少年は必ず必殺技を再現しようとする。
私はそんなことはせずに、一心不乱に気弾を出そうとしていました。(´・ω・`)
セントラルエリアの中心にある塔─名前らしいものは無いらしい─は今主がいなくなった上、バシリスクの出現から撃退により入り口が慌ただしくなっている。そこを伺う物陰が四つ。建物の角から上から順に赤銅、栗、黒、金の頭がじっと覗いていている。
「警戒してる…のか?」とノッチ。
「いえ…どちらかというと侵入者を警戒してるものかと。」とシスティ。
「よっぽどやましいことでもする気なんだろ。」と俺。
「どちらにせよあれだけ警戒してるってことは何かやる前ね。」とアニエス。
首を一旦戻して作戦の確認。
「入り口には四人しかいないわ。まずユウチームが突撃。私のチームがそこを突いて一気に雪崩れ込むわよ。」
しれっと立つえげつない立案。
「けどまぁ…時間ないしなぁ。」
クライス女王が隠れている宿だっていずれは兵が行くだろう。─よっぽど馬鹿じゃない限り。
「おい。ユウあれ。」
ノッチが差す先に
「おいおい…マジかアイツ。」
今まさに塔の一階に浮遊箱で降りてきたイレウスの姿。それと昨日のマントの人物。
「指揮官としては失格ね。」
つまらなそうに吐き捨てるアニエス。
「アニエス。作戦変更。そっちが回りの兵をやってくれ。俺が一気にアイツを倒す。」
「…あんたがそう言うってことはあのマントがヤバイわけね。」
俺の目を真っ直ぐ見ながら返してくるアニエス。ふぅ。と溜め息を吐き、
「分かったわ。じゃあ…作戦開始ね。」
真っ直ぐに兵士に向かって歩いていくアニエス。
「あ、あのぅ……」
オドオドしながら兵に声をかけるアニエス。俺とノッチは込み上げてくる吐き気を隠せないが初対面の兵は見た目に完全に騙され、デレデレしている。
「…アイツ中身知ったらあの顔溶けるぜ」
「甘いぜノッチ。俺は血涙に一票。」
「お二人……」
その中身知らずの兵はまだ騙されているようだ。
「どこに行きたいんですか?」
「ええと、その…」
そう言いながら少し腰をひねり、正面を隠すアニエス。
「どいてくれない?」
誰でもコロリといきそうな笑顔(中身を知らない場合に限り)を浮かべながら、放った強力なメイスの一撃(中身を知らなくても同様)を横腹にめり込む勢いで喰らい吹き飛んでいく可哀想な兵。そのままメイスの突きでもう一人を突き倒す。
「な、このアマ!」
「アマじゃなくて悪魔じゃないか?」
巨体に見あわず静かに回り込んだノッチが残り二人の頭を鷲掴みにし、その二つを打ち合わせて同時にダウン。
その隙間を縫って塔に侵入。慌てふためくイレウスに手を伸ばすがガシッと右腕が目深のフードマントの人物に捕まれる。腕を勢いよく引き抜き、上体が少し揺らいだ俺の顎に向け重厚なガントレットに包まれた右腕の払いが迫ってくる。戻そうとした上体をまたしても反らしかわす。ギリギリまで反らした俺に突き出されたのは─玉座を吹き飛ばした右腕と同じくガントレットに包まれた、しかし圧倒的な危機感を孕んだ左腕。ヤバイと感じ左腕を右足で蹴りあげ反らした瞬間、頭上で轟音。
その勢いに押されながら床を転がり退避。
「ユウ!」
入り口の兵を片付けたアニエス達が塔の一階に到着したようで声をかけてくる。サッと視線を奥に向けると転げながら北の方向に逃げていくイレウス。
「アイツ追ってくれ!」
俺が叫ぶより早く駆けてくれたアニエス達に安心した瞬間、またしても悪寒。左腕を盾にするとギャリィィン!と金属音。鈍色の業物らしい片刃の直剣をクルリと反転させ左足を切り落としにかかってくる。左足で踏み切りかわし、刀身を上から蹴り折ろうとしたが相当斬れるものらしく踏みつけると刀身が勢いよく床にサンッと音をたて半分ほど埋まった。その光景に視線を一瞬奪われた隙に右手でコートの襟を捕まれる。ドンッと突き飛ばすわけではなく押し当てられた左腕からヒュォッという風切り音。逃れるためにコートを軽くずらし左腕を滑らせて回避。幾度か聴いた轟音。完全にかわしきれず頬が軽く斬れ、血が飛ぶ。
右での突きで追撃しようとしたとき、左の脇腹に衝撃。ねじ込まれた右の肘を掴み
「せらっ!!」
踏み切って左膝で背中を蹴り飛ばし、距離を取る。先程と逆になった立ち位置になりそこから互いに距離を取る。
「…しぶとい。」
そう呟いたマントの右手には先程めり込んだ剣が握られている。光の反射具合からも刃溢れなどはないようだ。
「そりゃどうも。」
咄嗟だったとはいえあれほどの業物で斬りつけられた左腕を確認すると手甲の鋼鉄板が少し削れているが手甲の本体と腕はしっかりと付いている。
「今回は戦うんだな。」
「今回は。保護対象に危害がありそうだったので。」
スッと半身になり剣をこちらに突きだし、構える。
「前回は吹き飛ばしてくれただろ?」
「面白そうだから。」
けろっと言う。あまりに面白かったのでハハと笑うと
「人を笑うのは失礼です。」
「そうかよ。お嬢さん。」
その返答は気に入らなかったのかムッとした口調で
「…根拠の無い疑いはやめた方が。」
俺がクライス女王に敬礼したときもこうだったのか。と思いながら、
「んな甲高いかわいい声してよく言うぜ」
左手で口元を抑えて、少し声をくぐもらせながら
「手加減してやるとでもいうつもりですあ?」
最後の『あ』はきっと押さえていたから噛んだのだろう。
「いや、男でも女でも手加減しねぇと、首がもげるからな。」
そう言いながらいつもの構え、左半身で腰を落とし両腕を開く。
「そのマント取らねぇと、かわしづらいぜ?」
「…そうですか。なら試してみてください。」
剣を上段に振りかぶり肉薄してくる。片腕では防げないと判断し両腕をクロスして受ける。動きが止まった俺に左手が迫る。それをまた足で蹴り飛ばしてかわす。チャキッと俺の心臓に狙いを定めた剣先が煌めき、突きが繰り出される。今度こそ能力を使い、残った左足一本で踏み切り回り込んであえて左側にかわす。そして左の狼撃。見えないところからの狼撃は完全にはかわしきれず、フードを引きちぎられマントも持っていった。斬り払いの剣をかわしまたしても距離を取る。
「な?かわしづらかったろ。」
声からある程度予想はしてたが、透き通るような腰まで伸びる白髪にクライス女王と似ているがこちらの方が鮮やかな真紅の瞳のどこぞの金髪と真逆の冷たい印象の少女が現れた。
残ったマントも自ら剥ぎ取るとマントの下は黒いボディアーマーらしい服装だったらしい。……うん。見た目で女性ってこっちは分かるな。
「確かにそうでしたね。では…」
先程と違い体の前で両手で剣を構え、
「仕切り直しです。」
さてと…向こうは手加減しなくてもいいが、こっちは手加減しないと冗談なしであのほそっこい体はまっぷたつになる。
とりあえず俺が今出来るのは
「ああ、そうだな。」
精一杯見栄張るくらいか。




