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非奥義、ラムチョップ。

…聞いたことあるけどどんなものだったか忘れた。(´・ω・`)

「ねぇ。ノッチ。」


「何だ?」


イレウスを追っている最中、ノースエリアのどうやら開発塔に向かっているらしい。


「今アイツが人間辞めた気がするわ。」


「妻の勘か?」「以心伝心ですか?」


「どっちも違うわっ!」


なんかこう上手くは言えないけれど、そんな感じがした。


「まぁそれはあとでいいだろ。今は。」


いつの間に到着していた開発塔の扉をあけて中に入る。


「…何よこれ。」


入った中には塔という名前のわりに一階しかない割に重苦しい空気を醸し出している。


「ここが、開発塔だったのですか?」


「なんつうか…闘技場か?」


以前は魔導書などが並べられた本棚がそこかしこに立ち並び、日々生活のための魔法を研究していたところらしい。ところが今はそんな過去が全く無かったように…


「あんなものは邪魔だったので退かしましたよ。」


奥から現れたのは件の人物。イレウス。


「例えばこれ。魔力管。魔法の伝達を助けるものらしいですが、兵器に使えるとは思いませんか?」


「兵器?」


思わずピクッと反応してしまう。


「だからそう言ってるじゃないですか。」


「違う。」


システィが一歩手前に進み出て反論する。


「兵器なんて作るわけない。この国の魔法は」


「その生活の為ぇ?だったか?それが意味わかんねぇんだよ!」


何が琴線に触れたのか、突如激昂し手に持っていた魔力管を床に叩きつけわめき散らす。


「こんだけのものを作れんだから兵器なんて容易いだろ!それを何だ?生活の為とか何言ってんだよ!」


「黙りなさいよ。」


わめき散らしていたがピタリと動きを止めてこちらを見てくる。


「アンタが何言おうが勝手だけどここを馬鹿にするのは許せないわ。」


「そういえばここら辺の共通の常識があったな。アニエス。」


ノッチが大剣を抜き構える。


「害虫は排除、だ。」


「害虫?ハハハ。私がぁ…?」


「今アンタ意外に誰がいるのよ。」


「違う!違う違う!貴様らも!貴様らも私を見下すのかぁ!!違う!!私は俺はぁ!!お前らとは違う!!」


頭の中の何かを掻き出すかのように勢いよく頭を掻きながら大声で叫び始めたイレウス。最初に見た時にユウが感じたという違和感が少し分かった気がした。


「…本当に偉い人物って自分で偉いって言わないもんよ。」


あんまり喋っているとこちらまで馬鹿になりそうなので早めに片付けるために腰のメイスに手を伸ばす。開発塔は差し渡し50m位、後ろに3mほどの扉、反撃するより早く終わらせてやる。


「ハハァ。違うんだよぉ…偉いからさぁ…偉いからこんなのも……造れるんだよぉ!!」


叫ぶと同時に勢いよく横に飛んだ。遂にイカれたか。と思ったがバゴォォン!!と轟音と共に扉を吹きとばし現れた巨影に驚く。頭は羊のそれを無理矢理人体に乗っけたような姿をしている。背中からはコウモリの様な翼を生やし、鱗に覆われたトカゲの尻尾を巨大化したようなものを引きずることなく立っている。


「…な、何よあれ。」


「ヒヒヒ…凄いだろうぉ……バフォメットっていうんだよぉ……」


明らかに正気を失っているイレウスが何か言っているがそんなことは気にならない。今は目の前にいる異形の化け物の細かい動きに気を配る。


「さぁ…やれェ!!」


その指令を待っていたように後ろに立っていたイレウスをその尻尾で弾き飛ばし、猛然と飛び掛かってくる。ノッチが大剣を盾にし、一撃を後方に滑りながら受け止めた。すかさず片腕でもう一撃を繰り出そうとするバフォメットの足に遠心力を加えたメイスで殴打し姿勢を僅かにずらす。その隙に抜け出したノッチが斬りつけるが素早く後ろに飛ばれかわされる。


「っ!コイツ」


「アニエス!」


追撃に出ようとした私をノッチが呼び止め、物凄い速さで振るわれた尻尾をギリギリでかわしたけれどあまりの勢いに二人共姿勢を崩して転んでしまう。グシャリと顔を狂喜に歪め踏み潰そうとしてくるバフォメット。


「伏せてください!」


閃光が迸り、バフォメットに迫るがまたしてもすんでのところでかわされた。しかし新たな敵を確認したようで最初の位置まで戻り、こちらを伺っている。


「…早すぎないか?」


「あの巨体であのスピードって…」


ゆっくりと構えを取り直ししっかりと捉えられるように身構える。横目でイレウスを確認すると吹き飛ばされて塔の壁に激突したまま、完全に伸びていた。


「バオォォォォォォ!!」


その一瞬をとられバフォメットが大きく吠えた。開発塔そのものを揺るがすような咆哮に身をすくませてしまった瞬間バフォメットは跳躍しノッチを上から踏み潰そうとした。しかしノッチは咄嗟に頭上に大剣を盾にし、ズガァァン!と轟音を響かせしっかりと支えている。


「こっの……!」


ノッチは能力を使って抑え込んでいるが、上からの巨体に潰されないようにしているので、足元の床は踏み抜かれ、陥没している。


「離れなさいよ!」


更に自重をかけようとしたバフォメットに向かって駆け出した。グルッと顔をこちらに向け尻尾がヒュン。と引かれた。


「くっ……」


勢いよく身を翻し、追撃を読むためバフォメットを見た瞬間、読みをはずしたことを悟った。バオォ!と叫ぶと共にノッチを踏んでいる大剣を足場に飛びかかった先は─システィ。


先程の雷撃を見た羊面は先ずそれを封じる気だろう。


「ぁ…。」


システィは魔法で攻撃は出来るが当然戦闘なんてしたことはない。遅い来る化け物相手に固まってしまっている。私は今からでは間に合わない。ノッチも距離は離れていないが踏み台にされて前方に大きく体制を崩してしまっている。


狂気に歪んだ羊面だったがビクッと全身を強ばらせ翼まで使い、入ってきた扉まで下がっていった。


「うわ…バフォメット、だよな。何でもありかよ。」


間の抜けた声。少なくとも今この場で出すような声ではない。


「ユウ…よく追い付けたわね。相手は?」


「ん?ああ、のびてる…はず。」


頭を掻きながら前線に出てくる。


「ユウ。腹、血ぃ出てないか?」


「ああ…ドスッと。」


「「ドスッと!?」」


「塞がってるからもう大丈夫だろ。」


笑いながら腹を擦る馬鹿。…本当にコイツは。


「先ずアレだろ。アレ倒してから、イレウス。」


「アンタさっぱりと言うけどねぇ…」


「まぁいいんじゃないか?倒さなくちゃいけないし。」


こちらの空気が嫌だったのか、先程の咆哮を放ってくるバフォメット。


「ホラ。早くしないと。」


「分かったわよ。あ、システィ!危なくなったらコイツが盾になるから安心しなさい!」


「は、はい!」


後ろで固まっていたけどどうやらもう大丈夫らしい。


「俺かよ……」


隣にまで歩いてきたユウを見るとそこかしこに血をつけながら項垂れているが、使える人と能力は適材適所。項垂れてる?そんなの知らない。


「俺が後方を守っとくからなぁ~。」


ノッチはもう後方まで下がりきっている


「あー、もう。じゃあ…やりますか!」


ユウと同時にバフォメットに向け駆け出していった。



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