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走ると横っ腹が痛くなるのは大人の仲間入り。

筋肉痛が翌日以降に来るのは中年の仲間入り。(´・ω・`)

「うーん、ううーん。」


「どうした?アニエス。」


逃げたイレウスを追っている最中、あまりに味方はいないらしく、ノースエリアを駆け抜けていく。


「いや…あのマント。女の子だったじゃない?」


「そう言えばそうでしたね。」


「アイツのことだから……あの娘仲間に引き込むんじゃないかなって。」


「「ああ……」」


あり得る話だ。普通の人ならまず馴染めないギルドの面々相手に僅か三日でツッコミをしているくらいだし。


「心配なのですね…」


「ああ…きっとユウの隣の危機だからな。」


「違うわよ。」


そんな事実は認めない。


「アイツがやられないか心配なだけよ。」


「苦しいですねぇ。」


システィとノッチのニヤニヤが凄く鬱陶しい。…私を夫婦と弄ってくるけどこの二人も大概だと思う。


「何も心配いらないだろ。相手が化け物なら尚更な。」


「…まぁユウも化け物に近いけど。」


ノッチのニヤニヤもウザい。…とりあえずアイツは戻ったら殴ろう。




「はああぁぁっ!」


気合いと共に繰り出される斬撃のラッシュを手甲とレガースで反らし、弾きかわしていく。何度か斬り結ぶ中で剣を折れないか何度か攻撃してみたのだがあまり効果はないようだ。本体は攻撃したら折れてしまいそうなのでどうしようもない。さてと…


「!おっとぉ!」


俺の首スレスレを剣が掠めていった。かわしたついでにバク中を何度かして離れ、


「まぁ…やってみるか!」


今度はこちらから接近。こちらから来るとは考えていたのだろう。クルリと剣を逆手に持ち変えて床を滑るように移動する俺を刺しにきた。左手を床に刺し急停止、目の前に突きたった剣を踏み台にして相手の背後に飛ぶ。しかし剣からあっさりと手を離し前転するように俺と空中と床とで立ち位置の変更。突きたった剣を中心に着地すると、それと同時に振り向きざまに右手で突き出されていた相手の左腕を弾く。剣を折ろうと伸ばした左腕を捕まれ相手は左足で剣を踏み、俺を思いっきり剣に引っ張った。このままだと肩からスライスされてしまうので右の手足で能力つきで踏み切って体を目一杯反らして剣の腹を撫でるような形でギリギリの回避。もし俺の家系に外国人がいたらきっと鼻が削ぎ落とされていただろう。そのまま俺の腕を握りながら一本釣りのようにそのまま投げ飛ばされる俺。暫く転がりうつ伏せで停止した俺を薙ぐように斬撃が迫ってきたのでその場で体を捻ってジャンプし仰向けで背中から着地。振りかぶりからの切り下ろしは足で剣を握る手を抑えて防ぐ。


「失礼!」


とりあえず女性を蹴ってしまうので断りをいれてからお腹に一発。軽く蹴ろうと思ったけど剣を滑り込ませての完全ガードだったので能力つきで思いっきり蹴り抜く。あわよくば剣が折れることを期待したのだが後ろに飛んでいなされてしまう。互いに起き上がり、構える。


「…何故本気で来ないのですか。」


ムッと、というよりかムスッとして問いかけてくる。構えを少し整えながら


「…本気でやったらお前の首がちぎれちまうからな。」


「冗談にしても笑えません。」


「…だろうな。」


ふぅ。と溜め息をついて


「だけどここに来てから『殺さない』ことを信条に戦ってんだ。俺はな。」


「なら覚えておくといいですよ。」


カチャリと剣を真っ直ぐ俺に向けて突きの構えを取り、


「相手を見くびると死ぬ。と」


ドッと腹に衝撃を感じた瞬間左脇腹に剣が刺さっていた。刺さったままグルリと垂直に立った剣。このまま俺を三枚下ろしにする気だろう。その剣を激痛に耐えながら左腕で脇腹から弾き飛ばす。抉りながら抜けた剣の軌道を確認しようとするが激痛で視線が霞む。膝をつきながら目を開き見ると俺の首めがけて上段からの斬り下ろしが見えたので咄嗟に差し出した右手で剣を握りしめ止めた。このまま剣を折ろうと力を籠めようとした瞬間、がら空きになった左脇腹を爪先蹴りが直撃。


「がっは……」


あまりの痛みに吹き飛ぶことも出来ずにその場で崩れ落ちる俺に左手が突き出される。


「…終わりです。」


轟音と共に吹き飛ばされ、床を数回バウンドし、塔の中の浮遊箱に背中から激突し、止まった。激しく喘ぎながら現状を確かめる。恐らく左脇腹はミンチだろう、腹も玉座を木っ端微塵にしたアレを喰らって原形を留めているのが不思議な位だ。出血の量は見るまでもなくズボンの腿まで湿ってきたことから大体分かる。


「…手を抜くからそうなる。」


薄れる意識のなか恐らく相手が喋っていることが聞こえてくるが、それすら段々遠くなってくる。


「まだ人体として残っているのが驚きですが」


─悪かったな。驚かせて。


「彼も違いましたか…仕事も残っていますしそれを片付けましょう。」


─馬鹿いうなよ。


俺から離れ、塔の北に向かっていた相手がこちらを向き、驚いている。そうだろうな、俺も立てるとは思ってなかった。


「…面白いなぁ…俺。」


自分の体の異常を再確認し、激痛を抑えて立ち上がり溜めた呼気を一気に吐き出す。まだ激痛は止まないが…行ける。


「何で……」


有り得ない。という表情が声にまで滲んでいる。だろうな。実際俺も自分で自分が気持ち悪い。


「なら覚えておけ。」


肩で呼吸をしながら口に貯まってきた血を吐き出して指差し、


「簡単には死なないやつもいんだよ。」


呆気にとられたように固まっていたが、


「良いでしょう。そこまで追い込まれたら流石に『殺さない』なんて言えません。」


チャキッ。と構えられた剣先を見据える。


さっき思いついた無傷での決着。


「今度は、仕留める!」


さっきと変わらない突き。だがあちらにもダメージがあるのか格段に遅い。俺の首を飛ばそうと襲いくる剣先を首を傾けかわし、右手で柄を握りしめ左手を横から打ち出して剣を刀身と柄に分ける。驚愕の表情とともに遅すぎる速度で突き出された左手を後ろに回り込んでやり過ごす。こちらをゆっくりと振り向いた顔には『殺される!』と書いてあるが、やや黒くなっている俺の腕を素早く細っこい首に回し入れ、そのまま三角絞め。素人がやっても威力なんて無いが殺すのが目的ではないし気絶が目的だ。ギリギリと絞められながら悔しそうに問いかけてくる。


「こ、これだけ強いのに…何故……」


「殺すために強いんじゃねぇよ。『殺さないように強いんだ』……間違えんな。」


「…甘いですね。」


その声と同時にカクッと首が倒れたので痛む腹のキズをおして支え、念のため脈をとると息はしっかりあった。そっと下ろしてから溜まった疲れを一気に吐き出す。


「痛ってぇ…腹思いっきり斬られんのって痛いな…」


脇腹辺りが裂かれたシャツの上から確認してみたがどうやらもう血は止まっているようだった。口の端から垂れていた血を少し拭い、


「さてと…俺も追わなきゃな。」


まだ少し痛む腹を気にしながら北側に走った。



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