフォメットを見た瞬間、青い電気で作られた雷槍が振りかぶったバフォメットの右腕の付け根、更に腹部に轟音と共に突きたちそれと同時にパァン!と空気が破裂する音に加えてバフォメットから電流が至るところから迸り、そのダメージの大きさを物語る。バフォメットは想定外のダメージに崩れ、頭を振ってダメージを振り払おうとしている。
「大丈夫ですか!」
後退しながらそのまま後衛まで戻った俺にシスティが声をかけてきた。
「…危うく黒こげになるとこだったけどな。」
多分俺でもあれは死ぬ。
「にしても…固すぎじゃない?」
それに関しては同意だ。能力つきの蹴りを食らわせているのにいまいちダメージを与えた感触がない。
「もう少し…時間を稼いで頂けますか?」
「システィ?」
システィを見ると確固たる自信があった。
「私の打てる最大火力で攻撃してみます。最悪でも隙は出来るかと。」
「そうは言うけどなぁ…」
ノッチが唸るのも無理はないだろう。あのバフォメット相手に時間を稼ぐのだから相当にうまくやる必要がある。その上恐らくシスティの最大火力…絶対に雷系だろう。かわし損ねた瞬間仲良くバフォメットと黒こげになる。
「ユウ。あんたなら行けるでしょ。」
「…やっぱりか。」
異議を唱えたいところだがバフォメットはもう先程のダメージから回復している。
「分かったよ。…まぁちょっと試したかったこともあるしな。」
そう言ってバフォメットに向かってゆっくり歩きながら直感で手甲を外し、床に置いてから一回深く深呼吸をして気分を落ち着かせる。
前から思っていたことがあった。俺の能力は『力を籠めてパワーアップ』ではなく、『力を籠めてどうにかなる』ものじゃないか。と。思い出したら色々思う節がある。オークにぶん殴られたとき、ここで堀に落ちたときに発揮した超回復。パワーアップと片付けていいのか判断に困る籠めた後の上昇率。極めつけはアニエスの魔力検出器をカチ割ったとき。あの時確かに俺の手から何か出ていた。
指摘されたように先ず自分の中心を感じる。能力を使うときに聞こえてくるキィィンという音も何処か遠くに聞こえるくらいに集中。次に中心から体全体に深呼吸で溜めた息を吐き出すように行き渡らせる。指の末端に至るまで全て。バフォメットの射程内にもうすぐ入ってしまうがそれを続ける。行き渡ったことを確認してから今度はそれを体の外にも回す。お馴染みの音が両手足、胴体、頭部の計六ヶ所から独立して様々な音域で響いてくる。バフォメットが右腕を振りかぶるのと同時に頭に響いていた音は段々と一つの音に混じっていき、キン。と小さく残し、消えた。
バォォォ!と絶叫の咆哮共に突き出される突き。俺は軽くステップを踏み着地と同時に右腕を引き絞り狼撃の構え。床を踏み砕きながらバフォメットの右腕を迎撃。
ドゴォォォン!!と開発塔を音波で壊しかねないほどの大音量と共にバフォメットが塔の壁まで一直線に吹き飛び、壁の一部を崩しながら激突しギャオォォォォ!と悲鳴らしきものをあげている。
突きだした右腕を見てみると半袖のコートの先、手甲を脱いだ素の腕が黒く染まり、手は狼と人間のそれを足したような形になり爪の部分が獣のように鋭く伸びている。変形した手を握って開いてを繰り返しても支障がないが引き裂くには十分な長さ。夢のような変身を遂げ軽く感動しているとバフォメットが瓦礫を砕きながら再び起き上がり俺に怒りの咆哮を向ける。何度も見てはいるがその固さに頭を掻きながら振り返ろうとして、猫耳カチューシャの様に自分の頭頂部の髪が変形し犬耳…いや狼耳かそんな感じの物が生えてきている。笑い飛ばそうとして犬歯が伸び牙のようになっていることに気づく。
「…呼び名通りになっちゃったな。」
バフォメットは隙だらけの俺に先程の一件を警戒しているのか起き上がったまま様子を伺っている。
「いいかコラ、この野郎。こっからは俺も全力だからよ…」
ステップを踏み、調子を整え
「うっかり死ぬなよ!!」
時間稼ぎをするため地面にヒビを入れながら駆け出す。




